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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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第十九歩 宣戦布告

噴き出る鮮血がどちらなのかを榊原達は最初、解っていなかった。


 しかし時間経過で瞳に理解の色を示し始め、予想外にも予想外な結末に警戒の二字が消え去る。


 胴体から首にかけて巨大な裂傷が出来ていた。内臓が飛び出てしまいかねない程の傷は生命に致命的な損傷を与え、即座の回復が無ければ直ぐに呼吸も止まるだろう。


 激突の瞬間は異世界組を除き、誰も視認出来ていない。それでも――――今此処にはザークリフが斬られた結末だけが存在している。


 彼の眼には信じられない思いがあった。


 あの一瞬、無意識で発揮された一撃はザークリフにとって間違いなく全力だ。低レベル帯のモンスターであれば触れた直後に肉体が弾け、その場に肉片を残すのみとなっていた。


 能力そのものを乗せた訳ではないので厳密には全霊ではないが、だからといって相手の身体が耐え切れるか否かであれば答えは当然否だ。


 翔の中身は兎も角、肉体性能はレベル上の数値に準拠している。


 その数値に合わせればザークリフの速度を上回るのは不可能であり、そもそも武器自体が肌を斬るまでには至らない。


 であれば、その根本原因は翔の肉体にはない。中身の違いがこの結果を招いている。


 激痛を堪え、よろめきながらも彼は翔の目を見た。その黄金の眼に浮かぶ輝きは、今も燦然として止まらない。


 生命の光。あるいは、魂の強さ。常人どころか超人すらも圧倒する輝きは、当たり前だが常時表に出るものではない。


 翔の身体には僅かな血も付着していなかった。流れた血液は全て地面かザークリフを濡らし、ナラは笑みのままナイフをちらつかせる。


「予想していなかった? 僕の能力は解ってるのに?」


「――神の眼」


 馬鹿にするような言い方に、しかしザークリフは冷静に返した。


 この状況を起こした原因を探すなら、可能性として一番に出るのは正にソレだ。マリーザやナラが語るその能力が十全に使えるなら、レベル差を覆すのは不可能ではない。


 だが、まさか使えるとザークリフは予想していない。そもそも彼の中に彼女が居る事実そのものを知らなかったのだから予想出来る筈もないが、だとしても神の眼の使用はまだ出来ないと彼は判断していた。


 その判断は誤りだった。どこまで使えるかはさておき、使える時点で最大の脅威になる。


 前提が崩れ、彼自身も崩れる。


 即死しなかったのは単純にナラが全力で斬らなかっただけで、ナイフを更に深くまで押し込めば心臓は今頃切り落とされていた。


「一度死ねば、力は無くなるとでも思っていたの? 実際に身に付けていた訳でもないのに、それは浅い考えだよ――――それじゃあね」


 あまり長く一緒に喋る気は無い。


 流れるようにナイフを一閃。ザークリフにはその挙動が完全に見えていて、動きにも速さを感じない。


 いたって普通の攻撃に見えているのに、動こうとすると途端に枷が嵌められたかの如く動けない。


 能力をフルで発動して守りの体勢に入るも、そんなものは最初の段階でナラには解っている。


 滑るように刃が肉に食い込む。硬い肌は金属を弾くのに、触れた瞬間に能力が強制的に解除された。首を両断する形でナイフは首に入り込み、あらゆる筋繊維や血管を断ち切って生命活動を終了させる。


 スムーズな動作を見るに慣れているのだろう。翔の身体であろうとも十全に力を振るい、ザークリフは目を見開いたままその首を地面に落とすことになった。


 首から下は立ち尽くす。頭からの命令が無い今、その身体はやがてダンジョンに飲み込まれて魔力に変わってしまう。


 だが、この場の誰もがザークリフに同情しない。


 一度は翔を殺しかけた人間。異世界組からしても、過去の因縁がある所為か反応は冷ややかだ。


 場は沈黙に支配される。ナラが短く息を吐き、空へと視線を動かした。


 今この瞬間にもこちらを見ているマリーザに感情をぶつけるように、その瞳はやはり輝かしい。


 本来その黄金は人を慈しむ柔らかな太陽の如き光を放っていたのだろう。例え純粋ではいられない環境に身を置いていたとしても、万人を祝福する特別性を帯びていた筈だ。


 しかし、今の彼女の輝きは無慈悲そのもの。万象等しく焼き尽くす太陽の危険性を前面に押し出した瞳に、マリーザとて安穏とはしていられない。


『生きているとは……内心少し思っていました。 私には死者が何処に向かうのかが見えていますから』


「そうだろうね。 だから解っていた上で僕はソアと一緒に逃亡したよ。 ――姉様に渡しちゃったら死んだ意味が無いからね」


『憤懣やる方ないですよ、本当に。 まさかあそこまで力を使えていたとは、想像だにしていませんでした』


「奥の手は最後まで隠しておくものだよ。 ……それで? 僕は姉様とこれ以上は話したくないんだけど」


 二人だけの会話に余人が入り込む隙間は無い。


 解っている同士は他者の存在を無視し言葉を交わす。マリーザはあくまでも穏やかな姿勢を貫き、ナラは牙を剥き出して己の敵意を明確にしていた。


『戻る気は?』


「まさか。 そちらの住人全員を僕は嫌悪している。 戻っても我慢を強いてくるなら、来る人間全員を殺した方がずっと気分が晴れるだろうね」


『私は何時でも対話をするつもりです。 ですが、私にも立場があります。 貴方がそのつもりなら、此方も相応に対処しなければならないでしょう』


 この姉妹は、再会した時点で終わってしまっている。


 己の意思を退ける気は皆無であり、そうするくらいなら踏み潰す程の気概があった。


 こうなってしまうからには、争いは避けられない。先に榊原が宣言してしまったが、ナラの意思によってこの世界の行く道はこれで明確になってしまった。


 即次、人民同士の争いは確定。異世界を地球は拒み、訪れる者達にはそのまま滅んでもらう。


 異世界からやってくる者達の中にはナラとは何の関係も無い人間も居るだろう。一般市民は最後になるだろうが、少なくとも生き残っている人間を渡らせる努力は間違いなくする。


 彼等に罪は無い。ただ生きようとしているだけで、博愛精神の持ち主なら救おうと手を差し伸ばしたっておかしくはない。


 そんな者達にもナラは否を叩き付けた。そこで大人しく死ねと、彼女は断言した。


 ならばマリーザはその国の姫として立ち向かわなければならない。対話の姿勢を持っていても、剣を携えて邪魔する壁を破壊するのだ。


「次は戦う気で来なよ。 ……この僕に勝てるって言うならさ」


『その言葉、そっくりそのまま返しましょう。 貴方が思うより今の我々は遥かに強い』


「結局逃げてるクセに何を言ってんだか。 ま、じゃあね」


 マリーザの気配が遠ざかる。


 ナラの目には魔法の効力がこの場から無くなる瞬間が見え、完全に相手の目が無くなったと確認してから重く息を吐き出した。


 そして、漸くといった形でナラは榊原と視線を交わす。


「脅威は消えたよ。 でもまだダンジョンの魔力は満ちている。 一時的に姉様が止めていたけど、これからボスが出て来るから構えた方が良い」


「……貴方は」


 そっちの人達もー!と声を発して冒険者を集めようとするナラに対し、榊原は警戒しながら相手を見る。


 この翔はやはり本人ではない。翔はこんなに軽い調子で言葉を発することはしなかった。


 だがそれでも、今の彼の身体には損傷は見当たらない。死が回避された事実はそのままで、それが彼女には嬉しかった。


 それに異世界の存在とも敵対している。この相手とならば、あるいは手を取り合えるのではないか。


 榊原がそう考えるのは自然だろう。


「自己紹介もかねて、戦いながら説明はするよ。 兎に角今は、此処に出て来るボスを連続で倒そう」


 ナラは朗らかに笑ってみせた。その目は、先の黄金とは思えない程に暖かかった。

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