乙子ルート 第5日目⑦
⑦
危機は去った。
それを感じた乙子がオレに話しかけてきた。
「貞君、あんた、なかなかやるじゃない」
「当然」
余裕で答えるオレ。
乙子のオレに対する信頼度もうなぎ登りのようだ。
ゆとりの襲撃をかわしたオレたちは園内を歩いていた。
なんか末理さんといる時とは違うな。
なんか……落ち着く、というかまったりできる感じだ。
「どうしたの?」
「なんかこういうの、久し振りだな、と思って」
「確かにオレたち、いつも顔合わせてたけど、いつも達人もいたじゃん?
「そう言えば……そうね……」
達人が邪魔だとか思ってるわけじゃないけど、気がつけば大体いつも三人だし。
乙子とこんなに長い時間二人きりというのは非常に珍しいシチュエーションだ。
「だから、なんか新鮮でさ」
そんなことを言ってしまったせいか、妙に「二人きり(英語で言うと just the two of us)」を意識してしまい、沈黙が訪れた。
「……」
「……」
そんな空気を払拭させるべく、オレはことさら明るい声で提案した。
「乙子さん、乙子さん、今度はあれに乗りませんか?」
オレはそう言って遊園地の定番、コーヒーカップを指差した。
「別にいいけど……大丈夫なの? さっきまであんなに具合悪そうだったのに……」
「無問題」
国際派のオレらしく、チャイナ語で返答する。
そんな感じで次に乗るアトラクションはコーヒーカップですよ。
「はっはっは、だらしないですよ、乙子さん」
ぐるぐる回りながら移動するコーヒーカップに揺られながら、オレは余裕の笑みを浮かべた。
一方の乙子はカップの縁をしっかりとつかんで冷や汗を浮かべている。
「あんた、昔から回転モノのアトラクションには異様に強かったわよね……」
「鍛えてるからな」
「何をどういう風に鍛えれば、そうなるのよ……」
終了時、ジェットコースターの時とは対照的に今度は乙子がヘロヘロになっていた。
アトラクションに乗りまくって小腹が空いてきたので、屋台で何か買おうと思ったのだが、売っているものといえば、
フランクフルト→焼くだけ(ケチャップとマスタードは自分でかける)。
アイスクリーム→コーンにアイスクリームをのせるだけ。
チョコバナナ→バナナにチョコレートを塗ってトッピング。
どう考えても手抜きです、本当にありがとうございました。
そんなんで金儲けしようなんて甘いんですよ、この野郎。
焼きソバとかタコ焼きとかお好み焼きとかもっと色々あるだろ。
……青ノリついてるからデート中は全部NGだけどな。
フランクフルトもアイスクリームもチョコバナナも女の子に食べさせるのはくわえたり、なめたり、頬張ったり……絵的に非常にアレなので紳士たるオレはクレープを選びました。
そんなわけで、乙子はスタンダードなチョコとクリームの、オレはツナとサラダの入った甘くないタイプのクレープを食べている。
「貞君の食べてるヤツも美味しそうね、ちょっとちょうだい」
などと言って、オレの了解を得る前にかぶりついてくる。
乙子さん、これは俗に言う「間接キス」というヤツでは?
と、オレが思う一方、乙子には特に気にした様子はない。
「うん、こっちも美味しいわね。あんたもあたしの少し食べていいわよ」
「お、おう。それじゃ頂きます」
平静なフリを装いつつも、なかなかとドキドキを隠せないオレだった。




