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92:顔面パンチ

コウヤとカナリが虚無討伐隊に加わる事を知ったクラガは……

92:顔面パンチ





殴る。


顔を合わせたら、真っ直ぐ行って、ぶん殴る。


後の事はどうでもいい。

退学でも転校でもどうとでもなればいい。


コウヤだけじゃない。

カナリの顔面にも拳を叩き込んでやる。


それでスッキリする。


他の事はどうでもいい。

それだけができれば、いい。


久々の登校。


同級生の冷たい目線。

ひそひそ話。


誰もかれもが俺を馬鹿にしている。


笑うがいい。

嘲るがいい。

ビビッて陰口を叩くだけだろう。

そうやって遠巻きにしているがいい。


俺はやった。

やりきった。

出来る事を全てやりきって、失敗した。


何もしていないお前らとは違う。

俺は、生活を破壊し、全てを犠牲にして強くなり……自滅した。


限界までやっても届かないから、限界を突破した。

それで、滅んだ。


俺は俺を誇る。

俺がどれだけ凄いヤツかってのは、俺が分かってるから、それでいい。

お前らは笑っているがいい。


俺はもう満足だ。

後は、ケジメを付けてやるだけだ。


どこだ、コウヤ。

お前の鼻をへし折って、顔面血まみれにしてやる。

どこだ……!



「クラガ! クラガじゃねーか! やっと来た!」



肩を叩く、底抜けに明るい声。


振り向くと、満面の笑顔。


「見直したぜ、クラガ。

お前、案外やるじゃねーか」


完全に虚を突かれ、拳を振るうタイミングを逸する。


何だ?

こいつは、何を言ってるんだ?


「お前が何にイライラしてるのかも知らずにさ、乱暴なヤツ、根性のねーヤツ、なんて思ってて悪かったよ。

そりゃ、人殴るのはダメだけど…… そこは許せねーけどさ……

正直、お前の事クズ野郎だとか思ってたけど……」


「何だお前、喧嘩売ってんのか」


「ハハッ! わりぃ! 正直言ってそう思ってたんだ!

でもな、お前がすげぇヤツだって、思い知らされちまったから、仕方ねえだろ!

なんかさ、どうしても、なんか、言いたくなっちまってさ!」


「何言ってんだお前。何を言いたいんだかさっぱり分かんねぇよ」


「俺は、何だかんだ言って、やるぞ!って言って始めた事をとっくに挫折しちまってて、自分で決めた事を何度も曲げちまってさ……

虚無を倒すとか、インフェルノダンジョン完走するとか、もうとっくに諦めちまってたんだよ。

でも、俺に出来なかった事を、クラガは全力でやりきったんだって、そう思ってさ……」


笑顔のコウヤが、少し寂しげな表情をする。


「スキルの同時展開ってヤツ?……で、ぜってー使わねーって言ってたツールも、結局使い始めちまってさ。

あーあ、俺の決意なんて、結局こんなモンかってさぁ……」


そうだ。お前達はその程度だ。

だから、本当は、本当なら、この俺こそが選ばれて……


「結局、俺はみんなとワイワイ遊んでるのが精一杯だったのに、お前だけが本気で虚無を倒しに行ってたんだ。

本当なら、俺達じゃなく、お前が行くべきだったんだ」


そうだ。

俺こそが……


「俺なんて、たまたま上の方が失敗して、運良く順番が回ってきて、代表面してるだけだろ?

だから…… お前さ、今からでもレベル上げBOTとか使って、代表に来いよ。

まだ二週間あるんだ。なんとか追いつけるだろ?

お前がパラディン使うって言うなら、俺代わってもいいし」


なんだ。


何を言ってるんだこいつは。


俺を、讃えているのか?

俺の努力を、俺の失敗を、俺が全てを出し切った事を、全て知って、理解して……!?


「そうだ。コウヤ。

本当なら、お前らなんかじゃなく、俺こそが虚無を倒すはずだった。

俺の方が何万倍も頑張ったんだぜ……」


「ならさぁ!」


「もういい……

頑張ったからな。

俺はもう疲れた」


てっきり、喜んで応じてくれるものだとばかり思っていたコウヤは、驚いてキョトンとしてしまう。

こんな事を聞いたらカナリがまた激怒して、抜けると言い出すだろうとも覚悟の上で、どうしても自分の中のモヤモヤした気持ちをどうにかしたかった。


カナリの涙を見てから…… どうしても、何があったのか、ちゃんと知っておきたかった。

三年前何があったかマヤから聞いて、色々調べたりもした。

カナリだけじゃない。クラガもまた、想像も付かないような重くて辛い経験をしたはずだ。

何も考えず、自分達が明るく楽しく小学生してた頃、あの二人は……


俺は、なんて軽いんだ。


だから、こうせずにはいられなかった。

自分には重すぎる責任、クラガにこそ託すべきだと……


「俺はもうゲームクリアだ。

後はお前らでやればいいだろ」


クラガはコウヤに背を向け、シッシッと片手を振って追い返すような手振りをする。


「本当にいいんだな?

俺で、いいのか!」


大声で叫ぶコウヤ。

返事は無い。


(俺はやっぱり…… 分かってない、ただのガキんちょか……)


コウヤは気付く。

虚無との最終決戦なんて重すぎる責任を背負いたくなくて、大変な事を押し付けようとしただけではないのか、と。

崩壊した家庭で、ああなってしまったクラガが、全てを掛けて続けた苦しくて辛い戦いを、「また再開しろ」と、自分は言ったのだ。


覚悟が足りない。

他人の気持ちが分かってない。

大馬鹿野郎だ。


「分かった! 俺がやる! 頑張るから! 俺!」



クラガは、やはり振り返らない。


そのまま、校門を出る。

また、登校拒否だ。


今登校するワケには行かない。


俺は男だ。

番長で、乱暴者で、ボスで、悪役なんだ。

こんな、涙でグシャグシャになった顔を誰かに見られたら、二度と学校になんて行けない。


感謝なんか、絶対にしない。

やっと、誰かに分かってもらえたからって、絶対に……






どんなにハマッたゲームでも、データ全損すると、もう一度最初から始める根性はなかなか……

そんな経験、ありません?(許さんぞポ○モン救助隊)

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