乙子ルート 第5日目⑧
⑧
次に行くアトラクションを吟味しつつ、園内をねり歩く。
そんなオレに天啓が。
夏に遊園地といえば、お化け屋敷はお約束だろう。
女の子といっしょに来てるのにスルーするとかありえないよね。
というわけで、オレたちはお化け屋敷に入ることにした。
しかし、このまま入るのは芸がない。
オレは「一人百物語男」として肝試しの前には非常に重宝された男だ。
ここは盛り上げるために一発怪談でもブチかましますか。
「オトコ」
「なに?」
「普通に入るだけじゃつまらないだろうから、ここは一発オレが怪談でもブチかまそうと思うのですが、どうでしょうか?」
「いいわよ」
あっさりと了承する乙子。
じゃ、乙子は怪談に強いので上級レベルで。
「じゃあ始めるぞ」
「いいわよ」
若干声のトーンを落としてオレは語り始めた。
学校に忘れ物をしてしまったA君は誰もいない夜の教室にやってきました。
忘れ物を見つけ一安心したA君は向かいの校舎の窓に両肘をかけてこっちを見ている美少女に気づきました。
あんな美少女が学校にいるのに今まで気づかなかったのはおかしいと思いつつも、
A君が彼女に見とれていると、彼女は窓に手をつき身を乗り出しました。
その瞬間、A君は凍りつきました。
なんと彼女は上半身だけで下半身がありません。彼女は『テケテケ』という妖怪だったのです。そしてA君に向かって、肘を使って『テケテケ』とものすごい勢いで向かってきました。
それ以降A君の行方を知る者は誰もいません。
この話を聞いた者の元には三日以内にテケテケが現れるそうです。
この話を聞くと、大体のヤツはびびる。
特に最後の「三日以内にテケテケが現れる」なんて脅し文句は効果てきめんです。
「怪談なんてこわくねーよ」とイキってるヤツも例外じゃない。
しかし、乙子は平然としていた。
「それなりに面白かったわ。こういう時一家に一台貞君がいると便利よね」
「台」って……。
人間の単位は「人」ですよ? お願いですから、せめて人間として扱って下さい。
ともあれ、こんな感じでお化け屋敷に入ったわけですが。
乙子は終始冷静そのものでした。
オレの服の袖をつかむイベントとか密着してオレの腕におっぱいが当たるイベントとかそんなものは一切ありませんでした。
ただお化け屋敷の中を淡々と歩いてきただけです。
お化け役の人が驚かそうとしたところで、何も変わりはしませんでした。
おかげでお化け役のおじさんには、「わしはこの仕事を三十年続けとるが、こんなに怖がらない女子は初めてじゃ。あんな彼女じゃ入った甲斐がないのう……」なんて同情されてしまいました。
いや、彼女じゃないんですが。
つか、この仕事三十年てすげーな。
そんなことを考えつつ、オレは何もいい目を見れなかったお化け屋敷から退散した。
その後も、オレたちは色々なアトラクションに乗った。




