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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者83 運命共同体

 自身の空間が割れた。


 亀裂は広がり、限界を迎えて破片となって虚空に落ちていく。


 地面は地面の役割を果たせず、空は空の役目を放棄し、自分の居た場所そのものが一枚の板の上に存在していたような錯覚を覚えた。


 いや、錯覚ではないのだろう。 仮想空間としての機能を有した空間は、実際は四方を囲む板しかなかった。


 俺がこれまで見てきた景色は全てモニターに映っていたもので、そこに人が投影されていただけに過ぎない。


 その証拠に、全ての空間が割れた暗闇の中で俺の肉体は一切の損傷を負っていなかった。


 まるで夢から覚めたかの如く、服装も冒険者としての物に戻っている。


 つまりはこちらが現実。 舞台の裏側に俺の意識は移行し、気付けば目の前に見た目がまったく一緒の男が立っていた。


 その表情には怒りと、そして困惑がある。 予想外の出来事が起こってしまい、もうこの状況を維持するのが難しくなってしまったのだ。


「――すまんが、お前達のことはどうでもいいんだ」


 眼前の人物に、俺は告げる。


 訓練生としての格好をしている人物は、その言葉に怒りの割合を増した。


 だが、これは言わねばならない。 彼は俺に真実を伝えようとしていたが、その真実とやらをこっちは特に求めてはいなかった。


 ナラのことだとか、マリーザのことだとか。 自分の前世がどうだという話も、俺個人に限って言えば須らく優先順位が低かった。


 気になる部分があってもそれは神の眼についてだけで、それさえも今では感覚的に解る。


 やっと生まれたのだ。 赤子が五感を手にして情報を集めていくように、俺もまた徐々に徐々と内部にあるものを知っていくのだろう。


 だから、助けの手など必要無い。 ――そも、ソアがしたかったことは俺を助けることではない筈だ。


「あんな状況を見せられた以上、その全てを否定するつもりはない。 お前は確かに俺の前世で、きっと力の使い方も教えてくれたんだろう。 俺に関係する真実とやらも実際に見せてくれて、きっと諸々の疑問は解決してくれた筈だ」


「ならどうして、お前は引き摺り出した。 知りたいものを知れる機会があったのに、どうして知ろうとしない。 無知なままでいるつもりか」


「さっきも言った通り、どうでもいいんだ。 だってそこに俺の軌跡は一部だって入ってはいなかった。 別の人間の意思だけがあって、俺は所詮人形のように誘導され続けていただけだ。 ――お前が望むように動かされていただけに過ぎない」


 よくよく考えれば、俺を誘導するのが誰かを考えた時に選択肢は一つしか存在しない。


 ナラの影は見えず、マリーザはそもそも居ない。 他の人間は無関係であり、かといってじゃあ異世界に関与することが可能な別の人間が居たとも思えない。


 この場の中で今の俺に干渉出来るのはソアだけだ。 彼が望むように、あの時は状況を動かそうとしていた。


 だが、偶然にもこうなった。 彼の想像上の人物が想像を超えた動きをし始め、結果的にソアの許容範囲を逸脱した出力を発したのだ。


 そうなったのはどうしてだろうか。


 彼は自分の記憶を体験させようとしていた。 その理由から考えるなら、やはりよりリアルな体験をさせようとしたからではないかと俺は思う。


「運が良かった。 お前がリアリティを追求してくれたお陰で、相手は全力を発揮してくれた。 そうならないようにしていたかもしれないが、お前は解釈不一致を許せない」


「……」


「あの男の強さはこんなもんじゃないと無意識に思ってしまったんだろ。 だから崩れた。 ……間抜けな奴め」


 自滅だ。


 真実を真実とするには、一片の不足もあってはならない。


 彼としては本気で俺に全てを語ろうとしていた。 ちょっとの嘘も含まれてはいないと、俺に信じてほしかった。


 だから真剣に作って、加減しきれずに終わったのだ。


 真実はまたも暗闇の中に閉ざされ、俺がそれを知る術は他を使うしかない。 そして、ソアはもう俺に何を言っても解ってはくれないと確信してしまっている。


「俺にとってお前達の過去は関係無い。 俺は俺で、お前はお前。 魂が同じだとか、特別な力が入っていてもその点に変わりはない。 ――――だから、俺をもう解放してくれ。 お前達の都合に俺を付き合わせるな」


「……それは出来ない」


 崩壊した以上は、もうソアの都合は果たせない。


 ここからは俺の都合を呑んでもらうと言えば、相手は絞り出すように否を告げた。


 苦々しい顔をしているのは、今言ったセリフが本意ではないからか。 同じ顔をしているのに、ソアの方が感情豊かで追い詰められている。


「確かに、アンタはアンタだ。 過去のあれこれにアンタは微塵も関わっちゃいない。 ……でも、それでもマリーザは引かない。 絶対に俺達を捕まえに動く。 彼女にとっては俺達だけが味方だったから」


「勝負は避けられないと?」


「死ぬ気で狙ってくるだろうな。 最初の目的は移住だっただろうが、こちらを捕捉した段階で既に彼女の狙いはすっかり変わっている筈だ。 あくまでも表面上は移住を軸に動くとは思うが、裏で何が起きていても不思議じゃない」


 ソアは苦い顔のまま確信の籠もった言葉を述べていく。


 俺の知るマリーザの姿は、まだ若いながらも凛とした態度の女性だった。 口調にも極端な違和感を持たず、彼女は最初から最後まで移住を成そうとしていた。


 それがまるっきり嘘だった訳ではないが、俺が姿を見せた瞬間に変わってしまったという。


 ソアは俺の中で状況を見ていたと語る。 今の俺よりも遥かに関係が深かったらしい彼からすれば、全身の鳥肌が立つ程の感情を向けられたらしい。


 全ては当人同士にしか解らないが、今は俺の肉体となっている状況ではどうしても巻き込まれる。


 今回の行動は警告としての意味合いの方が強かった。


 今後の生活にマリーザは明確な壁となり、最悪は俺は家族と二度と会えなくなる可能性が高くなる。


「嘘かどうかなんて段階は既に過ぎてる。 一刻も早く手に入れてくれ、あの力を。 誰も信じられなくてもだ」


「――――解った、その言葉を信じよう」


 ソアの本気に、俺は頷いた。


 聞いた当人は目を見開いて驚きを露わにしていたが、難しく考える必要はない。


 俺達は一心同体。 同じ肉体を共有している上に魂まで一緒だ。 どちらかの消滅がもう片方の消滅になると解っているのであれば、そして互いに安穏とした生活を望むなら。


 手を結ぶしか方法はない。 信の言葉の上で握手を交わし、完全な運命共同体となる。


 裏切りは起きてはならない。 不和も起こしてはならない。 相手は国家を動かせる程の人物なのだから、仲違いをしている暇も当然ながらあり得ない。


 言葉としてもそれを述べ、彼もまた納得した。 まだまだ完全な信頼関係の構築は難しいだろうし、そもそもどこまで信じれば完全になるのかも解らない。


 いや、それ以前にビジネスめいた関係を継続するだけで終わる可能性もある。


 全てはマリーザがやること次第。 彼の言葉が本当であったのなら、文字通りの意味で必死になって神の眼の習得に動くだろう。


 会話が途切れた次の瞬間、両者の間を区切るように白い線が走る。


 俺側は徐々に白に侵食され、反対にソアはそのままだ。 これは一体何事かと目で問いかけると、彼は心配いらないと返す。


「これからアンタの意識を外に戻す。 起きたらナラとも会話をしてみてくれ。 随分辛辣な対応をしていたが、敵を知るのにあの子以上の存在はいない」


「……それ、お前がやっておいてくれない?」


「悪いけど、俺と彼女じゃ居る場所が違う。 ……でも、そうだな。 俺も話したいよ、彼女とは」


 白が光を発していく。


 輝く粒子が徐々に俺の視界を占有していき、彼の姿も見えなくなってくる。


 最後に呟いたソアの表情は、嘗ての自分のような満面の笑みだった。 俺が咲と付き合っていた、あの時のように。

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