乙子ルート 第6日目⑪
⑪
「ところで、姫」
「なによ?」
「のど渇きませんか?」
「そうね、この暑い中あれだけ走ったんだもの。さすがにのどがカラカラだわ」
「何をお飲みになりますか?」
「今日は暑いから炭酸系がいいわね。ノンカロリーのコーラがいいかな」
「御意。しばしお待ちを」
ここは高校時代「パーフェクト・パシリスト」としてならしたオレのへつらいっぷりを拝み倒すがいい。
パーフェクト・パシリスト。
「PP」とか書くと、ピアノの上手いあの人を思い出してしまう人も多いと思うけど、ここでは関係ない。
オレは注文を聞くと、風のように駆け出した。
パシリは正確かつ迅速に。基本よ?
一応説明しておくけど、別にいじめられてパシらされてたわけじゃないからな?
自主的にやってました。
そこんとこは絶対に間違えないように。
そんなわけで速攻でコーラを買ってくる。
「もう買ってきたの!?」
驚く乙子。
五分前に「ほしい」と言った品物が十分後にはもうほしくなくなっているかもしれません。
だから、パシリは時間が勝負なのです。
一分一秒が生死をかけた戦いなのです。
大ゲサに聞こえるかもしれないけど「食べたい時がゴハン時」っていうアレです。
乙子が一息ついたところで、オレは自分が致命的なミスをしていることに気づいた。
「あ、オレの分買ってくるの忘れた」
早く買ってくることを最分を優先にし過ぎたため、オレは自分の分を勘定に入れていなかった。ミッション自体は失敗していないものの、なんたる不覚か。
「しょうがないわね、これ、飲みなさいよ」
乙子の飲んでいたコーラを手渡してくる。
「え、でも……」
「あんただってのど渇いてるんでしょ。遠慮なんてしてないで飲みなさいよ」
昨日に引き続き、これは間接キスというヤツでは?
「なに? あたしが口をつけたコーラは飲めないの?」
ためらうオレに乙子が飲み会の席で酔っ払ったおっさんみたいなパワハラっぽい物言いをしてくる。
「いえいえ、そんな滅相もない。頂きます」
ドキドキしつつ、飲み口には口が触れないように上からコーラを落として飲む。
ごきゅごきゅごきゅ。
美味い。
キンキンに冷えたコーラが心地よく渇いたのどを潤していく。
そんなオレのチキンな飲み方を見ていた乙子に「普通に口をつけて飲めばいいのに。あんたって普段はエロいくせに変なところは純情よね」などと言われてしまった。
そんな感じで乙子とまったりしていると、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。
さっきまであれだけ晴れてたのにいきなり天気が悪くなったのだ。
本当に天気ってのはわからないものだ。
最近言われてるようにそろそろ地球がヤバイんだろうか。
ケータイでニュースを見ると、ちょうどこの天気についてやっていた。
「本日現在、大雨の影響により一部区間の運転を見合わせておりますが、未だ××駅付近においては冠水状態にあり運転の再開が見込めません」
「電車、止まってるってよ」
「これじゃ帰れねーな……」
「だな。そうと決まれば……さっさと泊まるとこ、探そーぜ」
そんな達人の提案で日帰り旅行が泊まりになった。




