83:7日後
虚無の倒し方が発表され、全プレイヤーが行動を開始。
そして一週間が経過し……
83:7日後
アクト3のサブクエストをクリアすると、永続的にダメージが+10されるという特別なポーションが手に入る。
通常ならクエストをクリアした本人にしか使えないこのポーションが、バグのせいで他人に譲渡可能となっている。
つまり、1000人が一人のプレイヤーにポーションを集めた場合、基礎ダメージが+1万されるワケだ。
実際には、基礎ダメージに様々な効果が乗算され、もっと高い効果になる。
難易度ベリーハード=インフェルノダンジョン第三層で、現状のベストメンバーが虚無に挑んだ場合、約42万のダメージをこの方法で補填しなければならないが、その実現のためにはポーションが2万8千個ほど必要になる計算だ。
既に虚無は128~127階辺りまで迫っており、あと10日ほどでこの数を集めるのはまず無理だろうと目されていた。
決戦を第二層の最後、51階にまで遅らせた場合、時間的余裕はもっと大きくなるし、虚無事件が発生した後からキャラクターを育て始めた面々の参戦が間に合う事もあり、人選の選択肢も大きく増える事となる。
現状ベストだと考えられている8キャラクターをしっかり鍛えて揃えれば、難易度下げによる火力ダウンを考慮したとしても、必要なポーション数は3万3千個前後となる。
無論、それだけの数のプレイヤーがマジホリRSにいるはずもない。
プレイヤー一人一人が、キャラクターを次々と新規作成してはポーションを確保し、都度キャラを削除するという繰り返し作業が必要となる。
これは、プレイヤーデータの超過バグでサーバーに新たな問題を起こしかねない諸刃の剣であり、かつ、キャラクターの大量高速作成という、アカウント凍結処置を受けかねない作業を全員で行うという、かなり問題の多い方法だった。
それでも、全プレイヤーが「もうこれしかない」と、次々と+10ポーションの収集を開始。
昨日の告知から今日までの自己報告分を合算しただけで、既に800以上のポーションが集まっている。
このペースで収集が続いたとして、3万3千個に到達するためには、40日以上が必要。
第二層の決戦に間に合わせる事が出来るかどうか、微妙なラインだ。
より大きくの人員で、より高速での収集が必要となるだろう。
この判断に、無論三層で奮闘中のプレイヤーは憤ったが、いかんせん、三層のプレイヤーは層が薄い。
実力者の多くが四層の決戦を支える「中堅層」となって抜けた上、数名が虚無との戦いで犠牲となったのも災いしていた。
仕方なく、彼らは時間稼ぎに徹する事となる。
そうして、更に時間は経過する。
一週間後。
『レベル上がってないのも、しょーがねーか』
『そう言うコウヤ君も、捗ってないようじゃないですか』
コウヤ達はインフェルノのアクト6に到達。
山頂から地底へ向かう、長い長い道のりに苦しんでいる所だった。
定時のマジホリ会だけのプレイでは、レベル上げもトレハンも必要十分ではなく、互いに好きに鍛えたキャラを持ち寄ってストーリーを攻略している状態。
集合した時、相手がどれくらい強くなっているのか見るのも楽しみの一つだったが、それが、お互い、今ひとつ。
『ま、集める方に時間取っちゃうわよね』
マヤも、既に28個の「+10ポーション」をストックしている。
彼らだけでなく、皆が皆同様に、マジホリプレイの基本をポーション集めに切り替えつつあった。
『また話を蒸し返すようで申し訳ないのだけれど、私達、このまま定例会を続けていてもいいのかしら?』
カナリもまた、自分達の遊びよりゲームを守るための戦いに集中すべきなのではないかと思い始めていた。
『そこはあまり心配しなくていいと思いますよ。
やっぱり、こういった数が必要な作業は人力では限界がありますから……
今、ポーション確保の全てを自動化するBOTが開発されてます。僕達が稼ぐ分なんかは、まあ、誤差程度になるんじゃないかと思いますから』
虚無対策会議に入り浸るようになったユウリは、すっかりその辺りの事情に詳しくなっていた。
彼が言うのなら大丈夫なのだろう、と、コウヤ達は納得する。
『俺、インフェルノクリアって目標だけは、マジホリが終わっちまう前に達成したいんだ。
今出来なきゃ、もう二度とRSのクリアは出来ないかもしんねーんだし……』
コウヤの気持ちにブレは無かった。
みんなで一緒にストーリー完走。初志貫徹を第一としている。
コウヤが始めたクラスのマジホリブームだ。コウヤの願いに応えたいと思う者も多く、今や、賛同者はユウリ達だけでもなかった。
『おまたせー!』
『こんばんわ……』
ハナミのモンクと、ソノカのバンパイヤが、パーティーに加わる。
全員が90レベル台後半に到達したコウヤ達に対し、ハナミは88、ソノカは92レベルと、やや戦力的に遅れを取ってはいるものの、今では二人も立派にインフェルノを共に戦う共闘戦力に成長していた。
『他の連中はどうしてるんだろ』
『ウスデくん達はポーション集め頑張ってるみたい』
『フミヨちゃんはまだハードの序盤だってー』
既に、コウヤのクラスの約半数がマジホリを始め、他のクラス、学年にもジワジワと広がりつつあった。
迂闊に新規プレイヤーを増やしていったコウヤ達の行動は、+10ポーション集めという緊急事態にあって、大きな成果をもたらすグループに育ちつつあった。
今はまだそこまでの影響力を及ぼしてはいないにせよ、この変化は決して小さな物ではなかった。
短期間で追いつくくらいにはソノカもマニアで、やり込める勢だった、と。
きっとハナミも仕方なく付き合わされているのでしょう。




