74:今すぐ行くから
自分達がRSサーバー崩壊の原因になったと知ったコウヤ達は……
74:今すぐ行くから
『つまり、俺達のせいって事か……』
『いえ、そういう訳ではないですよ。
ゲームに元々存在した仕様の穴で、昔の荒らしがそこを突いてしまった結果、というだけの事です。
厳密に言えば誰も悪くは無いのですが……
最後のきっかけになったのが、僕達という事です』
コウヤには複雑すぎる話だったが、ユウリは上手く要約し、とにかく「運悪く10万人目を引いてしまった」という点だけは理解する事が出来た。
『いい加減なシステムを組んだ製作者が悪い、荒らしが悪い、改善しなかったサバ管が悪い……なんて話から、コウヤにマジホリを勧めたパパが悪い、影響を受けて始めた私が悪い、友達を誘ったコウヤが悪い、なんて話まで……
誰のせいか、なんて話にはキリが無い』
コウヤが責任を感じないようにと、マヤも言葉を尽くし、弟の頭でも理解出来るように説明を加える。
『超過した分不具合が起きやすいという事は、私達にも責任の一端がある訳ですわね』
虚無の発生によって様々なデータの破損が増えていったのか、キャラクターデータの超過が増える毎に破損データが増えていったのか、それは分からないが、もし後者であれば、カナリ、ハナミ、ソノカのように新たにマジホリRSを始めた者一人ひとりに被害を拡大させた原因がある、という事にもなり得る。
『でも、今問題なのは、誰のせいか、なんて事じゃないはずです』
『そうだ…… ユウリの言う通りだ』
『責任を問うより、どう解決するのか、と言うべきなのでしょうけど……』
『私達じゃ何も出来ない…… もどかしいわね』
コウヤ達は未だに「一組」。
一番下のルームに割り振られるプレイヤーに過ぎず、トップランカー達に資源を届ける事すら難しい。
奮闘しているプレイヤー達からすれば、存在すら失念されているような有様。
完全に蚊帳の外である。
『それより、ユウイはどうしたんだ? このまま行くなら始めるけど……』
『ああ、それが、ちょっと困った事になってましてね……
ユウイのやつ、思いつめてしまって……』
ユウリは、父の持ち帰ったデータで、問題のセーブデータを自身でも確認している。
wikiで告知されるより前に、解析担当者からのメールで直接事情を知ってもいた。
丁度十万人目だったのが自分だと、ユウイも知ってしまった。
自分がゲームを始めなければ、と責任を感じ、ユウイは泣きながら部屋に閉じこもってしまったのだ。
『誰か一人のせいではないでしょうに……』
『理屈を言っても聞き入れてくれなくて、僕も困っているんですよ。
ボイスチャットは付けておいたから、僕達の会話も聞こえていると思うのですが……
コウヤくん、明日の朝、ウチに来れないかな。
せめて学校に行く前に元気になってもらいたいから……』
『いや……』
『え?』
『今から行く!』
『今からですか!?』
『行く!』
泣いているユウイが一番喜ぶのは何か。それは、ユウリもコウヤもよく分かっている。
一人で部屋に閉じこもって泣いていると聞いて、ジッとしていられるはずもない。
『行ってくる! 後は頼んだ!』
コウヤはノートパソコンをバタンと閉じると、そのまま家を飛び出そうとする。
が、やはり子供一人で夜道を歩かせる訳にも行かず、母が車を出す事になる。
「ユウイ!」
ユウリの家に着くなり、ノックもせずにユウイの部屋に乗り込んで行く。
「えっ!?」
いきなりの事に、驚きの顔を向けるユウイ。
ベッドの上、壁際の隅で身体を丸め、泣きはらして赤くなった顔は酷い有様だった。
「なんでお前が泣いてんだ! 許さないぞ!」
「えっ? えっ?!」
慰めると言うより、叱るような口調。
ユウイは何がどうなっているのかと混乱していた。
「バグらせちまった責任で悩むって言うなら、それは俺のやる事だ!
ユウイが悩む事じゃねえっ!」
「ど…… どうし、て?」
キョトンとして、聞き返すユウイ。
「ゲーム仲間を増やそうとしたのも、父ちゃんに何かゲームやらせてくれって頼んだのも、全部俺だ!
悪いのは俺の方だ! ユウイは悪くない!」
しゃがみ込み、目と目の高さを合わせ、ユウイの両肩を掴んで正面からジッと見つめ、言い切る。
「でも……」
「でもじゃない!
俺が悪いのに、ユウイが泣いてるのはダメだ!
俺が困る! すごく困る!」
「でも、でも! 十万人目は私だって、ファイルが……」
「そんなのたまたまだ! ユウイは悪くない!」
「じゃあ、じゃあ…… コウヤさんだって悪くないじゃん!」
「そうだ!」
「ええっ!? 今俺が悪いって言ったじゃん!」
「実は悪くない!」
「ええええーーーーっ!」
「たまたま、偶然、運悪く、道を歩いてて犬のウンコ踏んだ時、それは俺のせいか?」
「何その例え……」
「ウンコ落としたままにしてる犬の飼い主が悪いんだ。
たまたま散歩してた俺達のせいじゃない。そうだろ?」
「うっ…… 話が分かりやすい」
「たまたまウンコ踏んだのが俺達だったってだけで、誰も悪くないんだ。
ウンコを置いたヤツと、ウンコを掃除しなかったヤツが悪い!」
「ウンコウンコ言い過ぎ!」
「ハハッ! やっと泣き止んだし!」
「あっ……」
ニッコリ、満面の笑顔を見せるコウヤ。
そこでようやく、ユウイは自分が酷い顔になっているのではと思い至る。
「もーっ! 早く言ってよ! 鼻出てるじゃん!」
「大丈夫大丈夫、笑ってりゃユウイは可愛いんだから。
そんくらいどーって事ねーって」
「っ……」
泣きはらした赤い顔が、更に赤く染まる。
「ぅっ……ぅぅ……」
そのまま、なぜかポロポロと涙がこぼれる。
「お、おい……なんでまた……」
安心したのと、嬉しいのとで、緊張が解けた反動だった。
兄の説明は難しすぎてよく分からなかったし、「お前のせいじゃない」と言うために話を作っているようにも思えた。
だが、コウヤは違う。
真正面からハッキリと、同じ目線で話をしてくれる安心感があった。
一緒にいると心地よい、ずっと一緒にいたい、そう、ユウイに思わせてくれる暖かさが、コウヤにはあった。
「おい、おいおい……」
ポロポロと安らいだ涙を流しながら、ユウイはコウヤに抱きつき、胸元に顔を埋める。
「ごめんね……しばらくこうしてて、いい?」
「おっ、おう……」
少し動揺しながらも、コウヤはユウイを抱き止め、その頭を優しく撫でる。
「!!」
ビクンと、コウヤは身を固くしてしまう。
不意を突くように、ユウイの小さな唇がコウヤの頬に触れたのだ。
「コウヤさん、大好き……」
最高の笑顔を見せて、そのまままた胸元に顔を伏せて隠してしまう。
オロオロと狼狽え、どうしたものかと周囲を見回しつつも、ユウリも、両親も、今は近くにいない。
仕方ないな、と、溜息を一つついてから、コウヤもまたユウイを抱き止めたまま、その場に座ってくつろぐ事にする。
その内誰かが来るだろう。
『全部聴こえてるぞー 青少年ー』
そんな少年少女の愛らしいやり取りは、全て卓上のヘッドセットのマイクが拾い上げ、ボイスチャットに垂れ流しになっていた。
が、女の子の部屋で、ベッドの上で女の子を抱き寄せながら、キスまでされている今のコウヤは、ヘッドホンから流れるかすかなマヤの声など聞き取れるはずもなかった。
緊張と居心地の悪さとでドギマギしながら、何をどうすべきかも分からず、ただ腕の中のユウイのぬくもりに身を任せながら、所在なく彼女の頭を撫で続けるしか無かった。
それ以上何かをするべきか考えようとするには、コウヤはまだ子供でありすぎた。
暖かで、穏やかな、二人だけの時間が、ゆったりと流れていく……
そして、様子を見に来たユウリの母とコウヤの母は、壁を背もたれにして、寄り添うようにして座ったまま寝ている二人の姿を目にする。
泣き疲れたユウイはクタクタになっていたのだろうし、それに付き合っていたコウヤもまた眠ってしまったのだろう。
もう夜も遅くなっていたし、このまま寝かせておく事にしようと、シーッと、微笑んで唇に人差し指を当てる。
結局、コウヤはユウイにガッシリと抱きつかれたまま、同じベッドで朝目覚める事になるのであった。
胸元に、たっぷりとヨダレの跡をつけられて……
あ、あれ? プロットだと、もうちょっと大人しい話だったはずなのに……




