93:決戦に臨む者
虚無との決戦に挑む候補者達、その中から八人の代表が決まった。
一方その頃、トップランカー達は……
93:決戦に臨む者
四層、151階に、トップランカー達が集まっていた。
『はーっ! これでようやく立証出来たか!』
『計算計算また計算…… 今度何か奢ってもらうわよ、ムラマサくん……』
集まったのは、ムラマサ、キツネ、マジメイジ、ブッチー、人形姫、一閃、辻スミス、発光大王子の八名。
彼らは、動画を撮りながら決まったパターンの攻撃を繰り返し、その都度複雑な計算を行い、数値を確かめていた。
『でも、これならOK。計算通りに行けば一層でも十分仕留められるわ』
『後は武器の問題だな』
マジホリRSにおいては、難易度が上がるほど基礎ダメージの計算式は甘くなっていくが、難易度が下がれば下がるほど計算式は厳しくなっていく。
サムライの「武器投げ」による百万ダメージ達成が、層が浅くなるほど難しくなるのは、そういう仕組による。
一方、属性攻撃の計算士気は難易度が低いほど甘く、高いほど効きにくくなる。
難易度インフェルノが持つ属性耐性の高さだけでなく、ダメージ計算に掛かる補正自体も厳しくなっている。
各キャラクターが特定の攻撃だけ使っていれば攻略して行けるゲームなど退屈な物でしかないだろう、という開発者の意図によるもので、対策を取って敵の耐性を大きく下げたところで、特定の属性攻撃に頼ったプレイは困難。
インフェルノダンジョンの深部ではパーティープレイが推奨されるのも、このダメージ補正に依る所が大きい。
一層……難易度ノーマルの計算式が適用されるエリア……では、属性攻撃は四層と比べ、遥かに高いダメージを出す事が可能なのだ。
しかも、虚無の属性攻撃への耐性は0。
一層の戦いでなら、サムライの「武器投げ」よりベストの攻撃方法があるのではないか?
自身が得意とする、属性火力による一撃を叩き込む戦法なら、虚無を撃破し得る火力を出せるのではないか?
……というのが一閃の提案だった。
一閃は、ランカーとしては致命的な、3レベルダウンのリスクを取ってまで、スキルの振り直しを行った。
「雷鳴の加護」による雷属性強化、「焦熱の加護」による火属性強化、「寒冷の加護」による氷属性強化、「天恵の加護」による三属性同時強化……
さらに物理強化の「剛力の加護」を加えた5つのスキルにポイントを全振りし、切り替えツールを用いて5種類のオーラを同時展開。
一撃に三属性ダメージを乗せて放つスキル「神罰の一閃」によって100万ダメージを狙う……と言う作戦のためだ。
戦闘システムの解析は完了している。
計算式は完璧のはず。
キツネの尽力により、結果は出た。
これなら、サムライの「武器投げ」より容易に100万ダメージが達成可能だ。
『しかし、これだけ苦労して証明したはいいが…… 無駄骨になるんだろうな、これは』
『無駄骨になってくれた方がいいですよ』
『全くだ』
『一応書き込んではおくけどよ、虚無戦のプランは今まで通りだってのは強調しとかねーとな』
『そうだな。また変な気を起こす人間が出てくると厄介だ』
「神罰の一閃」は近接攻撃。
強化が全て重なったベストのタイミングで殴り掛かるのは熟練のプレイヤーでも難しい。
相手は触れれば終わりの虚無。失敗は許されない。
+10ポーションを集中投入した上で、失敗して死んでしまう可能性があるというのは、あまりにリスクが高すぎる。
トップランカー達も、この作戦はポーション収集が間に合わなかった際の最終手段として考えていた。
『まあ、トレハンついでの暇つぶしって事で』
『で、俺達の出番はいつ頃になりそうなんだ?』
『このままだと…… 丁度、虚無戦と同時くらいになりそうですよ』
『そりゃまた厄介な事だねぇ』
一層で決戦に挑む8人のプレイヤーが発表された。
キツネのブログ上で8人の簡単なプロフィールが掲載され、プレイヤー各位はなぜ自分では無いのかと嘆きながらその記事を眺めていた。
侍:レベル288 「BAT-OGRE」
ハンドルネーム:抜刀牙
激しい候補者争いを制したのは、最もレベルを稼いだ彼となった。
聖騎士:レベル137 「KOUYA_DX」
ハンドルネーム:コウヤマン
一部で話題の小学生プレイヤー。
虚無を生み出すきっかけとなった不運の少年が自ら討伐に赴く。
戦士:レベル152 「BIG_ATLAS2」
ハンドルネーム:大巨人
抜刀牙と候補者争いをしていたが、追いつくのは困難と見て育成を切り替えて来た人物。
そうまでして参戦して来ただけあり、プレイ熱意は相当に高い。
忍者:レベル112 「TOUMA-NIN」
ハンドルネーム:討魔忍
2亀の記事を見て参加し始めた新参プレイヤー。
発言が極端に少なく、どのような人物かはよく分かっていないが、熱心にゲームに参加している。
君主:レベル139 「CANARIA」
ハンドルネーム:カナリア
コウヤマンの相方。おそらくは同様に小学生であろうと見られている。
連携プレイの上手さに定評があり、玄人からの信頼も厚い。
天使:レベル148 「YOUKO_YOUKO」
ハンドルネーム:ようこ
年季の入った玄人プレイヤーのサブキャラクター。
スキルの振り直しも必要なく、気ままに通常のゲームプレイを楽しんでいる。
吸血鬼:レベル143 「HUNTER_D」
ハンドルネーム:ハンターD
ゲーム歴は浅いが、熱心なプレイとBOTの利用でガツガツとレベルを上げてきた人物。
一度虚無のいる階まで進行してまで強力なモンスターを洗脳して連れてきた功労者。
付与術士:レベル201 「SOUKO2」
ハンドルネーム:キツネっち
俺だよ俺! 俺俺! ルーム2用のサブキャラがまつか役に立つなんてねぇ……
キツネは四層のトレハン、+10ポーション収集、事件の舞台裏の調査と、相当に慌ただしい中、あえてここを優先してきた。
やはり、祭と聞いて黙っていられる性格では無いのである。
そして……
パラディンにコウヤ、ロードにカナリが選ばれた他、バンパイヤにはソノカが選ばれていた。
懸命なカナリとソノカは仲間内でしかポイスチャットを使っていなかったが、コウヤは候補者同士が集まった際、Misscodeのボイスチャットに参加。
小学生である事が声でバレてしまうという醜態を晒してしまっていた。
新人プレイヤーを集めて今の盛り上がりを作っていった人物が幼い子供だったという事実は、プレイヤーを大いに沸き立たせた。
古臭い、枯れていくだけのゲームに、若い新規プレイヤーが増えている……
それは、熟練プレイヤー達にとっては「未来」の象徴だった。
今では、コウヤはちょっとしたアイドル的存在。
まあ、キツネ自身はコウヤの父をストーキングした経緯から、以前からその事を知ってはいたのだが……
格好のブログ記事のネタとして祭り上げられてしまっていた。
『大丈夫、おばさんその辺りわきまえてるから!』
などと供述しており、個人情報に繋がりそうな記述は一切無いのだが、キツネは完全に変態ストーカーの本領発揮状態となり、喜々としてブログ記事更新に励んでいた。
ネットのマナー的には相当ダメな部類なのだが、今やマジホリ界の長老と化したこのオバサンを止められる者はいなかった。
これもまた、マジホリRSの荒廃を示す「悪い部分」の一つであった。
(別に今回出てきた新キャラの事は覚えなくてもOKです)




