76:票決を待たずして
足止めチーム六名の惨状を知ったトップランカー達は、決断を迫られる。
76:票決を待たずして
虚無の足止めのみを目的とした中堅勢チーム、全六名。
軍団長ゴリ、つらぬき丸、杜谷みみか、この三名によるBOTを使用した召喚連打を、三名の護衛が守る編成だった。
問題は、この護衛三名の錬度不足であった。
レベル500から480程度の、ようやく第四層に到達出来たばかりの面々ではあったが、ボスを相手にしないのであればなんとかなると考えられていた。
だが、殆ど動かない味方を守りながら戦うという変則的なプレイにまだ慣れたとは言えない彼らには、戦力・技量的な問題と、経験不足から来る慢心、判断ミスがあった。
ランダムに発生するザコ敵との戦いに気を取られ、三人の護衛が各個にその場の戦いに意識を集中。
その隙を突くようにして出現した別方向からの攻撃を受け、護衛役の一人が死亡。
食い止める壁を失った方向から、敵の群れが他のメンバーに襲いかかり、挟み撃ちを受けた結果、残る護衛二名も倒れた。
だが、召喚に特化したゴリ、みみか、つらぬき丸の三名は、BOTに操作を任せたまま、この事態に気付いていなかった。
そのため、彼らは身の安全を図る事も無く、延々その場で召喚を続け、敗北…… しなかった。
召喚連打を続けている彼らは無防備ではない。そのまま敵を壊滅してしまった。
召喚に特化した彼らの強さによって危機を乗り切る事が出来たのだが、それが、逆に不幸な結果に繋がった。
護衛を失った事で、召喚NPCの群れが虚無ではなく、ザコの処理に向かってしまい、虚無の移動速度が上昇。
護衛役が全員死亡して町に戻されたため、虚無の接近を警告する者もいない。
召喚BOT使用の三名も、二名が離席中、残る一名も画面を見ておらず、「危険があればMisscodeのチャイム音を鳴らす」という取り決めもあり、危機に気付けなかった。
「召喚を連打しながらゆっくりと後退」というBOTの動きが、152階の地形に引っかかっていた事に誰も気付かないという、致命的な結果をもたらす事となった。
経験不足の護衛役三名が、直ちに味方の下にワープして戻らず、予備の装備を身に着けてから戻ろうとしたのも、致命的な判断ミスだった。
そのタイムラグが、警告の機会を奪ってしまった。
護衛役の三人が同時に味方の現在地にポータルで飛んで戻った時、彼らが目にしたのは、壁に阻まれて後退の出来ない召喚役三名と、目の前至近距離まで迫った虚無の姿だった。
テレポートアイテム「ジグラットの聖印」や、町へ帰るポータルを開いて逃げ込めば、あるいは離脱も間に合ったのかもしれない。
だが、画面上が大量の召喚NPCで埋め尽くされた状態だった事もあって、彼らは冷静に状況を判断できなかった。
パニックに陥り、一瞬の決断に踏み切る事も出来ず、そのまま虚無と接触してしまう。
護衛役の一人がここに至ってようやくチャットツールでチャイムを鳴らして危機を知らせたが、時すでに遅し。
みみかが警告音に気付いて画面に向き直った時、既に召喚役三名も全て虚無に消された後だった。
死亡後10秒の蘇生待ち時間が終わり、街に戻された画面を見て、彼は絶望に打ちひしがれる。
これからあと数秒で、彼の分身、長年の相棒だった475レベルの天使は、消滅する……
中堅勢六名の全滅を知り、最終決戦の作戦会議をしていた10名も、作戦の練り直しを迫られる事になる。
この十日ほどの間、絶え間なく貢献を続けてくれた、召喚特化の三名が消えてしまった。
これによって、虚無の進行速度の計算が狂い、決戦の時間は数時間早まる事になる。
加えて……
:山田マン
:チート攻撃作戦はオススメ出来ない
:チートによって状況を覆せる手段が見つからない以上、無駄死にになるだけだろう
:申し訳ないが、今こちらから妙案をひねり出す余裕は無い
:山田マン
:追伸
:きっと、解析は間に合わない
:これ以上犠牲を出す前に、手を引く事も考えて欲しい
山田マンはチャットにこれだけを書き残し、また解析作業へと戻って行った。
とてもじゃないが、何の勝算も無い新たな作戦に手を取られているべき状況では無いのだろう。
:ムラマサ
:すまない 後腐れの無い多数決を、と言っておきながら……
:俺は、前言を撤回したい
状況は変わった。
時計の針が大きく進み、会議をする時間すら惜しまれる。
妙案が出ない以上は……
:ムラマサ
:俺達で足止めを続けよう
:山田マンはああ言っているが、今までずっとみんなをまとめ、RSを支えてきてくれた山田を、今は信じようじゃないか
:俺達に今出来るのは、あいつを信じて、あいつが間に合う事を信じて、時間を稼ぐ事、ただそれだけだろう
:ブッチー
:チッ…… 面白くねぇ展開だが、仕方ねぇか
:前回の投票、足止めに票入れたの、お前とキツネだろ
:キツネっち
:あらら、お見通し?
:ブッチー
:ここまで「効率」を積み重ねてきた俺達だ。何が一番現実的かは、本当は分かってたはずなんだよ…
:それが、ついつい、最終決戦なんてぇロマンに浮かされて、このザマだ
:ムラマサ
:もっと危機感を持っていれば、こんな事には…
:判断をミスった すまない…
:マジメイジ
:誰か一人のせいじゃないでしょ
:俺達全員が油断してたんだ
自分達が結論の出るはずのない会議にかまけている間に、時間稼ぎを買って出た六人を死なせてしまった。
もう、評決を取るまでもない。
:ムラマサ
:今から行こう
:限界まで、時間稼ぎだ
プレイヤー一人一人が、画面の向こうで決意を固める。
勝ち目の無い戦いを、大した意味の無い悪あがきを、無駄と知りながら続ける覚悟を。
不幸な間の悪さが続きすぎではないか、とか自己ツッコミしたい気持ちはある。




