ALICE.86─白薔薇西庭園⇔駆ける。
「トランプ兵来ます! 数字の8が4体! 数字の7が4体です!」
「分かった! 数字の8の方は俺達が対処する!」
「私達は数字の7の方を!」
「アハハ─ッ!」
駆け出し始めた俺達に、笑いながらイカレ帽子屋も追従して来ていた。
何度も既に繰り返されて来ているルーチンだが、数字が大きいトランプ兵へと俺達は向かっていた。
数字の大きいトランプ兵の対処は俺達が基本的に請け負い─未来達はその下の数字を請け負う。
今現在も引き続き、その流れを踏まえつつ─俺達は白薔薇西庭園を今尚、ひたすらに駆け抜けて行っていた。
「トランプ兵! 追加、来ました! このまま正面─私達の前の進行方向の通路を塞いでいます!」
「このまま蹴散らす! 俺達に任せろ!」
バタバタッ─と、俺達の道を塞ぐトランプ兵を…俺達は薙ぎ倒しては進んで行く。
今現在、既にトランプ兵の存在は俺達の進行の障害には成り得なかった。
それ程の開きを、俺達とトランプ兵達の間には生まれていた。
「いい加減に、道を─開けろッ!」
再び、通路を塞ごうと動いていたトランプ兵達を─俺の一閃により簡単に討ち倒し─俺は道を切り開いていく。
その勢いで、トランプ兵達は俺達の進撃に呑み込まれていく。
その結果、一気に討伐され─道が切り開かれていた。
「未来様! 正面! 曲がった先にトランプ兵が居ます!」
「数字と数は!」
「数字の6が7体です!」
「そのまま、押し通ります─!」
俺達の少し先を走り行く、斥候の役目を担っているギルドメンバーの報告を聞きつつ─未来は適宜、状況判断をし…指示を下していっていた。
俺もその指示を聞きつつ、彼らをフォローするように動いていく。
それはまるで、1つの大きな集団という確かな形として俺達は機能し─この白薔薇西庭園を縦横無尽に駆け抜けて行っていた。
「はっ!」
「─しつこいッ!」
イノリと息を合わせ、眼前のトランプ兵を軽く討ち倒していく。
あの時の出発から俺達は既に2箇所、セーフゾーンを見つけていた。
その都度、俺達は軽い休息を取り─終え次第、駆け抜けていた。
「このまま、行きます─!」
未来の号令が響き渡る。
今は、この声によって─トランプ兵が誘き出されようとも、以前のような危険性は皆無に近いと言えるだろう。
それぐらいは対処出来る位に俺達は共に成長していた。
それ以前に、俺達はもはや立ち止まる事すら無いだろう。
俺達の目標は庭園の終わり─その王城だ。
それを確認出来るまでは、突き進もうと─俺達含め、聖女の道標全体でも決めていた。
「追加のトランプ兵、来ます─!」
「─そのまま、薙ぎ倒してください!」
「「─はいッ!!」」
聖女の道標のメンバー達の攻撃が合わさる事で、より大きな威力を生み出し─目の前の道を塞ごうと、再び現れたトランプ兵達を吹き飛ばすように薙ぎ倒して行っていた。
彼ら彼女らにとっても、既にトランプ兵達はただの置き物に成り下がっているようだ。
そして、突き進めば進む程に─周囲の白薔薇の咲き誇る数が増えて行っているように感じる。
重ねて、無数の迷路のように感じていた通路も、終わりへと収束していくように道数が減っていき─その道幅が相応に広くなっていっていた。
そうして、遂にその時がやって来た─。
「見付けました─!」
未来の声が第一声として、皆へと届いていた。
皆を先導し、指示を出していた─彼女故の特権でもあるだろう。
彼女の声とともに指差された方向にはセーフゾーンが有り、更にその先─向こう側には王城へと続く庭園を区切るように、大扉がその存在を大いに放っていたのだった。
「セーフゾーンと共に大扉が有って良かったです」
「─ああ、確かに。それは一番の朗報かも知れないな」
腰を下ろした俺は煙草を吹かしつつ、未来に同意の声を返していた。
聖女の道標のメンバー達は現在、それぞれセーフゾーン内へと入り─ゆっくりと休息を取り始めていた。
なので、俺もその空気感を享受してではないが─おもむろに適当な場所へと腰を下ろし、煙草を1本嗜んでいた。
「未来さん。やっと落ち着いた、このタイミングで聞くのは酷だと思うが、いつ頃─あの大扉の先に挑もうと思っている?」
「─どうでしょう? カズキさんは何か…助言とかは有りますか?」
「─俺からか? そうだな…。なら、俺から言えるのは一つだな。なるべく大量の経験値を貯めてから挑んだ方が良いと思うぞ? 経験値は既に分かっているとは思うが、単純且つ─シンプルに俺達の命に直結する要素だ。その有る無しで、ただそれだけの差で─大きく俺達の生死を分け隔ててしまう。だからこそ、大量に貯め込むのを俺は勧める。それに、生き残れたのなら生き残れた時で─その時にまた、経験値の利用方法を考えたらいいだけだしな」
「確かに、その通りですね。イノリちゃんは─」
「うん。未来…私もカズキと一緒の考え」
イノリからも太鼓判を押されたのもあるのだろう。
未来は内容を昇華するように深く頷き、次の瞬間には信弥の方へと話し掛けていた。
「─信弥。明日から、また狩りの時期に入りましょう。目標は、絶対的な経験値の確保と致しましょう。皆への通達をお願い出来ますか?」
「ええ。畏まりました─今直ぐにでも、動きます」
そう言って、信弥は俺達にも1つ礼をしてはこの場から立ち去って行った。
言葉通りに直ぐにでも、聖女の道標のメンバー全体へと情報の共有に向かったのだろう。
「あ、あの─カズキさん達もそれで大丈夫だったでしょうか? 私、今…気付いたのですが、勝手に決めてしまったのかも知れません」
「いや、気にしなくていい。寧ろ、俺から言い出した提案だ。─大丈夫だ。むしろ、完全に安全なくらい経験値を稼いでくれ。ここに来るまで犠牲が出てなく、正直な所─俺は、俺達は安心しているんだ。目の前で死なれる事なんてあったら、本当に寝覚めが悪いからな。もう、俺達は結構な仲だと俺達は勝手に思っている。だから、頼むぞ? しっかりと稼いで死なないようにしてくれ」
「…分かりました」
ここに来て、ハッキリと俺は俺自身の願いを未来に伝えた気がする。
これは本当の願いだ。
こいつらに何かがあったら、寝覚めが悪くなると直感的にも分かってしまっている。
何度も…何日も、寝食を共にした仲だ。
最初の初対面の時とは明らかに違い、俺達の距離感は近付いている。
だからこそ、このタイミングになってしまったが─俺は真剣に、その心情を吐露し…お願いをするような形になってしまったのだろうか。
「カズキさんも素直になれるのだーぁね? 素晴らしい事かーぁな? さてはてー? なら、私はまたすこーぉしだけ、お暇する事にしようかーぁね? バイバイだーぁよ。また、近くなったら来るからーぁね?」
そう言って、案の定─イカレ帽子屋は手をヒラヒラと振りつつ、霞のように…どこかへと消えてしまっていた。
「─イカレ帽子屋の正体について、私は今も分からないままです」
「それは、俺も同じだ」
「…彼は信用出来るのでしょうか?」
「─大丈夫」
「…らしいぞ?」
「イノリちゃんが、そうハッキリと明言するのでしたら…はい、分かりました」
「─うん」
まぁ、イノリが大丈夫というのならば大丈夫なのだろう。
根拠は無いが、今までのイカレ帽子屋との付き合いと─イノリからの信頼から俺は素直にそう思えていた。
とりあえず、セーフゾーンへと辿り着いた─この日は皆、ゆっくりと休養を取る事になった。
そして、翌日から─俺達は経験値の確保に向け、白薔薇西庭園を再び…奔走する事になるのだった。
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