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79:遅すぎた秘策

間に合わなかった山田マンの解析、その内容とは……

79:遅すぎた秘策




……その五日後、さらなる第三の新発見が見つかり、知れ渡るその前。

時は、少し遡る。


今から一週間ほど前、山田マン達はソースの解析から二つの発見をしていた。




「あと少しで間に合わなかった……もう少し、この解析が早く終わっていれば……」


「今さら言っても仕方ない。君はベストを尽くしたはずだ」


亡きカノザキのマンションの一室で、サイバラと山田マンは住み込みでデータ解析を続けていた。


まず、真っ先に肝心の「虚無のデータとして読み込まれているファイル」を探そうとしたが、これがどうしても見つからない。


そのため、次に彼らが優先して解析したのは、「なぜダメージが0になるのか」という一点だった。

何らかの方法で倒す事が可能であれば、四層、トップランカー達が虚無と戦える今の内がベストと考え、そこに的を絞って調べ続けていた。

結果的には、間に合わなかったが……


直接的な、無敵=ダメージ0の原因は、計算式にあった。



マジホリのダメージ計算式をごくごく簡単に縮めて言うなら……


(装甲 - 火力) × 耐性 = ダメージ


となるのだが、


この耐性の部分に不正な数値「0」が入る事により、どのようなダメージを与えても0で乗算する結果となり、全ての攻撃が無効化される結果になっていたのだ。


敵の耐性は%で計算される。

素の状態を耐性値100=100%とし、200なら倍ダメージ、10なら90%軽減、と言った具合だ。

炎攻撃が効かない相手の場合、この耐性値が0となる。


ところが、虚無の場合、本来読み込むはずだったボスデータの代わりに、全く別のファイルを読み込んでしまったがため、全ての耐性値が読み込まれず、空白…… 0として扱われてしまったワケだ。

全属性の耐性が0。つまり、無敵だ。


だが、一つだけ、唯一、倒す手段が存在した。

それは、過去にチートを研究してきた山田マンだからこそ早期に気付けた、仕様の穴のようなものだった。



「知っていれば、倒せたのにな……」



溜息をつき、山田マンはグッタリと肩を落とす。

残念ながら、虚無が三層に移動した今、倒す手段は最早存在しない。



結論から言うと、虚無を倒すには、ごくごくシンプルな方法で良かった。



虚無に、一撃で百万のダメージを与える。



ただ、それだけで良かったのだ。




「ムラマサさん、あと一歩のトコまで行ってたんだよなぁ……

 ロード、天使、エンチャ、ウォリアー、パラディン、後はポーションの支援辺りで、なんとかなってたはずなんだ……」


サイバラも、掲示板の過去ログやキツネのブログ記事を読んで、ムラマサ達が総力を投じた決戦の顛末は知っていた。

方法としては、それで正解だったのだ。



なぜ、100万ダメージを与えれば倒せるのか。


それは、チート対策が原因だった。



通常、一撃で百万のダメージを与えるのは不可能だ。

計算上、999レベルのキャラクターが味方のバフを重ねたとしても、百万には届かない。

だから、999999ダメージを上限として、それ以上のダメージは、全て強制的に1にしてしまう処置が取られる。

つまり、百万以上のダメージは確実にチートだから、罰として1ダメージにするという、インチキ防止の措置だ。


この処理は、全ての耐性計算の前に行われ、他のありとあらゆる影響を受ける事なく強制的に結果ダメージとして扱われる。

最終ダメージ計算の所まで、一気にすっ飛ばしてしまうのだ。


本来、これはチートに対する罰でしかない。

だが、僅か1ポイントでもダメージが入れば、虚無は死ぬ。


1ポイントでもダメージが入れば、ダメージ計算処理が行われる。

ダメージ計算処理が行われれば、生死判定が行われる。

生死判定が行われれば、虚無の体力=0を参照する事となる。

体力0と判定されれば、虚無は死ぬのだ。

何の宝も、僅かな経験値さえも持ち合わせていないが、とにもかくにも、それで死ぬのだ。



「オーラや号令の多重掛けは、開発者の計算に入って無かったんでしょうね……」


「そもそも、ロードやエンジェルは本家マジホリにはいない訳だしな」


聖騎士の「加護」、天使の「祝福」、君主の「号令」など、本来は複数同時に使用できないスキルを、超高速で切り替え続ける事で擬似的な重ね掛けを可能とするというのは、開発者の意図していない使われ方だったのだろう。


「物理半減を持つラスボス相手に30万叩き出す攻撃を、耐性の計算前に行うのだから、60万」


「しかも、ガラエルと違って装甲値も0」


「なら、90万近く行きますねぇ」


山田とサイバラは、MODブーム華やかなりし頃に作られたダメージ計算シミュレーターに数値を入力し、ムラマサ達が全てを掛けて「武器投げ」を行った際のダメージに、薬による強化や、支援キャラの追加等、更に煮詰めた完全な条件を追加して試算を始める。


「90万とんで828、か……」


「あと一歩だった……」


もっとムラマサのレベルが高かったなら、普通に100万を越えていた事だろう。

百万ダメージは達成可能だったはずだ。


「クラフトポーション飲んだ強化分は足してありますよね?」


「もちろん」


「あと……天使の祝福スキルの重ね掛け、計算に入ってませんよね」


「ええと、それでおおよそ10%UPだから…」


約、990905のダメージ。


「100万に、あと少しだけ足りない……」


「そこにブッチーの見つけたポーション投げを加えると」


クラフトで作れる火力上昇ポーションの効果は、基礎攻撃力+1%。

本来、基礎攻撃力の底上げ程度では大した強化にはならないのだが、一切の防御側の減算乗算の計算をすっ飛ばし、本人の出す火力だけを算出するなら、本来の+1%がそのまま効果となって現れる。


「100万飛んで、814」


「やっぱり、行けたな」


「みみかさんの天使(エンジェル)がいなくなったのも痛い……」


「どうせ追いかけられないけどねぇ……」


難易度の壁を越え、虚無は第三層へと去ってしまった。

もう、百万ダメージを出せるプレイヤーは存在しない。


そもそも、難易度が違えば戦闘ダメージの計算式も変わってくる。

難易度インフェルノでは耐性ペナルティを大きく付けすぎたため、後の調整として、多少計算式に情状酌量の余地を加えてある。

同じキャラクター、同じスキルを使っても、難易度が高い方が乗算スキルの効果は大きくなる。

ここが、パーティープレイを前提とした難易度と言われる所以の一端でもある。


「同じ計算を、ベリハでやると……」


「88万くらいまで落ちますね」


「やっぱり無理かぁぁぁぁぁ はぁぁぁぁぁぁ……」


後は、何がどうなっているのかサッパリ分からない壊れたデータを洗い直し、本来こうであったという形を探り当てて行くしかない。

地味で、辛く、先の見えない長く苦しい作業でなんとかするしかない。

しかも、虚無が全ての階層を食い荒らし終える前に、だ。




「どうする? wikiには、この事を……」


「そりゃ、知らせるしかないでしょ」


「みんな萎えるぞ…… これは」


「萎えようが、やる気マンマンだろうが、どっちみちもう無理なんですから、仕方ないですよ。

 誰かがいい知恵を出してくれる可能性に賭けた方がまだマシってもんで……」


こうして、山田マンとサイバラは、第一の発見をwikiの掲示板に書き込み、全プレイヤーの士気を大いに落とす事となった。




第二の、より小さく、さらに士気を下げる発見があったのは、その翌日の事だった。





山田とサイバラどっちがどっちのセリフか良く分からないけど、まあいいかなって……

丁寧語が山田、そうでないのがサイバラ(年上)という想定をしています。一応。

あと、山田はキレると地のクチの悪さが出る事もあります

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