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職員室から出た廊下には、わたし以外、誰もいなかった。
何かしらの運動部の掛け声や、吹奏楽部のものであろう楽器の音が、どこか遠くに聞こえ、好悪内に結構な人数が残っているのは確かなのに、廊下にはひと気が全くない。
気味悪いものを感じながら、わたしは自分の教室を目指した。荷物を置きっぱなしなので、取りに戻らないと帰れない。
嫌だな、誰かとすれ違わないかな……。
そんなことを思いながら歩くが、廊下には誰も来てくれない。
ただ、教室にはまだ人が残っているようで、どの教室にも、一人は生徒が座っている。部活動もせず、教室に残っているなんて、よっぽど勉強熱心なのだろう。
何かあったら、教室に駆け込めばいいか。
「いや、何かって、何よ……」
気味の悪い出来事が重なり、廊下で一人になってしまい、心細くなっているのかもしれない。ただでさえ、転校したてで、クラスメイト全員も覚えていないし、校舎だって、生徒用の玄関口から、教室までの道のりしか分からないのに。何もなくたって、不安になるものだ。
――と。
わたしは思わず、脚を止めた。
止めざるを得なかった。
いくつも並ぶ、教室の一つ。廊下側の、一番前に座る生徒に、違和感が、あって。
前の扉が開かれたままなので、その生徒が、良く見える。
「ひ――」
わたしは思わず、数歩下がる。
人間ではなく――マネキンだった。
男子生徒の制服を着た、マネキン。明らかにヴィッグだと分かる程、黒い髪はずれている。本来顔があるべき場所には、やはり満面の笑みを浮かべた誰かの顔が印刷された紙が貼られている。その顔は、どこを見るのでもなく、ただ、前の方を向いていた。
「――ぁ」
そこで、わたしは気が付いてしまった。
先ほどまで通り過ぎた教室。その教室にいた一人の生徒は――全て、マネキンだったのではないのか、と。
――パサリ。
先ほどまで、マネキンの頭部にかぶせられていたヴィッグが滑り落ち、男子生徒の座る席の机に落ちる。
それを見た瞬間、わたしは、弾かれたように走り出していた。
一つのクラスに、一人はいるマネキン。
明らかに、何かおかしい。この学校、普通じゃない。
一刻も早く、家に帰りたかった。
わたしの教室に近づくと、何やら話し声が聞こえてくる。複数人がしゃべっている。
誰かが残っている、という安心感に、わたしはホッとし、教室に入ろうとして――足を止め、教室の中から見えない場所に、身を潜めた。
「――やっぱり、あの名前、まずいわよね」
そんな言葉が、聞こえてきてしまったから。




