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77:タイムアップ

ついに151階に追い込まれたトップランカー達は、何の解決策も持たないまま虚無に立ち向かわざるを得なくなり……

77:タイムアップ




土曜深夜、作戦会議を打ち切り、急遽ランカー勢による虚無足止め作戦が開始される。


と、言っても、最早大量召喚が可能なキャラクターはキツネの忍者しかおらず、その効果は普段より微々たるものに留まる。


キツネっち、ムラマサ、ブッチー、マジメイジ、人形姫、一閃、の六人のランカーに加え、中堅勢からは辻スミスと発光大王子のサポート職二名が加わる。

彼らは、最終決戦の高揚も何も無く、淡々と、いつものように時間を稼ぐ。


全滅した中堅チームと交代してから二時間ほどが経過し、夜中0時過ぎ、パーティーは限界を迎えた152階から撤退。

いよいよ、戦いは四層最終防衛ライン、151階へと移行する。


『チッ、盛り上がんねーなぁ』


『ゲームじゃないからね、こいつは』


本当に、いつものように、淡々とジワジワと後退しながら、何もかもを吸い込む壁にスキルを撃ち続けるだけの、無為な時間。

ブッチーの愚痴にマジメイジが答えたように、これはもう、ゲームではない。

壊れたゲームに発生したバグに、已む無く対処しているに過ぎない。

そこには、駆け引きも、盛り上がりも、熱さも、何も存在し得ない。


全プレイヤーの祈るような想いに反し、そこには、本当に何も無かった。

山田マンやサイバラ達がなんとかしてくれるかもしれないという、漠然とした、希望とも呼べない希望だけを持って、下がり続けるだけの「処理」を続ける。

彼らをそうさせているのは、トップランカーであるという、ただそれだけのプライド。

十年前後の長い時間を、こうして一つのゲームで過ごしてきたという、その人生の重みが強いる、呪いのようなプライド。

それだけが、彼らを支えていた。


彼らを支えてきた、マジカルホーリーストレングス・ライジングサン。

その崩壊を、最期を、見届ける義務。


『それでも、俺達がやらなきゃ、な』


ムラマサは、その虚無の侵食を、癌細胞のように捉えていた。


長い人生の果て、人体に発生した不具合が、身体のあちこちに癌を転移させ、ゲームを破壊していく。

マジホリRSというゲームが死を迎えようとしている今、その最期を看取るのは、我々RSの子供達、長男達の役目であろう、と。

そう、死別した祖父や祖母の事を思い出し、感じていた。


顔を合わせていた訳でも無い人間達が、その最期の時に集まり、仕方なしに雑談に興じる。

そんな様子も似ているんじゃないか。

ただ、同じゲームを遊んでいただけの他人。ただ、同じ血縁だっただけの親族。


自分がこのゲームにのめり込んだのは、現実の人間関係や人付き合いに疲れ、特に他人とコミュニケーションを取らなくてもいいマジホリのゲーム性が性に合ったから、だったのだろう。

パーティープレイが必要になった時も、「GO」「PLZ」「THX」等々、最小限の言葉のみでゲームを進められる、サッパリしたプレイでいい。

孤独でもなく、ベタベタする事もない。

そんなハクスラの気安さが、自分には心地良かったのだ。


その居心地のいい家が崩れる時、こうして集まったからには、彼らもまた、自分の親類のようなものか。

マジホリを通じて得た、仲間、か。






終わりが近い。


数時間に及ぶ不毛な足掻きの後、八人はついに終着点、151階の扉の前に追い込まれる。


151階と150階を繋ぐ階段は無い。

難易度変更のシステムを利用し、101階~150階に該当する部分をベリーハード、151階~200階をインフェルノ、と言ったように、全200階のダンジョンを四つに分割して管理している。

難易度を遡る事は仕様上不可能になっているため、ソース解析とシステム変更が可能にならない限り、もう彼らが挑めるインフェルノ(ディープ・ホール)ダンジョン(・トゥ・デス)は存在しなくなる。


彼らは、この無駄な努力の果てに、淡い希望を抱いている。

ここに階段は無い。

だから、ここから先に虚無が進む事は無いのではないか、と。

この扉の前で移動を停止し、ずっとここで固まって動かなくなるのではないか……と言う、切実な願いを持って、その瞬間を見届けようとしていた。


もう、地形的に、八人のパーティー全員が退路の無い一本道に追い込まれた形となっている。

全員がテレポート手段を用意しているし、街への帰還用のポータルも予め開いてある。

いよいよとなれば虚無を避けて回避する事は可能だ。

たとえ不幸な事故が置きる事があろうとも、誰か一人は事態を見届けられるはずだ。


だから、もう、いいか、とでも思ったのか。

ブッチーが一歩前に出る。


『死ぬ気か!?』


『勘違いすんなよ。

まだ試して無い事をやってみるだけだ』


味方の支援に使っていたポーションを、おもむろに虚無に向かって投げ付ける。

ここを最後と、手持ち枠(インベントリ)内のアイテムというアイテムを次々と発射していく。


『検証出来るのもこれで最後になるかもしれない……

まだやった事の無い何かを試すなら今の内、か』


ムラマサも、投げられる物は何でも、可能な限り投げ付け始める。


『動画は撮ってるだろうな?』


『もっちろん』


ブッチーが確認し、キツネが応じる。


ブッチー、ムラマサに続き、残るメンバーも思い思いにまだ出来る事は無いかと、奇異な行動を取り始める。


一応の確認、ですら無い。

ただ、何の感慨も無く、事務処理的に、デタラメな行動を取っていく八人。

何かを期待していた訳でもない。

今さら、この廃人プレイヤー達が、新しい仕様の穴を見つけられるはずもない。

そんな、最後の、最後の悪あがきだった。


だから、何の変化も起こらないまま、その瞬間を迎えた事に、憤る者は誰もいなかった。


来るべき時が、来てしまったというだけだ。



感情を表に出さないタイプの人形姫が泣いている。


常に自分の道に忠実でストイックな一閃は、最後に一撃を加えての自決を覚悟していた。


マジメイジは既に街に帰還した。wiki管理人の立場上、ここで死ぬ訳にも行かない。

交代したいと言っている者と代わるため、既にパーティーを抜けている。


辻スミスと発光大王子は、まだ何かが出来るはずだと、様々なスキルの組み合わせを試し続けている。


ブッチーは何も喋らず、ただじっと、棒立ちで虚無の前に立っている。


キツネは、誰かと電話している。


皆、思い思いの形で、最後の時を過ごしていた。



ムラマサは、涙を流していた。


せめて、カベの仇くらいは取ってやりたかった。

あれだけハマッて、共に熱く語り合った相棒が、もうマジホリに触れようともしない。

形ばかりの返事は寄越すが、メールのやり取りすら殆どしてくれなくなった。

きっと、俺という存在は、マジホリを思い出させてしまう、トラウマのスイッチなのだろう。

十数年を掛け、人生の時間を大量に注ぎ込んだ、ライフワークにも近い趣味が、彼を裏切った。

その心の傷はあまりにも深く、もう、マジホリに関連する全ての物を遠ざけておきたい……

カベは、そう考えているのだろう。


だから、友情を壊した憎き敵、虚無……

こいつだけは、何としても倒したかった。

生き延びた自分の義務だとも思っていた。

だが、それも、今……




七人は、虚無をテレポートで飛び越え、その背後に着地する。

一閃も、ブッチーも、仲間の説得で自殺攻撃は思い留まった。


虚無が、151階の終点、扉の前へと、ジワリジワリと接近していく。


と、その時、ポータルが開かれ、七人の下に八人目が姿を現す。

立ち回りが困難な砲兵と言う事で居残りになっていた竜発破が、最後に見届けに来たのかと思われたが……


『間に合わなかった……

みんな、ごめん……』


『いいって事よ』


震える涙声の山田マンを、ブッチーが慰める。



そして、虚無が扉に接触。


虚無は一瞬で姿を消す。




チャットをチェックすると、三層150階でその瞬間に備えていたパーティーが、目撃報告を書き込んでいる。


虚無の進行は止まらなかった。


引き続き、今度は第三層が破壊されて行くのだろう。


八人は思い思いに言葉を交わし、泣き、励まし合い、そして、別れた。



既に日曜朝、午前10時に近い。

キツネもまた、録画を停止し、その動画ファイルをUPし、PCを付けたままベッドに潜り込む。


モニターの電源だけ切り、自身の分身、狐面の女忍者(くのいち)を151階に残したまま……







キツネの名前の由来って、とっくに書いたような気になってたけど、今回初出、かな……?

忍者の最強装備の一つが狐面で、いつもそれを被っているから、という理由です。

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