13
名前――名前。
十中八九、わたしの名前のことだろう。この名前については、散々言われてきたことだ。
おかしい名前だって、新しいクラスメイトが陰口を叩いているに違いない。
わたしの陰口を叩いている人たちの中に入っていく勇気がない。
気味の悪いマネキンがいる、という事実と同じくらい、この状況で教室に入るのは、わたしにとって恐ろしかった。
「でも、だからって、どうするんだよ」
男子生徒の声。……少なくとも、久慈くんじゃない。さっきの声も、琴葉ちゃんとは別の子のものだった。
もしかして、二人はいないのか、と思ったけれど――そんなのは、わたしの勝手な希望に過ぎなかった。
「……変える、とか?」
そう言ったのは、琴葉ちゃん。
「今? まだ二年だけど」
久慈くんの声も聞こえてくる。
あの二人の声がして、本格的にわたしは教室内に入ることができなくなってしまった。
このクラスにやってきて、まだ数日。人となりをハッキリ分かっているわけではなかったけれど、あの二人は優しいと思っていたのに。
「でも、先生が許可くれないわよ。今年入ってきた先生で、クラスを持ってるのは土湯先生と真壁先生だけ。でも、真壁先生はここ出身だから絶対駄目だって言うと思うわ。ほら、このクラスの真壁くんの従妹なんでしょう?」
『あの名前、まずいわよね』、と言った女子生徒の声。
「じゃあ、勝手に変えちまうとか」
「それなら君がやってくれよ」
『どうするんだよ』と言っていた男子生徒の声と、久慈くんの声。どうやら四人で話をしているらしい。
「あー、もー、なんでこののクラスに転校生なんて入れちゃったのかしら! 先生だって彼女の名前を把握してるでしょうに」
「……どこのクラスに入ろうと、そんなに変わらないよ」
女子生徒と久慈くんが言い合っている。
「――……」
まるで、わたしが来なければ良かった、みたいな言い方に、わたしの視線は、廊下の床に落ちる。
わたしだって、来たくて来たわけじゃない。でも、母があんなことをして、学校を変えざるを得なかったんだから。仕方ないじゃない。
本当なら、一年前の、母がいなくなる前のまま、高校生活を過ごしたかったのに。
「まあ、でも、確かに変えるなら真壁にやらせるか? アレを一番いじめてたの、真壁だろ」
「この前だって、背中から思いっきり蹴飛ばして、座り直させるの大変だったじゃん」と男子生徒が言う。
「…………?」
あれ、何か、話がおかしいような。
てっきりわたしのことだと思っていたのに。なんだか少し、違うような……?
もう少し聞いたら、話の全容が分かるだろうか、と、教室の方に集中してしまったからだろうか。
――ガタリ。
身を乗り出し過ぎたのか、扉を揺らしてしまったのは。




