乙子ルート 第6日目⑩
⑩
「じゃあ、乙子で」
「あたしでいいの?」
そんな殊勝なセリフを口にしながらはにかむ乙子。
ちくしょう、かわいいじゃないかよぅ。
そんな乙子に対して素直になれないオレがいたりするわけで。
「カン違いしないでよっ、別に乙子のことが好きなわけじゃないんだからねっ。ヒマでヒマでしょうがないから仕方なく相手にしてあげるだけなんだからっ。カン違いしないでよっ」
「この期に及んでツンデレか……」
達人にそんなことを言われつつ、オレは乙子と砂浜の方へ向かっていった。
「で、何する? あたしは別になんでもいいわよ」
「なんでもいいって……。そういう返答が一番困るのよね……」
「子どもに晩御飯のリクエストを訊いた母親か、あんたは……。で、真面目な話何する?」
「ここは海でのお約束、『逃げる女、追いかける男』でどうでしょう?」
「本気?」
「自分じゃなんの案も出さないのに、文句ばっか言う人って最低だわ」
「女言葉、やめなさいよ。なんか異様にムカつくのよ……。じゃあ、いいわよ。それで」
「しからば」
「あはは。つかまえてごらんなさ~~~い」
「あはは。待てよ~~~」
海に来たら誰もが一度は経験するであろう、逃げる女と追いかける男。
ここは少し走ったら女は男に捕まるのがお約束です。
しかし、そこは空気の読めない乙子のこと。
全力疾走でオレから逃げる。
さすがカモシカのような脚をしているだけのことはある。
いい脚してますね。
マジで速いぞ、この野郎。まあ、野郎じゃないけど。
オレも乙子も負けず嫌いを絵に描いたような性格だ。
そんなわけで最初から最後までクライマックスで走り抜ける。
「待て、待て、待て~~~い!!」
「お生憎様、待てと言われて待つバカはいないわ!」
そんなことを言って逃げる。
逃げる。逃げる。乙子が逃げる。
弾む。弾む。息が弾む。
揺れる。揺れる。おっぱいが揺れる。
おっぱいがぷるんぷるん、と揺れる。
む、こうして見るとやっぱり乙子っておっぱい結構ありますね。
そんな揺れるおっぱいを見てると立つモノが立ってしまうわけで。
「貞君、あんたなんで前かがみなのよ?」
「男の子の事情です。察して下さい。お願いだから」
そんなやり取りを繰り返し、ようやく乙子を捕まえる。
「はぁはぁ……。少しは手加減というものを覚えろよ……。チミはお約束というものを知らんのかね……」
息も絶え絶えにつっこむオレ。
こんなに一所懸命走ったのは高校を卒業してからは多分初めてだ。
「しょうがないでしょ……。こういう……性格……なんだから」
乙子も同じように苦しそうだ。
まあ、二人とも似たようなところがあるので、二人きりになるとついつい勝負事に走ってしまう。
それは昔から変わらない。そしてこれからも。きっと。




