91:立候補
虚無が第一層を侵攻していく中、最終決戦に挑む8人の選抜が始まる。
91:立候補
虚無、第一層30階に到達。
プレイヤーの激増により、有志のポーション集めは一気に勢いを増し、一層の決戦までに必要な数になんとか届きそうな気配を見せていた。
いよいよ、決戦に必要な8キャラクターの選定を考えなければならない時期になっていた。
虚無撃破の筆頭候補であるサムライは特に立候補者が多く、選定には困難を要する事になりそうだったため、他の7キャラクターの選定から先に始められていた。
サムライの火力を上げるための支援を行うのは、
「加護」系スキルのパラディン、
「雄叫び」系スキルのウォリアー、
スキル「強化丸薬」を使うニンジャ、
「祝福」系スキルのエンジェル、
「号令」系スキルのロード、
の5キャラ。
ここに、
「魅了」したモンスターの持つ効果で間接的に強化するバンパイヤと、
一撃分だけ爆発的な強化を行う事が可能なエンチャンター。
この2キャラを加えたのが、考え得る最強の布陣となる。
侍、聖騎士、戦士、忍者、君主、天使、吸血鬼、付与術士。
野心ある者は皆、この8体を競って鍛え、レベルを上げ続けていた。
とは言え、今話題のマジホリにちょっと参加してみるか、と言った程度のプレイヤーはポーション集めに終始していたし、実際の所、サムライに人気が集中している事もあり、サポートキャラの立候補者はそう多くなかった。
「ぜってーやるべきだって、コウヤ」
「お前が行かないで誰が行くってんだよ!」
クラスの友人達が、コウヤを立候補させようと説得していた。
「でも、俺は……」
虚無とは関係なく、ただみんなで冒険を楽しみたい。
その一念を押し通して来たコウヤにとって、この立候補は「主義に反する」と思えていた。
それに……
「まったく! まぁだボクの責任だ、なーんて思ってるんでしょ?」
バシンと、カナリがコウヤの頭をひっぱたく。
「いてっ! なんだよ! ボクとか言わねーし!」
「虚無を生み出した自分なんかが、栄光の勇者達の仲間入りなんておこがましい!
とか、そんなトコよね」
「そこまでは思ってねぇし……」
「だから、始めたアナタが責任を取って終わらせるのよ!」
ビシ、とコウヤに指を突きつけるカナリ。
そうだそうだと拍手をするクラスメイト達。
「それに、普通にダンジョンに挑むのも、もうすぐ出来なくなるんですからね」
席に座ったまま、ユウリが静かに、それでいて力強くつぶやく。
コウヤの現在の到達記録はインフェルノダンジョン16階。
このまま何もしなくとも、あと一週間もすれば出くわしてしまうのだ。
「ちぇっ……」
コウヤは、下を向き、大きく息を吸い込む。
「ここまでかぁ…… 残念」
「私はもう十分楽しませてもらいましたわ。お行きなさい」
「僕だって、解析の方で手一杯ですからね」
二人の笑顔が、何よりの後押し。
「しょうがねーな! やってやろーじゃねぇか!」
支援キャラクターは、使用するスキルにポイントを最大まで割り振った後、そのスキルのランクを上げる装備を揃え、最大限支援スキルの効果を高めるだけでいい。
立候補に要する敷居は相当に低い。
コウヤもスキル振り直しのペナルティを受け入れ、オーラ多重発動の仕組みを学び、必要なツールの使い方も覚える。
装備を揃えるのは、クラスメイトが協力してくれたお陰で捗った。
二層まで到達していたウスデとモジヤは、消えずに残された51階でトレハンを続け、有用な装備を立候補者に配ってくれているのだが、パラディン用の装備をコウヤに優先して回してくれたのは大きかった。
虚無が消してしまうのは階段のみ。
階段の存在しない四層151階、三層101階、二層51階……この三箇所は現存している。
ここでトレハンをすれば、格上の装備を持ち帰り、ロビーで一層のプレイヤーに受け渡す事が可能だ。
が、しかし、
四層、三層のアイテムの殆どは、一層のプレイヤーでは装備する事が出来ない。
装備に要求する能力値、要求レベルが足りないのだ。
:なのに、あいつら何してんだよ
:もうトレハンする意味ねぇのにな
:みんな必死にポーション集めてんだから、あいつらも協力してくれればいいのに
トップランカー達は、未だに151階に留まり、何のためかも分からないプレイを続けている。
彼らは既に最大限の努力を重ね、疲れ果てている。
もうこれ以上頑張らなくてもいいだろうと、大多数のプレイヤーは思っていたが、虚無事件がSNSで拡散され、ちょっとしたブームにまで発展した後から参加して来た「お客様」は、その辺りの実感を持っていない。
トップランカーの面々が独自でチャットしてばかりで、一般のMisscodeチャットに顔を出さない事もあり、お高く止まった特権階級かよ、と安直に批判する者まで出てきていた。
:あいつらの事だから、何か考えがあんだろ
そんな、擁護の書き込みも、不満意見に押し流されがちになっている。
全てを失ったと言うのに、今さら戻る気にもなりないと言うのに、どうしても、見に来てしまう。
スレッドも、チャットも、毎日こまめにチェックを続けてしまう。
謂れのない批判に晒されるランカー達に、自分を重ねてしまったのか……
クラガは、誰かを擁護するような書き込みをしてしまった自分に、自分自身で驚いていた。
それは、反省から来るものなどではなく、怒りの矛先を小癪な「お客様」達にぶつけたくなっただけの事ではある。
それでも、何か、自分の中で完全に冷え切っていた感情が、僅かに動き始めたような感覚があった。
怒りでも、憎しみでもいい。
何かが欲しい。
何もかも失った今……
そして、クラガは毎日スレッドをチェックし続け、虚無討伐隊の候補者リストに目を留める。
聖騎士:KOUYA_DX
君主:CANARIA
クラガの腹の奥底に、ドクン、と、力強い熱が発生し始めた。
燃え滾るような、怒りと憎しみが、やっと、再び……
コウヤのキャラ名なんだっけ……と、思い出せなくてフォルダ内検索してしまいました(汗)




