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80:綻びの中の違和感

倒せたのに、もう倒せない。

悲劇的な結末に、プレイヤーの間で絶望感が広がっていく。

80:綻びの中の違和感



wiki掲示板上で「百万ダメージ法」が明かされた後、RSプレイヤーの間には失望と絶望が広まった。


マジホリを、RSを、深く知る者であればあるほど、その百万という数字がいかに絶望的であるかを知っていた。


だが、無知であるが故に、その絶望に立ち向かおうとする者も、僅かに存在した。




「だ、か、ら、侍、忍者、戦士、聖騎士、天使、君主、付与術士、吸血鬼、この八人を999レベルまで鍛えれば難易度ハードまでなら間に合うんだって、計算が出てんだよ!!

ボロいパソコンくらい何台でも俺が買ってやるから、BOT走らせてレベル上げやろうぜ!」


クラガは、熱弁を奮って、なんとかウスデとモジヤの気を変えようと必死になっていた。

が、流石にゲームシステムに疎い二人にも、それがメチャクチャな夢物語である事は理解出来ている。


「クラガさん、流石に、俺達、そんなにゲームに時間割けないっすよ……

今でさえ、親にゲームのやりすぎって怒られてるんで……」


「電気代もバカにならないって俺もかーちゃんに怒られたっす……」


好きなだけゲームをやっていられるお前とは違うんだ、と、そう言われているような気がした。

だから、クラガはまた、怒鳴り声を上げ始める。


「お前ら、俺の夢のために協力してくれるんじゃなかったのかよ!!

 実現する方法は分かってんのに、なんで、なんでここに来て裏切んだ!!」


「俺ら、必死になって、クラガさんのために頑張ってんすよ!?

生活犠牲にして、他の連中とパーティー組むのもやめて、あんたのために尽くしてきたじゃないっすか!

それを裏切りとか……!!」


いつもヘラヘラ笑って、相手の機嫌を伺ってばかりのウスデが、怒鳴り返した。

予想もしていなかった反応に、クラガも多少たじろぐ。


「クラガさん…… 俺ら、流石にこれ以上は無理なんすよ。

時間の問題も、金の問題もあるんすけど……

何より、つまんねーんすよ、今のマジホリ」


「ハァ!?」


物や金で釣っていれば何でも喜んで言うことを聞くモジヤまで、言い返してくる。


「俺らとパーティー組むと、クラスの連中すげぇ喜ぶんすよ。

頼られるし、こっちからいらないアイテムやるだけでメチャクチャ感謝されるし」


「それと比べて、クラガさんと遊ぶのは…… 分かるでしょ?

何もかも命令通りに動かなきゃ、すぐ怒鳴られるし」


ああ、そうか、こいつらもか。


チヤホヤされて、居心地のいい「輪」を作る事を優先するタイプか。


道を極め、究極の目標を目指す事の出来ない、腑抜けた奴らと同じか。


「勝手にしろ。

もうお前らには頼らねえよ」


カッとなって、掴みかかってくるとばかり思っていたウスデとモジヤは、冷淡に背を向けるクラガに驚いたが、これ幸いにとそそくさと退出する。


相変わらず生活ゴミの散乱する、汚いクラガの自室。

俺がいなくなって、この人は大丈夫なのかと、ウスデの良心はチクリと痛むが、今さら戻る事も出来ない。



そして、クラガは孤立した。





「あっ……」


「あら、お姉さん……」


その日、朝の登校のバス停の待ち時間、マヤはバッタリとカナリと出会った。


「しばらくぶり……」


「ええ……」


マヤは元々口数の少ない方だったが、カナリはもっとはきはきと喋る方だった。

どうも元気が無く、塞ぎ込んで見える。


「週末、どうしてた……?」


そんなカナリをマヤなりに気にかけ、なんとか話題を作って話しかけてみる。


「すみません、日曜は他のクラスメイトとパーティーを組んでしまって……」


「ああ……」


彼女のクラスメイトが新たにマジホリを始めていると聞く。その始めたての子達を手伝っていたのだろう。


コウヤのクラスでは、異様な事に、古くて暗くてグロい、マジホリなんて洋ゲーが流行ってしまっている。

何せ、敵を粉砕して肉片に変えてしまうようなケームなのだ。PTAで吊るし上げられたりしないかどうか、心配になってくる。


に、しても……

ここ最近のカナリの様子の変化は、それ以上に心配だ。

鈍感でおバカなコウヤや、彼女と少し距離を置いているユウリにはその変化は気に留めるような物では無いのかもしれないが、マヤにとってはその(かげ)りは、妙に心に引っかかって仕方のないものだった。


「大丈夫?」


「え……?」


カナリには落ち込んで見えるという自覚が無いらしく、何の話か分かっていないらしい。


「もしかして、ユイちゃんの事……」


以前からゲームを続けるかどうか悩んでいたカナリが、ここに来て更に気落ちして見えるのは、自分と同じく、あのコウヤとユウイの夜のやり取りをボイスチャットで聞いてしまったからではないかと、マヤは察しを付けていた。

本人に自覚は無いのだとしても、好きな男子が他の女子とイチャついている現場の音声を聞かされるなど、たまったものではあるまい。

マヤは、そうあたりを付けて、ストレートに話を切り出した。


「・・・・・・」


カナリの顔は一瞬こわばり、そして、感情を消した無表情の顔に変わる。


「すみません、失礼します」


カナリはバス停を離れ、徒歩で先を急ぎ始める。



「はぁ……」


マヤは、大きくため息をつく。

地雷を踏んだ、というヤツだ。


(これだから恋愛なんてのは……)


マヤが以前彼女に感じた、何か言いようのない不安感が、少し大きくなる。

彼女は、こうしてこれからも表面を取り繕い、見たくない物を見ないようにして生きていくのだろうか。

小学生らしい反応だとも思うが、素直になれない人間と言うのは厄介だぞ、と、マヤは我が身を省みて思っていた。


私のようにはなるなよ、と。




そして、マヤはそんな事をぼんやりと考えながら、中学校に向かうバスに揺られていたのだが、ふと、一つおかしな点に気付く。




そして、クラガは暗黒騎士のBOT育成をセットし、パソコンを起動したまま家を出て登校しようとし、胸の内の怒りを思い返しながら、ある事にふと気付く。



(あいつら)


(あの子達)


((どうして、難易度の違う味方とパーティーが組めた??))









マヤが口下手だという設定、ちょくちょく忘れていたかもしれない……

気心が知れて来て、ユウリ達とは普通に話せるのかも……

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