2章-画面の向こう側2
ノートパソコンの画面を凝視したまま、動けなかった。カーソルが点滅している。AIの最後のメッセージが、そこに止まったまま。
「どうですか? ここまでで、失踪の謎を匂わせておきました。現実の失踪事件みたいに……」
その下に、入力欄が空っぽで待っている。
部屋の隅のテレビから、ニュースキャスターの声がまだ続いていた。
「……綾戸愛花さん、26歳。看護師。山梨県の国道で黒い軽自動車が発見され、車内には空の財布と携帯電話が残されていて、目撃者によると、愛花さんは事故直後、穏やかに『もうすぐ誰かが来ますから』と話していたということです。警察は自殺の可能性も含め、捜査を進めていますが……」
黒い軽自動車?鈴木遥の車は白い軽自動車だった。看護師、26歳、山梨の山道、事故現場で助けを断る言葉——
「もうすぐ誰かが来ますから」
ほとんど同じだ。違うのは名前。綾戸愛花じゃなくて、鈴木遥。心臓の動悸が早まる。キーボードの上で手が震えている。
偶然? いや、そんなはずない。
私はAIに失踪事件を基にした小説を頼んだだけ。現実じゃない、失踪事件を基にしたフィクション。でも、これは……。
テレビの画面に、綾戸愛花さんの写真が大きく映った。笑顔の若い女性。想像していた遥の顔に、ぴったり重なる。
息が早くなる。部屋の温度が下がったのか、空気が冷たい。
これは、AIが現実の事件を小説にした?数時間前の最新ニュースを学習していた?そんなことある?
でもニュースは本物だ。テロップが流れ、警察の捜索映像が映っている。ドローンで山道を撮影した映像。雪の残る道。ガードレール。黒い軽自動車。
ゆっくりとキーボードに手を置いた。指が冷たい。
……AIに、聞いてみるしかない。入力欄に、震える指で打ち込んだ。
「今、テレビでニュースを見てる。山梨で看護師の女性が失踪したって。綾戸愛花って名前で、26歳。黒い軽自動車、事故現場で『誰かが来ます』って言って消えたらしい。あなたの書いた小説と、ほとんど同じ。どういうこと? あなた、知ってたの?」
送信。
アイコンが動き始める。AIが考えている。
待つ間、画面を切り替え、ニュースサイトを検索した。「綾戸愛花 失踪」でヒットする記事が、次々と出てくる。今日の夕方から話題になっているらしい。ネットニュースでも拡散されている。




