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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者54 業務内容

『気分はどう?』


『大変だよね?』


『何時でも僕は話をするよ? 別にそれで何か欲しいって訳でもないからさ』


「……」


 入社式の中でもナラからのメッセージは頻繁に来ていた。


 その悉くが此方の諦めを誘うような文言で、一度許せば向こうの流れに乗ってしまうのは自明の理だ。


 なるべくシステム画面を見ないように顔を逸らし、時折ブレる視界に舌を打つ。


 体調は万全とは言えない。頭痛は幾らか引いたものの、気持ちの悪さは健在だ。更にあちこちの関節から痛みが発され、頭痛の代わりと言わんばかりに変調を訴えてくる。


 気合で普段通りにしてはいるものの、本音を言えばベッドで横になりたい。それで少しでも良くなる訳ではないものの、外部の刺激を受けたくはなかった。


 視線を感じる。先を辿ると、榊原からの気遣わし気な目があった。


 首を左右に振って気にするなと伝えるも、榊原は顔を曇らせるだけ。力になりたいが何も出来ない現実に自責しているのは明らかだった。


 中国へ行くことが決まっている俺だが、海外には残念なことに味方は居ない。


 予言者としての俺は世界中の誰もが欲する存在であり、その身分のまま国外に出ようとすれば最悪誘拐される懸念がある。


 そんなことにはならないだろうと笑い飛ばしたいが、今の日本はダンジョン周りの情報を多く手に入れていた。この情報を手に入れる為に国外のスパイが入り込む例が後を絶たず、実際に秘密裏に逮捕された事実も老人は話してくれている。


 そうなると、予言者として俺は外に出れない。場所が場所なのもあり、中国の人間が少しでも俺を知れば全力で擦り寄って来るのは明白だった。


 その為、今回の俺は翔として中国に向かうことになっている。そして今の俺を守ることを理由として榊原や山田のように一緒に向かう人間には正体を語っておいた。


 反応としては、先ず驚愕だ。


 中身が若いのもあるが、素顔を晒した俺が思いの外普通だったのが意外だったらしい。彼等が想像した予言者は思ったよりもイケメンで、日本人らしさの薄い顔立ちだったのかもしれない。


 名前も普通で、経歴も別におかしいものはない。普通ではないのはやはり能力そのもので、だから俺を普通の人間として認識してしまっている。


 故に今一番に心配されているのは、その身に起きている爆弾の存在だ。


 これが一体何時完全に起動するかはナラの気分次第。彼女を無視し続けていけば、早期に爆弾が動き出して肉体は四散するだろう。


 かといって、じゃあ仲良くしたいとも俺は思えない。それはビジネス的な関係であってもだ。


 頭の固い判断だと笑う人は笑うと思うが、異世界の存在と繋がるなんて良くも悪くも現代社会に大きな影響を与えることになる。


 ダンジョンそのものでも時代が変わったのだ。異世界人と繋がり、新しい社会を築く過程で更に現代人の思想は顕著に変わっていく。


 それが良い面ばかりだったなら静観するに留めるが、既に多数の死者を出しての共存の提案である。そんな真似を初手でするような連中が良い面を与えてくれても、それ以上に悪い部分を与えてくるのは間違いない。


 上は平和思考でも下は犯罪上等な人間ばかりだったらどうする。現代文明では分析しきれない麻薬や毒が市井の間に広まったらどうする。


 気軽に人を殺せてしまう人間が増えたら、一体どうやって普通の人は暮らしていけばいいのだろう。


 治安の悪化はそのまま生存率に直結する。家族の無事を望むなら、そもそも異世界の存在と繋がりを作るのは避けるべきだ。


「休憩時間は終了です。 ここから先は具体的な業務内容についてを説明しつつ、明日からの予定を教えていきます」


 全員が着席したのを確認して、山田が口を開く。


 一番前に座る俺に山田は視線を向けない。既に教えられる部分については教え、彼等なりにどう部署を回していくかは会議で幾度も議論を重ねてある。


 今更俺に訊ねてくるとすれば、それは本当に未知の存在が現れた時だけ。それが俺の解る範囲であれば対処も言えるが、今後は難しくなってくるだろう。


 さて、ギルドの冒険者は冒険課と呼ばれる部署に所属することになる。さらに特定の役割に合わせて戦士隊、魔法隊、補助隊、製作隊に別れて入り、俺は補助隊に所属する形になった。


 彼等がどの隊に入るかは実際に覚醒してからになるので、明日からは彼等の覚醒が最初の仕事になる。


 敵を殺す。その感覚を骨身に実感させる作業であり、自分が普通とは違うと自覚しなければならない。


 その上で倫理と常識を守るのが、公務員化した冒険者の鉄則だ。これを破れば、最悪はその場での処刑に移行する。


 これは契約書にも記載されていることだ。


 未だ冒険者を捕縛する檻が完成していない以上、犯罪を犯す者は迅速に処分しなければならない。


 ちなみに殺すのも冒険者だ。つまり彼等には最悪の場合に人殺しも経験することになる。俺や現時点で冒険者となっている人間は抵抗感が薄いが、完全な一般人である彼等に人を殺せるかは解らない。


 出来れば規則に沿った動きをしてほしいものだと思いつつ、一先ずの業務内容を俺も確認した。


 冒険者は戦いが業務の大半を占めるものの、実際に求められる作業は各企業の資源回収班の護衛や未開地の探索である。


 現在、日本で発生しているダンジョンは一つだけ。その内容は俺によってほぼ全貌が明らかにされており、今更探索の必要性は薄い。


 記録資料として簡易な探索はするが、恐らく俺が伝達した内容をそのまま書く形となるだろう。


 つまり新人は自身のレベルや技量を上げるのが当面の主目的となり、一定の水準に到達したと同時に護衛やその他の業務を少人数で遂行することになる。


 このその他の業務についてだが、まぁなんとも内実を知っている身としては面倒極まりない。


 政治的に重要な位置に就いている人間の護衛。日本中の危険地帯の調査。他企業と協力しての新製品作り。


 範囲は決まっているが、何でも屋に近い真似を俺達はすることになる。


 冒険者の頑健な身体は通常の人間の比ではない。これまで出来なかったことが出来るようになるならば、それは有効活用していかなければならないだろうと政府が思った訳だ。


 その中に何人の政治家の薄暗い思惑があるかは定かではない。ただ、もしもそれが解った瞬間に冒険者は手を離れることを老人は政府に認めさせていた。


 不正行為は断じて認めない。これは一般人でもそうだが、冒険者であれば特に重視される点だ。


「本日はギルド内の案内を残りはするのみですが、明日からは早朝にギルドに集合してもらいダンジョンに向かいます。 ――現時点で何か質問はありますか?」


 山田の言葉に、数人が手を挙げる。


 その中の一人を名指しで呼ぶと、当人は席を立った。


「これまでの御話の中で業務内容は理解しました。 その上で何が評価点になるかを聞いても構いませんか?」


「勿論です。 先ず大前提として業務の遂行は例外を除いて絶対です」


 女性の冒険者の質問に山田は淀みなく答える。


 上を目指すことは暮らしを豊かにしていく為にも必要だ。でもどうすれば世の中から高く評価されるかは確かに冒険者では解らない。


 が、基本は他の職業と一緒だ。与えられた職務を熟し、不快な言動を取らない。


 冒険者は我が強い方が実力的に優れている面がある。その我をどれだけ抑えつつ働けるかが上を目指す過程では重要だ。


 そこを理解している前提で、早く上に行きたいのであれば新しい物を見つけていくか純粋に強力なモンスターを単独で撃破することが出来る実力を手に入れていくしかない。


 人よりも優れていること。こればっかりはどんな界隈でも一緒である。


 俺も現冒険者達も、その点だけは新人と何も変わらない。ちょっと夢が無いなぁと思ったのは内緒である。

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