表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

163/166

冒険者91 自己中ブラザーズ

 トレーニングルームは常に多くの人間が使っている。


 中でも人気なのは上階の方で、模擬戦を多数行うあの部屋には大量の補強工事が入っていた。


 下の階の方にも冒険者向けの筋トレ器具を置くために工事は入っていたものの、やはり上ほどには完璧ではない。これは当時の予算の割り振りの結果らしいのだが、詳細については俺は何も聞いていなかった。


 本日の予定は、その内の下の階。筋トレ道具が並ぶエリアでは、今日も汗を流す冒険者が散見されている。


 彼等は丈が短く薄手のトレーニングウェアを着ているが、榊原と山田が入室した瞬間に一斉に道具を片付けて集まった。


 熱気を放つ男女達の様子は暑苦しくて堪らない。山田は平気な顔をしているが、榊原の方は苦笑して普段通りで大丈夫ですよと彼等をさっさと退散させた。


「知らない顔ばかりですね」


「今日は今年入った者達で殆どみたいですね。昨年に日本ダンジョンの傍を含めた複数の場所のトレーニング施設を買い上げまして、そちらを使っている冒険者も居る筈です」


「……拡大、しているんですね」


「予算が増えた結果ですね。さ、お相手はこちらです」


 ゆっくり奥に進むと、和気藹々とする中で無心でトレーニングをする者達がいる。


 バーベルを上げ、ランニングマシンを走らせ、彼等の全身から多量の汗が流れ落ちていた。


 極度に集中しているのだろう。こちらが近付いても気付いた様子は無く、榊原達が接近してもそれは一緒だ。


 山田が呆れた表情をして咳払いを放つ。


 露骨過ぎる音にバーベルを上げていた男は目だけを発生源に向け、それが山田であると認識すると勢いよくバーベルを降ろした。


 今上げている重量がどれほどかは不明だが、受けの部分と衝突した際に甲高い音が部屋に響く。


 その音で彼等も発生源に顔を向け、近くに居た山田達の姿に驚いた顔を浮かべた。


「や、山田隊長! お疲れ様です!!」


『お疲れ様です!』


 横一列に並んだ人数は四。皆が一斉に頭を下げる様子に苦笑しつつ、山田は呆れた顔のまま言葉を放つ。


 それは十中八九小言の部類だったが。


「はぁ。……君達が努力を重ねていることは理解しているが、周りを見ることも忘れないようにと幾度も私は言っていた筈だ。極度の集中が必要なのは真に大事な時であって、普段でまで集中状態になる必要はないでしょう」


「……申し訳ございません」


 山田の言葉を聞く限り、この手の話は一回や二回ではない。


 注意をされて学習するのが通常の人間だが、彼等は極端に周りを見えていないらしい。


 それがデフォルトであるのか、或いは環境的な理由かは定かではないものの、冒険者以前に社会生活を営むのであれば自分だけの世界に入るのはよろしくない。


 彼等は見たところ、まだまだ俺よりも年下だ。学校を卒業した直後くらいだと思えば、然程違和感は覚えない。


 まだ何が正しくて何が間違っているのかも判然としない年だ。俺も似たようなものだが、それでもまだまだ彼等の方が社会の常識を知らない。


 きっと大変な生活をしているんだろうなぁと思いながら、そのまま山田の話に耳を傾けた。


「謝罪をするだけなら誰でも出来ます。厳しいでしょうが、反省して直している姿を見なければ私は納得することは出来ません。――が、今はこんな説教をしている暇はありません。貴方達に話があって来ました」


「お話、ですか……?」


「ええ、今の貴方達の状況を脱する話です」


「ッ、本当ですか!?」


 思ったよりも山田は長い説教をするタイプなのかもしれない。


 今回は用事があったから短く済まされたが、本来は人前でも静かに詰めている可能性がある。


 とはいえ、今は必要ではない。早々に説教を打ち切り、建設的な話にシフトした。


 横一列に並んだ男四人組は、唐突の話題に驚きながらも目を輝かせて食いついている。まだ幼さも見える顔に笑みを形作り、一体どんな解決策を提示してくれるのかと今か今かと楽しみにしていた。


 彼等からしても、冒険者として活躍することは夢だ。その過酷さを知っても、自分の力で大事を成せたのなら多大な自信に繋がる。


 金も入って、今なら注目もされやすい。まだまだブルーオーシャン状態であれば、躓かなければダンジョン以外で失敗する確率は低いだろう。


 さて、であれば当然。ここからは俺が指導する側に回るのだが、預言者と立花・翔は同一の存在にしてはならない。


 知っている人間が居ても表では別人として扱うのは絶対。


 預言者は特別な人間で、俺は単なる新人冒険者。彼等と一緒に冒険者生活を送りつつ、携帯などで改善内容を山田か榊原に送りつける。


 取りあえず、彼等全員が榊原の部隊員と交換しなければならない。


 その事実を説明すると、男四人は露骨に喜んだ。これは部隊長が女性になったことが嬉しいのだろうな。


 アイドルも顔負けの隊長の部隊なんて、よっぽど不能な男でもなければ気分が良いだろう。


「今回の件について、詳しいお話はこの後に貸し切った上階のトレーニングエリアで行います。そしてこの件について訪ねてくる方が居た場合、今のところは口外禁止にします」


「解りました。……ところで、あの、そちらの人についてを聞いても構いませんか?」


 トレーニングエリアへの誘導も行い、俺が傍に居るのに何の説明もしないことで彼等の視線も引いた。


 俺がまだ実務を熟していないせいで彼等はこっちの情報を一つも知らない。しかし、二人に連れられてきた時点で普通の人間ではないとは解っている筈だ。


 ああ、と山田が思い出したかのように言葉を吐く。そして一度視線をこちらに向け、右肩に手を乗せた。


「構わないですよ。彼は君達と同じ冒険者です。とはいえ、ある一件で二年の間植物状態になっていました。今日漸く退院となり、暫くは榊原さんの部隊で厄介になる予定です」


「しょ、植物状態って……大丈夫なんですか?」


 この中で唯一話しているあたり、リーダー格は彼なのだろう。


 茶色の猫毛の中性的な人物は、様々な意味の混ざった言葉を山田に放つ。それがどんな意味で解釈されるかを本人はまったく意図しておらず、しかし山田は要件を進めることを第一として指摘をしなかった。


 反面、榊原の方は眉を寄せている。植物状態の人間が復帰して使えるかどうかが解らないのは事実だが、だからといって直球でそれを確認するのはデリカシーに欠けている。


 今のところ彼だけだが、その発言を聞く限りでは自分のためになるかどうかで判断しているようだ。


 新人であることを踏まえてラインは引いているかもしれないが、それでも所々で自分本位な部分が見えている。


 そして、この発言に他三人は何も反応しなかった。


 このあたり、自分本位なのは全員の可能性がある。つまりパーティーとしての協調性はあまり見込めないという訳だ。


 おかしいなと内心首を傾げる。


 彼等は未来でパーティーを組んで活動していた。その際の連携は見事で、撮影された動画を見ても全員の動きに乱れは確認されなかった。


 ただ、リーダー格は猫毛の髪の青年ではない。その隣で気配を消している別の青年だ。


 黒い前髪は長く、顕になっている片方の目も黒い。顔形も一般的な日本人顔で、言っては悪いが俺と同じ普通顔だ。


 背丈も中肉中背。この四人の中で一番目立たず、今この瞬間も目を離したら見失ってしまいそうな希薄さだった。


 俺は彼の取得した職業を知っている。まだ確認をしていないが、このいやに薄い感覚は常人が出せるものじゃない。


 優れた五感を持つ冒険者ですら見失ってしまいそうなら、市井の間に放り込むだけで即座に追跡不可能になる。


「彼なら大丈夫ですよ。それは私と榊原さんが保証します」


 彼等の話を他所に、俺の視線は黒髪の青年に向けられていた。この空気が如き人物を脳から忘れないために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ