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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者86 世界の中心になってしまう国

「あ、と忘れていました。 本日は高次警視監の代理としてこちらに参りました。 今回は立花さんの状態の確認と、表に出ていない内部情報についてを説明しに来ました。 更に早い内が良いだろうという警視監の指示で夕方に立花さんのご両親が病院に参ります」


「一日で全部済ませる気ですか?」


「私達としてはゆっくりしてもらいたいのですが、上は早く立花さんを復帰させたいお考えのようです。 ……成果自体は貴方が居た頃よりも良くしてきたつもりなんですがね」


 彼女は歪みを引っ込め、実に当然のように今後の予定を話し始めた。

 

 狂気の片鱗は既に見えない。 隠したというより、意識を切り替えたのだろう。 仕事を前面に押し出した彼女に俺は指摘せず、そのまま話を合わせる。


 それにしても話が回るのが非常に速い。 昨日の今日で俺が起きた事実を把握するなど、この病院に直通の連絡網があるとしか思えない。


 上の判断はこっちの都合を無視した辛辣なものだが、俺にとっては否はない。 彼女の最後のセリフにおどろおどろしい雰囲気が宿っているのだけが不安だ。


「もう俺と家族を接触させても良いんですか? こちらとしては良い話ですが」


「その辺はナラさんのお陰で実は大丈夫だと把握しています。 それでも念の為にと接触を避けさせただけで、起きたら直ぐに会える予定にはしていました」


「あいつが? ……どんなことを言っていましたか」


「意識が深いところに落ちているだけで、時間をかければ戻ってこれると。 その言葉の全てを信じることは出来ませんので、一般病棟から分けてはいました」


 成程と頷く。

 

 ナラは可能な限り自分の情報を与えないように振る舞っている。


 その上で信用を得る為、俺に関する嘘は限りなく零にしているのだろう。 言っていない部分があるとすれば、やはり異世界周りか。


 同時に、彼女はやはりソアと何かを話していた訳ではないとも確信した。


 俺が異世界の仮想空間を体験していると知っていれば、少なくとも長い時間がかかると言っている筈だ。


 敢えて言わなかった可能性もあるが、ナラは少しでも周りからの信用を得ようとしている。 それなら長期の植物状態になる可能性を示唆しないのは、明らかに不自然だ。


 ソアが語っていた通り、両者は意思疎通が出来ていない。 同じ俺の内部に居ながらも、住まう場所そのものが異なってしまっている。


「ナラさんは本当に明るい人でした。 あんなに気落ちしている私達を元気づけてくれて、希望はあると前向きに励ましてくれたんです。 勿論、次に貴方が起きるまでに少しでも強くなろうとも言ってくれて……」


「……」


「変な表現かもしれませんが、その時は彼女が太陽のように見えたんです」


 榊原から見たナラは、とんでもない存在になっているようだ。

 

 傷ついている状況で優しく手を差し伸ばすなんて温い真似はせず、寧ろ容赦無く焼くような手を使った。


 立ち振る舞い、言葉、そしてザークリフに取った手段。 完全に強者として立ち、他よりも多くを知っている彼女は希望ばかりを相手に与え続けた。


 絶望している中ではその光は強烈に過ぎる。 普段から真面目に生きている人間からすれば大した話には聞こえないかもしれないが、本当にドン底の人間には特効薬になるだろう。


 かといって、加減を間違えればそれは信者を生む。 宗教でよくある、耳に心地の良い言葉ばかりを並べて対象を洗脳するようなものだ。


 長期間ナラが表に出ていれば、もしかすれば信者化した冒険者が出るかもしれない。


 だから彼女は今も出てこない選択をしたのか。 システム画面も出さず、内に入って状況の推移を見守っている。


 彼女が大人しくしている分にはこちらにとっても都合が良い。


 恐らく彼女が話し始めるのは俺が現在までの変化を全て知った時。 そして二人きりになった直後に話を持ちかけてくる。


 ナラはその後、ダンジョンの沈静化が終わったと同時に意識を引っ込めた。


 倒れた俺の身体を榊原達は慎重に日本まで運び、現在のこの病院で様子を逐一確認していた。


 預言者である俺の長期の意識不明状態に政府の一部は揺れたらしい。 俺の未来の情報ありきで今後の予定を決めていたようで、そこには経済的な部分も関わっていた。


 回復薬は特に影響が強い。 生産そのものは出来ても、未来に備えて保管するか輸出して金にするかを決めるのにも時間を要した。


 俺が未来の情報を語れば、その判断は一時間も掛からずに決まる。 もしもその決定が一ヶ月もズレてしまえば、諸外国も何かあったのではないかと勘繰る。


 ダンジョンへの警戒にも影響は及んでいる。


 これまでは発生している場所を重視すれば良かったが、次に何処がダンジョンになるかが解らなくなってしまった。


 俺が寝ている間に突如次のダンジョンが出てくる可能性は決して低くない。 特にこうして日本が急いで冒険者組織を作ったのなら、連続してダンジョンが出現したとしても不思議はなかった。


 故にギルドは忙殺されてしまった。 自衛隊も巻き込み、他所の国に目もくれずに自国の変化に神経を尖らせた。


 結果として、日本に新しいダンジョンは出現していない。 ――出てきたのは、アメリカの街中だ。


 詳細な場所は未来の位置と完全一致しており、溢れ出した敵の種類から齟齬は見受けられない。


 榊原の話ではアメリカの死者数は膨大になったものの、致命的な程にまでは至らなかった。 死者の家族達からすれば堪ったものではないが、それでも大多数には安堵するエンドを迎えたことだろう。


 だが、この件では冒険者にも死者が出てしまっている。 初の死者報告に日本の世間でも冒険者の安全保障については議論が交わされ、彼等は軍人なのか民間人なのかで意見は割れた。


 これも日本が悲惨な状況にならなかったからこそ起きた出来事だ。 俺の未来通りであれば、生き残る為に何でも使う精神になっていたのでそもそもの議論も起きてはいない。


 世界の警察としての側面も持つアメリカでダンジョンが発生した以上、最早この問題はより深刻となって世界全体に広まった。


 このダンジョンが紛争地帯に発生すれば争う人間そのものが無くなり、モンスター蔓延る地帯が出来上がる。 海や山といった人間があまり立ち入らない場所で発生すれば、観測するまでの間に何処からともなくモンスターが人の居る場所に姿を見せるだろう。


 世界全体で地球そのものを監視するのが、この場合の解決策となる。 しかし、それをするには膨大なコストを支払うことにも繋がる。


 世の道理としてなるべく節約はしたい。 馬鹿正直に払うのでは負担だけが無限に増加する事態に陥る。


 その点でも俺が植物状態になった影響は出ていた。 俺が次をもっと前に言っておけば、準備する猶予が残されていた筈だ。


「現在、世界中でギルドの支部が作られています。 それに伴い、あらゆる国々から選ばれた人員が冒険者となるべく日本ダンジョンに訪れています」


「アメリカのダンジョンや中国のダンジョンは使われていないと?」


「はい。 アメリカのダンジョンはまだ正確な敵の戦力を測り終えておらず、中国ダンジョンは経済的な理由以外の使用を現在は禁止しています。 中国には早く立ち直ってもらいたいですし、もしも無くなってしまえば私達がカバーしなければならない範囲が広がってしまいます」


 予想していたとはいえ、状況は混沌に近い。


 人類がやらねばならない範囲は多く、各国が独立して動くだけではカバーしきれない。


 協力し合うのは当然。 過去のあれこれがあろうとも、異世界の勢力まで徐々に介入し始めている段階で無駄な争いを生むのは非効率的だ。


 とはいえそれで全てを飲み込めるなら戦争は起きない。 個人や組織が利益を追求するのも止められず、故に表面的には休止になっただけだ。


 日本は中国に大きい顔をするだろうし、有力な冒険者が増えれば今後小国でも注目を受ける。 そして大国が金や権利を餌に引き抜きに動き、それはダンジョン産のアイテムにまで及ぶだろう。


「……ちなみに、日本の現在の立ち位置は?」


「協力姿勢を貫いています。 極めて中立を掲げ、不正に情報を流した場合や偏りを生む人間は早々に排除されています」


 日本は島国で、決して国土が大きい訳でもない。


 そんな国が今、世界の中心になり始めている。 一時的に玉座に近い椅子に座り、大きい顔が出来るようになっていた。


 その上で中立を維持出来るなら安泰だ。 だが、そんなことにはならないと俺は確信していた。

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