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86/104

86:爆発

心の傷に耐えきれず、去っていったカナリ。追いかけるコウヤは……

86:爆発




「待てよ! 待てったら!!」


コウヤはカナリに追いつき、その目の前に立つ。

と、その顔を見て、ぎょっとさせられる。


その顔には何の感情も無かった。

怒るでも、悲しむでもなく、ただ、無表情に顔を凍りつかせたまま、うつろな視線で歩いている。


「止まれって!!」


カナリの両肩に手を添え、押す。


「……コウヤ、くん……?」


まるで、目の前の自分に気付いていないかのような態度に、コウヤはますます得体の知れない恐ろしさを感じさせられる。

彼女に一体何があったのか。


「ちゃんと説明しろよ…… 何いきなり帰ってんだよ……」


走って追いかけ、少し息の切れているコウヤ。

そんなコウヤを気遣うでもなく。


「帰るって言ったでしょ。ほっといて」


あまりに素っ気ない態度に、コウヤも腹を立てる。


「ほっとけるかよ!!」


大きな声を出すコウヤに、カナリは少しひるむ。

その隙に畳み掛けるかのように、コウヤは言葉を連ねて行く。


「お前、なんか…… あんだろ。

友達がさ…… なんか、辛そうにしてんのに、ほっとけるかよ……」


息切れを整えながら、コウヤなりに考え、言葉を選び、優しく接しようとしていた。

ソノカに言われた事も気になっていたため、いつもの図々しさや無遠慮さは控えていた。


「なにそれ」


失笑するかのような、カナリの表情。

いつものような、人を思いやる彼女の顔とは、まるで別物。


「人の事情も知らないで、適当な事言ってんじゃねえよ」


「委員長……?」


突然、口調の変わったカナリに、コウヤは愕然とさせられる。

その目に浮かんでいるのは、怒りか、憎しみ。

コウヤが今まで見たことの無いような、人間の目とは思えない、恐怖すら感じる冷たさ。


「なーんかさぁ~ コウヤ、ガッカリなんだよ、お前」


嘲笑を浮かべながら、カナリはコウヤの肩を掴み返し、ドンと押し返す。


「お前はさ、優しくて、いいヤツだって思ってたのにさぁ……

お前にはガッカリだ。

あいつとは違うって思ってたんだぜ?」


「あ、あいつって……クラガの事か……」


「うるせぇ!!」


その名前を耳にする事すら苦痛、なのか。

怒鳴って言葉を遮るカナリ。


「あたしらが集めたポーションを、あのクソに渡す?

やってられるか!!」


さらに、、突き飛ばすように肩をドンと押し、コウヤを睨みつけてくる。


「あのクズが代表!? 見直しただ!? ハァァァ……

バッッッッカじゃねぇの!?」


「確かに、あいつがろくでもないヤツだって、俺も知ってるけど……

何があったんだよ…… 委員長がそこまで怒ってる理由、俺には分からないんだよ……」


と、カナリはさもおかしげに、クックックと忍び笑いを始める。


「あーそうかぁ~ コウヤくんは、クラスが違ったし、知らないんだねぇ

教えてあげようかぁ?」


このまま、カナリの話に深入りしてもいいのかどうか、一瞬躊躇する。

それでも、コウヤはソノカの辛そうな声を聞き、カナリを助けるつもりで飛び出して来た事を思い返し、決意を固める。


「ああ。聞かせろよ」


カナリの瞳の怒りが、より一層激しくなる。


「あいつのせいで!! あたしの家は、無くなったんだ!

それなのに、あいつは、あのクソカスは! まるで気にしない!

それどころか、あの態度だ! 知ってるだろ!?

あいつはクズだ! クソだ! ゴミカスだ!」


それはコウヤに聞かせるための言葉ではなく、ただ、怒りをぶちまけるだけの行為。

事情はよく分からない。

それでも、言葉の端から、コウヤは事情を拾っていく。


「死んだからいいのか!? かわいそうだから、大金持ちでも許すってぇ!?

じゃあ、こっちはどうなんだ!!

家も財産も奪われて! パパもいなくなって!!

ママがどれだけ苦しんでるか、分かってんのか!!」


コウヤの肩を掴み、壁に押しつけ、憎しみの眼差しを叩きつけてくる。


「あのクソ野郎に救われるなんて冗談じゃない。

あんなヤツのいる世界に、一秒だっていられるか。

そんなゲーム、やってられるワケ無いだろ」


囁くように、呪詛のような言葉を吹き込み、近付けた顔と顔を、フイと離す。


「お前はいいやつだから、助けてやろうと思ってマジホリを始めたんだけどな。

お前みたいないいやつってのは、報われるべきなんだよ。

もう、こんな未来の無いゲームのために毎日無駄な時間使っても意味ねぇだろ?

あのクソ野郎に助けられてまで、続けたいか? やめちまえよ、お前も。

それとも、あたしじゃなく、あのクソの肩を持って、お前もクズの側に着くか?

どっちでもいいぞ?」


もう、彼女の視線はこちらを見ていない。

その瞳を見て、コウヤは決心する。


「クラガの側に着く? いいや、そんな事しねー。

お前の側に着く? それも嫌だね」


「ふーん? じゃ、何?」


「話がちげぇだろ?

カナリが、俺の側に着くんだ」


「あはっ! なにそれ!」


「俺がいいやつだって?

いや、違うね。

本当にいいやつってのは、お前みたいなヤツの事を言うんだ」


「・・・・・・」


口汚く罵って、本性をさらけ出し、呆れられ、嫌われるとばかり思っていた。

こちらからコウヤを拒絶し、これっきりにするつもりだった。

カナリは、予想外の反応に戸惑い始める。


「内心馬鹿にしてるはずの、俺達みたいなバカをいつも気にかけてくれるし、ちゃんと委員長してるだろ?

悪い事したら叱って、困ってるヤツがいたら助けて、いつも忙しそうに勉強してるのに、いつも皆の面倒を見てるじゃんか。

俺はただ……いつもバカやって、何も考えてないだけだろ」


何も考えてないというのは合ってるな、と、思わず頷くカナリ。


「俺は……」


俺は、お前よりずっと、報われている。

本当に報われなきゃいけないのは、カナリの方だ。

そう、口にしかけて、思いとどまるコウヤ。


「俺を、助けてくれよ、委員長」


「……?」


てっきり、哀れみや、慰めや、そんな言葉を掛けられるのだろうと、怒鳴り返してやろうと身構えていたカナリは、肩透かしを食らう。


「ダメなんだよなぁ……

委員長が抜けて、それでゲームクリアしたって、全然嬉しくねぇもん。

仲間がそんな顔してちゃ、ハッピーエンドにならねーだろ」


カナリは、そこでようやく自分が涙を流している事に気付く。


「お前が何考えてるかなんて、知ったこっちゃねーぜ。

俺、馬鹿だからな!

俺は、俺のために、お前にいてほしいんだよ!」


「なにそれ…… 愛の告白?」


「バッ! ちげーよ! そういうんじゃ……」


「フフッ、違ってなくても別にいいけど……?」


涙を流しながら、カナリは小さく微笑む。

コウヤは、まだ、そういう男子じゃない。

だから可愛い。


「あんた、バカで鈍感でビックリするくらい分かってないけど、そういう優しさ、誰にでも向けすぎなんだよ……」


「そんな事言われたって、困る……だろ……」


困り果てて考え込み、コウヤは小さな声で返す。

頭の中が考え事に追いついていないのだろう。


「優しさ全開で、人の心にズカズカ踏み込んで、その後の事とかまるで考えてないでしょ。

人との距離感考えろって! 近付きすぎなんだよ!」


段々腹が立って来た。

カナリは、コウヤを困らせるように問い詰めていく。


「これ以上あたしの方に踏み込んできて、責任取る気あるの?

あんた、あたしのカレシにでもなる気?」


顔を真っ赤にして狼狽えるコウヤ。

ああ、実に心地良い。

これこそ逆転。

これこそ大勝利。

やり返してやったという、たまらない充足感。


「知るかバカヤローーーー!!!」


ははっ!

パニックに陥ってヒステリー!

なんてみっともない!

まるであたしじゃないか!


「委員長? ああ、好きだね!

可愛いし、頭いいし、優しいし、俺より背が高いのがちょっとムカつくけど、大好きさ!」


!?


「でもな、俺はユウイだって大好きだ!

ちっこいし、かわいいし、守ってやりたいって思うし、本当に大好きだ!」


ハァ……?!


「ユウリだって大好きだ! あいつのためなら、つまんねーポーション集めも頑張ろうって気になるさ!

ハナちゃんだって、ソノさんだって、可愛い女の子の前でいいとこ見せたいって、頑張っちまうさ!」


(話が違って来てないか)


呆れ果て、段々と真顔になりつつあるカナリ。


「俺は、バカな上にワガママなんだ!

だから、みんなが大好きな俺は、俺のために、仲間が揃ったハッピーエンドでゲームを終わりたいんだ!

そのためには、お前がいなきゃいけないんだ! だから、だから……」


仕方ないなぁ……


「ありがとな、コウヤ」


カナリは、コウヤを抱きしめる。


「それで十分だよ。

こんなあたしを、ちゃんと受け止めてくれたじゃん……」


自分より背の低い頭を、抱きしめながら撫でる。

暖かくて、心地良い。

愛しさがこみ上げる。


誰にも見せたことのない自分の本性を曝け出しても、何も変わらず、そのまま、当たり前のように受け止めてくれた。

それだけで十分。


「カナリは何も悪くないって、みんな知ってるから……大丈夫だよ……

戻ってこいよ……」


「うん」


ぎゅっと抱きしめ、思いっきり胸を顔に押し当ててやる。

顔を真っ赤にしているコウヤは、とても可愛い。


「私は報われるべきなんでしょ?

もう少しこうしてなさい」


「・・・・・・」


しばらく、コウヤはカナリの胸に抱かれたまま、じっとしていた。


何がどうなったという訳でもない。

ただ、極度の緊張で何もできず、固まっていただけに過ぎない。


そうしてしばらく思い悩んだ末、ふと思い出して、付け加える。


「でも、クラガがクソってのは同感」


「でしょー」


「女子殴るし、ユウイ突き飛ばすし」


「でしょでしょー」



緊張が解けた二人は、自然に微笑み、嫌な奴の悪口を言って盛り上がる。

聖人君子でも何でもないただの小学生は、程度の低い着地点で笑い、打ち解けた。

ただなんとなく、適当にそうなっただけ、なのだが……


それで、一人の不幸な少女の心が救われたのなら、そんなものでも良いのだろう。






(過去に何があったのか、具体的に詳細を描写する事は今後もありません)

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