ALICE.85─白薔薇西庭園⇔再出発。
「そろそろ、私達の方の準備は終わりそうです」
「─そうか、分かった」
「カズキさん達の準備の方は大丈夫でしょうか?」
「いつでも…いや、少し待ってくれないか? この最後の一本、煙草をゆっくり吸わせてくれ」
「あ! は、はい。どうぞ、どうぞ─」
「…アハッ! ならば、私も1本貰おうかーぁね?」
「─い!? お、おい!」
未来と話していた俺の隣に、いつの間にかイカレ帽子屋が現れていた。
そして、イカレ帽子屋は俺が反応するより早く─その手を動かしては、俺の煙草を吸っているのを見つつ…俺のポケットから煙草を取り出し、見せてきた。
得意気に取れた煙草をアピールしてきては、その一本を早速咥え─吸って見せてきたが、何かがダメだったのだろうか?
煙か? 匂いか? はたまた─味なのか?
俺から見て、思えた事は…純粋に勿体無いだ。
奴は、直ぐ様─ペッと、煙草を吐き出したのだった。
「なっ!? お、おい! お前ッ! 煙草を無駄にするなッ!」
「これは本当に吸えるものなのかーぁね? いやーね? だって、すっごく不味いんだーぁよね? あなた? 本当にこれが、そんなに美味しそうに吸えるものなのかーぁな?」
「…あ?」
俺からの圧に、流石に気まずさは伝わったのだろう。
イカレ帽子屋は即座にクルリと翻えっては、未来の後ろへと─そそくさと隠れやがった。
「─えッ!? 私の後ろですか!? ちょ、ちょっと…待ってください!?」
「ふふふ。大丈夫だーぁよ。ほぅら、カ・ズ・キさんは優しいのだーぁから…ね?」
「はぁ…、イカレ帽子屋? いい加減にしないと怒るぞ? 未来さんが困ってるだろう。後、俺は別に優しいなんて事はない。そんなものは、とうの昔に生きる為にも捨てて来ている」
溜め息を吐きつつ、俺は困り顔の未来から目線を逸らし─未来の後ろへと隠れたイカレ帽子屋へと、視線を向けた。
未来の顔は俺の話を聞き、悲しい顔付きになってしまっていた。
少しでもそれを見てしまったのならば、俺の気は重くなるばかりなのだと悟られないよう─俺は自然と、未来から視線を逸らしてしまっていた。
それに、今は─俺の過去の事など詮無き事だろう。
俺はそのままイカレ帽子屋へと視線を向けたが、やはりイカレ帽子屋は何が面白いのか─ニンマリと俺を逆撫でするように見返して来るだけだった。
「え、えっと…そ、そうですね? 明日、庭園を出発しようかとご報告と言いますか─相談と言いますか、えっと…ご提案になります。その、カズキさん─どうでしょうか?」
「─そうだな。まぁ、ここに来てもう2ヶ月…いや、3ヶ月か? タイミングとしては、良いんじゃないか? 世界のカウントダウンの事もあるしな。時計は未だに止まる様子も無く、進んでいるしな。それに何より、お前達自身が覚悟を決めれたのならば─俺の方で問題は無い。イノリとも既に話し合い、未来さん達が出発する覚悟を決められたのならば─その時は共に出ると、タイミングに関しての許諾も得ている。今がその時だと、未来さん達が思ったのならば─後は行くだけなんじゃないか?」
「アハッ! 私も当然、同行しようじゃなーぁいか! だから、安心して大丈夫だーぁからね?」
「それは頼もしい限りです。マッドハッター様も、どうかよろしくお願い致します」
「…あははは! 安心して良いのだーぁよ!」
最後に頼られたのを機に─イカレ帽子屋は笑って誤魔化したように見える。
そんな疑いの視線をイカレ帽子屋へと、俺は視線を未来から戻し見たが─若干、イカレ帽子屋の頬が紅く染まっているのが見えた気がした。
「ほぉ…?」
「─」
俺の呟きと視線にイカレ帽子屋は気付いた様だが、気不味そうにしては─今度は向こうから、視線を逸らして来た。
─なるほど、珍しい事もあるようだ。
イカレ帽子屋でも、照れる事はあるらしい。
「─ははっ」
「えっと、どうしたのですか?」
「いーや、何でもないさ。良いものが見れた─って、だけさ」
「…?」
まぁ、未来からは当然─後ろに未だ隠れている、イカレ帽子屋の姿は見えないだろう。
ふぅ…─と、俺の口から吐き出した煙草の煙は良い形だ。
気分も、今は珍しいものが見れた影響かすこぶる良い感じだ。
煙の様子からも、きっと幸先は良いのだろう。
まぁ、これも─俺のジンクスなだけなのだが。
だが、それでも今はこの気持ち良い気分のまま─もう暫くは、余韻に浸っていたいと俺は思えたのだった。
「─じゃあ、明日だな」
「はい。また明日から、よろしくお願い致します!」
「ああ、分かった。なら、俺はこれで戻る。後は…イノリの方にも、ついでに伝えておく。─またな」
「はい。イノリちゃんの方にも、お伝えお願い致します。私は今日、そちらに顔を出せるのか…正直分からないので─」
「─ああ。この後は色々とギルドとしても、まとめないとなんだろ? 信弥の方は、もう動いてるんだものな。…頑張れよ」
「─はい。ありがとう御座います」
ペコッ─と、未来は綺麗に俺へと頭を下げてきた。
そんな未来を横目に、丁度─煙草を吸い終えた俺は、そのままイノリの待つ小屋へと帰る為にも…おもむろに立ち上がった。
「あはっ! これで解散かーぁな? なら、私も明日にまた来るとしようかーぁね」
俺達の解散を機微に感じ取ったのだろうイカレ帽子屋はそう言葉を残し、隠す様子も無く─霧が霧散するように、自身の姿を掻き消すように消えていった。
「どんな手品だ?」
「…分かりません」
そうだろうな。
目の前で見ていた俺も分からない現象だ。
未来なんて、更に分からないだろう。
とりあえず、これ以上は話し込んでいても互いにデメリットが生まれるだけだ。
早々に会話を切り上げ、俺と未来は別れるのだった。
「─ただいま、イノリ。今、大丈夫か?」
「─うん」
帰宅して、早々イノリを室内で見つけるが、今現在もイノリはスキル構成を考えているのだろう─ジッと、目を細めては宙を見つめていた。
イカレ帽子屋からスキルの可能性に気付かされてから、俺達は狩りを続けて来ていた。
その結果、それなりに経験値は稼げはしたが─それでも得られる量は限られていた。
俺側のスキル分配に関しては、ある程度─自身の中での指針が定まっていたのも有り、直ぐに終えられていた。
だが、イノリの方はそうでは無かったようだ。
今現在も悩みは継続しており、その結果─俺だけが未来からの連絡が来ては、話を聞きに行っていた状況だった。
まぁ、それを言うのであれば─未来側も信弥に関しては、既に出発に向けての調整に奔放していたようで…案の定、話しに来れたのは当の未来本人だけとなっていた。
まぁ、これも互いにバランスみたいなものなのだろう。
「それで、明日─そうだな、予想通りだが…出発になった」
「うん、予想通り」
「まぁ、そろそろ─みたいな雰囲気はしてたものな」
それが、イノリが今現在も残ってはスキルを調整している要因であった。
そもそも、少し前から聖女の道標内でも─何かとソワソワとしている雰囲気はあったのだ。
それが顕著になったのは、各々が狩りよりも優先的に準備等に時間を割くようになった辺りだろうか。
今日の呼び出しという名の報連相の場も容易に予想が出来たと言う訳だ。
「まぁ、気を付けて行こう。出来る限りの事は俺達もして来ているからな」
「─うん。私達は、いつも通りに行くだけ」
分配の目処が立ち、切り上げたのだろう。
イノリはおもむろに立ち上がり、俺に近寄って来た。
そのままピトッ─と、ベットに腰掛けてる俺の隣に座っては…その身体を俺へと預けて来た。
それを皮切りに…では無いが、その日はそのまま─明日の朝になるまで、俺達は身体を休ませる事にしたのだった。
そして、翌日の朝─朝食をゆっくりと俺達は味わうように食べ終えてから小屋を出て、セーフゾーンの入口へと向かった。
既に、聖女の道標のメンバー達は隊列を組むように揃い始めており─俺達も近付いて行き、その後方へと合流していく。
「─皆、揃いましたね? 準備等に漏れは無いでしょうか? 隊列に関しては昨日の指示通りに動いて行きます。目標は庭園の最奥に位置するでしょう─王城となります! 皆、私達は誰一人欠ける事なく─ここまで来れました! この再出発からも同じです! 皆、命を大切にし─生き残り、そして…共に進んで行きましょう! ここまで、私達は来れたのです! ここからです! 私達の存在を刻み付けて行きましょう!」
「「─はいッ!」」
皆、幾分か自信は付いたのだろう。
最初の頃…いや、このセーフゾーンへと辿り着いた時と違い─その顔つきも大分見間違えたかのように自信に満ち溢れる表情が垣間見えていた。
「ふふふーん。ふーん〜ふっふっふ〜─」
変わらないのは、いつの間にか隣に現れたイカレ帽子屋位だろうか?
今、尚─現れてはステッキを振り回しつつ、鼻歌を歌っている始末だ。
「─お前は本当に不意に現れるよな?」
「あはは! 来ると言っていたじゃなぁーいか! ちゃんと、来てあげたんだーぁよ?」
「ああ。確かに、そうだな」
「マッドハッター…よろしくね?」
「─ん。分かっているよ、お嬢ちゃん。この僕に任せたまーえ!」
「はぁ…。全く、調子が良い奴だな。行くぞ─」
「うん」
「はいはい─では、俺達も行こうじゃなーぁいか!」
全く、コイツは─。
イカレ帽子屋と話していたら、既に聖女の道標は進み始め─俺達は少しだけ出遅れている状況だった。
その為、俺達は早歩きで追いかける様な形で─これまで生活の拠点ともなっていたセーフゾーンへと別れを告げる様に出発するのだった。
「数字の8が2体、数字の6が5体─来ます!」
「予定通りの動きで大丈夫か?」
「─はい! 引き続き、よろしくお願い致します」
「分かった。なら、数字の8の方は俺達がやる─」
早速、セーフゾーンを進み出て─曲がり角を曲がった瞬間に、俺達はトランプ兵と遭遇していた。
聖女の道標のメンバーの報告に合わせ、俺は未来へと討伐に関しての動きを確認しては─早速、双剣を構え…数字の8のトランプ兵を狩る為にも集団から飛び出した。
サクッ─と、イノリと共にトランプ兵を片付け…振り向いた先では、聖女の道標のメンバー達も迅速に討伐を終えたのだろう。
既に、装備類の点検等を行っていた。
「ははっ。本当に、互いに本当に強くなったみたいだな」
「─うん。良い事」
ポロッと感想を述べてしまったが、思った以上に彼女達も強くなっていたようだった。
「─戦闘終了です! 各自、武器の損耗率と、回復薬等の在庫の確認を! 問題が無ければ、進行を再開致します!」
未来のここら辺の采配は流石だろう。
直ぐ様、俺達の討伐に気付いては周囲へと指示を出していた。
似たような事を、果たして俺は出来るだろうか?
いいや、無理だな。
それに、そもそも柄にも合わないのと─俺自身がやろうとも思わないのだから、土台無理な話だろう。
「イノリの方は大丈夫か?」
「─うん、大丈夫。カズキは?」
「ああ、俺の方も大丈夫だ」
俺とイノリも、互いの装備等の確認を手早く済ませた。
ふと、視線を感じ─横を見やると、いつの間にかイカレ帽子屋が俺の横に立っていた。
「はぁ…お前は本当に、いつも突然だな?」
「あはっ! 私も大丈夫だーぁよ?」
「へいへい…」
全く、俺がおざなりな返事をしたとしてもコイツは嬉しそうに笑って来るだけだった。
そんなイカレ帽子屋と共に、俺達は聖女の道標のメンバー達と庭園の最奥の王城を目指し─再度、この白薔薇西庭園を駆け抜け始めるのだった。
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