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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者55 新人達の後に

「業務内容は一先ずこれで大丈夫ですか?」


「良いと思いますよ。 ……それより丁寧語は抜いてください。 今は貴方の部下なんですから」


 質問を終え、説明や資料配りをしていると時間はあっという間に過ぎていった。


 初の職種だけに、どんな危険や不安があるかは榊原達でも全てを把握し切れていない。その為、一回目の勇気ある質問以降は多数の手が挙がることになった。


 大部分が気にするのは、やはり生命の保証だ。如何に冒険者が危険な職業だと世間で伝えても、それでも最低限の保証はある筈だと思っている人間は少なくない。


 それにこの職業をゲームと同じだと考える人間も居る。結局はゲームのように思考すれば仕事は順調に進んでいくのだろうと。


 とんでもない話だ。確かに榊原や山田を含めた現在の冒険者達が新人を守るつもりだが、それでも彼等だって俺より残酷さを知っている訳ではない。


 その俺とて映像で見ていただけ。実感が伴っていない以上、不測の事態は絶対に発生するだろう。


 故に、山田は明確に告げた。この職業に絶対の安全は保証されないと。


 一つの失敗が即死に繋がる。一つの裏切りが大多数を殺す。そして、一つの見落としが国民を地獄の底に落とすことになる。


 公務員となった以上、彼等は国の為に働くことになる。勿論、それに合わせて待遇も相応に良くはなってくるが、肩に乗る重圧も自然と増えていく。


 俺達に失敗は出来ない。俺達に敗北は許されない。厳しい言葉だが、日本をそのまま国の形として維持していくなら研鑽の足は止められない。


 山田の厳しい口調も合わさり、彼等もいよいよもって紙面の契約の重さを実感することになった。


 渋面を浮かべる者、覚悟を決める者、怯える者に笑みを湛えて余裕な者。反応は様々であれど、彼等が逃げ出す道は既に閉ざされている。


 選ばれ、承諾をした。


 この時点で契約は結ばれ、辞めるには相応の代償を払うことになる。


 別に命を取られる訳ではないが、普通の会社に再就職をしても監視される生活になるだろう。


 地盤を安定化するまではこうせざるを得ない。何れは各国も冒険者向けの組織を作っていくので、そこまでは厳しくする他なかった。


「い、いえいえ! 貴方に対して砕けた口調は出来ません!」


「……せめて人前ではお願いします。 そうでなければ怪しまれてしまうので」


「ええ、それは解っております。 ……少々不安ですが」


 冒険者の定時は十八時に定めている。


 市役所であればそこから更に部署によって残業があるらしく、本当に帰れない場合は日付を跨ぐらしい。


 新人は説明会と質問タイムが終わって施設の見学を行った後に帰宅することになった。後片付けは山田達がすることになり、俺も話をする為に残っている。


 用意された一室で紙コップに入った熱いお茶を飲みつつ、山田と軽く話しながら中国についてを尋ねる。


 山田は俺の言葉に表情を深刻なものに変えた。どうやら彼にとっては状況は良くないらしい。


「今回の派遣ですが、自衛隊と一緒に赴くことになります。 彼等がサポートに回り、我々が実質的にモンスターを倒していくことになります」


「……何処まで安全圏を確保するつもりですか」


「ダンジョンとその周囲です。 どれだけ大陸に散らばったモンスターを倒しても大元がそのままでは数は変わらないでしょう。 根本を制圧して周囲の安全を作り、襲撃するであろうモンスターを倒しながら中国国民の保護もしていきます」


「成程。 攻略は前提なんですね」


 山田が表情を緩めないのは、やはりダンジョンの攻略があるからだろう。


 日本のダンジョンと異なり、今回は難易度が少し上がっている。それでもまだ全然なレベルではあるものの、やはり初見での完全攻略は難しいと理解しているのだ。


 そも、俺が助言をしなければこの日本のダンジョンを攻略するのにも少し手古摺っていた筈。事前の情報があったればこそ、今回もやろうと思ったのだ。


 だが、攻略されることを普通と思われるのは修正していかなければならない。今後更にダンジョンは数を増していき、その難易度を加速度的に上げていく。


 最終的には何ヶ月も攻略に時間が掛かるダンジョンが出現するのだから、行って直ぐにクリアは幻想だと思ってもらわなければならない。


 加えて中国政府の要望はクリアだけではないのだ。彼等が望むのは元の中国であり、その為には大陸に存在する肉体を得たモンスターを絶滅させなければならない。


 一度肉の身体を手に入れると、モンスターは生殖活動が可能となる。


 最初にダンジョンが発生してからもう一年は軽く経過しているので、彼等が自身の生活環境を整えていても不思議ではない。


 ダンジョンの制限を脱した彼等は好き放題に活動を始めるので、子供の数も爆発的に増加しているだろう。人間を利用した生殖活動を行う種族も存在するので、場所によっては無数の人間の死体を見ることになるかもしれない。


 増えた個体を自衛隊やギルドだけで殲滅するのは不可能だ。必ず生き延びる個体が現れ、そいつらが数を増やすのは目に見えている。


 その為、中国の要請はそもそもが実現不可能なのだ。老人もそれは解っているので、向こうの頼みについては事前に条件を設けてある。


「我々ギルドの最優先事項はまずダンジョンをクリアすることにあり、次にダンジョンからモンスターが溢れ出ないよう間引きも継続的に行います。 ただし、長期間滞在するのは此方にも事情があるので厳しく、代替手段として積極的に中国国民を冒険者にしていく予定です」


「……向こうで管理は出来ますかね?」


「難しいでしょう。 ただでさえ政府が機能していない状況です。 冒険者に覚醒した自警団的組織も自身の守る場所から離れようとしません。 新たに増やしたとしても、その冒険者が政府に反するのであれば次の敵になりかねません――――それでも、我々は二ヶ月後には完全撤退します」


 日本が中国を助ける義理は無い。


 そもそも彼等は日本で起こした迷惑に対して、何か詫びをするだとか賠償することもなかった。


 損をするのは常に此方ばかりで、故に老人はここぞとばかりに強気に出ている。両者の間には明確な上下があり、軍を少しも外部に出せないあちらは自衛隊にもまともな攻撃が仕掛けられないでいる。


 今なら日本の領土にするのも不可能ではない。俺達がダンジョンを占有して自身の物だと宣言したとして、そこに中国は文句を言えない。


 他国には中国ダンジョンの資源を格安で売ると言えば納得を得られるだろう。何処の国でも未知の素材は研究したい筈だからな。


 だが、そうしたくとも俺達だって余裕がある訳ではない。なるべく少ない冒険者を派遣するが、それでもギルドの運営には支障が出てしまう。


 二ヶ月。


 それが俺達が滞在する時間だ。二ヶ月後までに中国政府がもっと協力的になってくれなければ、俺達の頑張りは殆ど無駄に終わるだろう。


 損する確率は、残念なことに高い。しかし中国のダンジョン資源を多く持って帰れば、その損失をいくらかカバー出来る筈だ。


 中国ダンジョンの魔力が枯渇するまで搾取し続ければ、復活まで中国政府は資源を獲得出来ない。


 それはあちらにとって損失に繋がるが、そもそも手が出せない場所だ。俺達が現地人を冒険者に変えて、そして去って初めて彼等は調査に動き出せるだろう。


 ついでに取り残された日本人も回収しておきたい。これはサンライフ等の企業に確認を取らねばならないが、皆危険な場所に社員を置いておくのは望ましく考えない筈だ。


 支社を捨てる形になるものの、既に日本では中国支社は消滅扱いになっているところも多い。損失自体は存在しても、仕方ないともう諦めてしまっているだろう。


「御家族にはどのように説明をするのですか? 一応、新人はこれから一週間ダンジョンに行くことにしてはいますが……」


「そこは考えてあります。 俺も家族には一週間ダンジョンに行くと言っておくつもりですので。 その上で、長期滞在させる程の理由を作ってしまえばいいんです」


「で、ではその内容は――」


「それはですね……」


 俺と山田の内緒話は長く続く。


 結局帰るのは夜の二十時を超え、家に到着する頃には二十一時に迫ろうとしていた。


 残業はしたくなかったが、これで中国に行くのは問題無い。内緒で老人経由でパスポートも用意されるらしく、費用も向こう持ちになった。

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