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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者84 時差

「んぁ……」


 意識が浮上する感覚。

 

 微睡みから徐々に覚醒へと傾く頭はまだ思考がうまく回らず、自分が何処を見ているのかも定かではなかった。


「――さん!? ――なさん! ――聞こえますか、立花さん!!」


 女の人の声が直ぐ傍で聞こえた気がした。

 

 だが、気がしただけで直ぐに応えることは出来ない。 声を発することも億劫極まりなく、指一本でも動かす気になれなかった。

 

 天井は白い。 LEDの細長い照明が室内を照らし、上には掛け布団か何かが乗せられている。

 

 これまでの間に何が起きていたのかを思い出す。 ソアと運命共同体を結成し、異世界を擬似体験し、更に腹に風穴を開けられた。

 

 ダンジョンはどうなったのだろう。 冒険者達は無事なのだろうか。 一時的に離れてしまった所為で時間感覚も酷く曖昧だ。

 

 意識して目を開く。 一番厄介なのは、この肉体の異常なまでの動かし辛さだ。

 

 手を動かすことも、足を動かすことも、そもそも呼吸を繰り返すだけでも嫌に意識しなければならない。


 これまでが無意識で動かせていただけに、この動かし辛さは非常にもどかしい思いにさせられる。

 

 一体どうしてこうなったのか。 その情報を収集すべく、気合を入れて上半身を無理矢理に起き上がらせた。


「いッ……」


 腹筋に激痛が走った。

 

 思わず声が出る程の痛みに眉が寄せられ、けれどそのお陰で意識も完全に覚醒する。

 

 見渡すと、直ぐ傍には一人のナースがずっと俺を呼びかけていたようだった。 彼女との面識は皆無で、当然ながらこれが初対面。

 

 なのにこんなにも必死になって俺の状態を確認しようとするのに不思議になっていると、ナースはお医者様を呼びますので待っていてくださいと退出する。

 

 一人となった空間は、およそ病院内の病室に該当する場所だ。


 自身が今寝ているベッドは白く、枕元にはナースコールが置かれている。 傍には移動式の小型のテーブルがあり、下部にこれまた白い冷蔵庫が設置されていた。


 荷物を入れておく棚の上には液晶テレビが一台。 部屋の隅には観葉植物が置かれ、他に入院している患者の姿はない。


 完全な個人部屋だ。 俺は入院そのものを経験したことはないが、個人部屋なのはお金がかかるのではないだろうか。


 足早に誰かが近づく。

 

 引き戸を気持ち早めに開かれると、白衣姿の医師とナースがやってくる。


 彼は非常に丁寧に今の俺に聴診器やライトを使ってくるが、何処かこちらを恐れている節も感じ取れた。


「何か不調を感じますか?」


「身体が動きにくい以外は特に。 ……あの、今日の日付を教えてもらえませんか?」


「ああ、そうですね。 今は2026年の九月十日です。 立花さんは約二年近く意識不明の状態になっていたことになります」


「――は?」


 反射的に疑問の声が出た。

 

 その反応に医師達は露骨に肩を跳ねさせるも、静かに現在の状態について説明していく。


 俺が中国から帰還した時点で意識は完全に喪失していた。 外見上の損傷は無く、内臓機能も特に問題無し。 脳を検査して意識が深い場所から帰ってこれなくなっていることが判明したが、俺の意識そのものを引っ張り上げる術は尽くが失敗に終わった。


 その結果、これまで俺は寝ているだけの状態を継続させていたという。


 まさか植物状態になっていたとは驚きだ。 確かに暫くは仮想空間内で生活していたが、それがこんなに伸びているとは想像の外だった。


 しかし、それならそれで疑問は残る。 俺が此処に入院した時から意識不明の状態になってはいたが、医師は外傷を負ってはいなかったと語っていた。


 それが事実なら、あの短期間で俺の腹の傷を誰かが治したことになる。


 あの当時の段階で大きな怪我を治すには、大量の魔力や時間が必要だった筈。 ザークリフが俺を治す隙を与えてくれたとも考え難く、であればあの後に新たな出来事が生じたと考えるべきだろう。


 異世界からの追加の人間が来たのか、或いは冒険者の誰かが突如として覚醒したのか。


 それはギルドに直接尋ねる他なく、医師もあの当時に起きた全てを把握しているようには思えない。


 医師達が俺に異常が無いのを確認して、明日の予定を告げて去っていく。


 テーブルの上には一台の携帯が置かれている。 冒険者になる前から使っていたそれの電源を入れてみると、簡単に画面に光が灯った。


 壊れていても不思議ではなかったのだが、であればこんな場所に置いてはおかなかっただろう。


 携帯会社のロゴの後に何時ものホーム画面が顔を出し、通知には特に何の知らせもない。


 あの時よりも時間は前に進んでいるものの、それ以外はそのままだ。 まったくの変化がないと思うと妙な安心感を覚えてしまった。


 時刻は夜の二十一時。 既に外は暗く、窓から見える先は街灯の明かり以外に道を照らす物はない。


 こんな時間に面会者が来ることはないだろう。 それよりも、家族に無事を伝えるより世界の有り様を把握しなければならない。


 ニュースサイトを見る。 たった二年近くとはいえ、それでも短くない時間が過ぎた。


 彼等はどうしているのか。 ダンジョンはどうなっているのか。 世界はどんな風に冒険者を社会の流れに組み込んでくれたのか。


 調べていくと、ギルドは想像以上に大きくなっているのが解る。


 最初期はまだ規模は小さかったものの、やはりアメリカを始めとして複数のダンジョンが発生したことで規模の拡大は急務とされた。


 情報開示も正式に進み、対価を払いながらも諸外国はダンジョンへの対処法を知っていくことになる。


 その際、出現直後のダンジョンの氾濫を抑え込んだのは山田を中心とした部隊となっていた。 メンバーの全員をこの場で確認出来る訳ではないが、その中には見知っている名前も多い。


 山田はリーダーとして当然だが、榊原の名前もある。 他に咲や我妻の名前も見つかり、どうやら一番最初に採用した人間も実戦投入されるようになったのだろう。


 彼等が活躍することで被害は最小で済んだが、だからといって国に何の被害も無かった訳ではない。


 特に強力なダンジョンとなるとボスを倒すのも難しくなってくる。 そうなると、地道にモンスターを倒してダンジョンの魔力を削っていかなければなるまい。


 もうそうなれば、残念なことに死者は出てしまう。 零だった死者数は冒険者数の増加に伴い、ついに決定的な数字と共に刻んでしまった。


 冒険者は冒険をするのがある意味で仕事だ。 未知や危険が隣同士であるからこそ、当たり前だが何時かは死ぬ人間も出てきてしまう。


 その上で、死なない為の努力も重ねていくのが人間だ。 レベルを上げ、能力の使い方を考え、戦法を確立して次に備える。


 彼等は今、どれくらい未来のレベルに近付いただろうか。 気にはなるも、それは明日になれば自然と知れるだろう。


 解っているのは、一部の冒険者が突出した戦果を出していること。 そして中国はなんとか国としての体裁を保とうとしていることだ。


 中国のダンジョンは沈静化している。 具体的にどう収めたかはさておき、あそこが使えるようになるなら冒険者社会の発展は一気に早くなる。


 予想外なのは、あのダンジョンの持ち主が日本になっていることだ。


 正確には日本の領土になった訳ではないが、優先権は日本にある。 日本の企業がダンジョン産の道具を作る時、素材を求めて中国のダンジョンに入っても良くなっていた。


 これは未来でも起きなかったことだ。 俺が起こした行為が更に未来を変え、日本の経済状況は以前よりも良くなってきている。


 物価も低くなり、日本のダンジョンはギルドが最優先で管理しているお陰で安定していた。


 つまり、家族が苦しむ道理は俺以外に一つもない。 そこまで辿り着き、俺は先ず安堵した。

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