73:真相
山田マンは意を決してサイバラ達のデータ解析に加わるのだが……
73:真相
『山田くん、見当がついてるって書いてたけど……』
『はい、まずはそこから確認していきます』
虚無の足止め部隊の戦いは154階に到達。
阻止限界点が三日後に迫る中、サイバラと山田マンはボイスチャットを常設し、協力してソースコード解析にあたっていた。
『僕が過去、RSサーバーを攻撃した事は、サイバラさんなら知ってますよね』
『ああ、カノザキから聞いてる。流石にマジギレだったな』
『カノザキさんが本気で怒ったのには、理由があったんですよ』
山田マンが「悪魔人間」と名乗っていた頃、荒らし行為の果て、新規キャラを大量に作っては消すというBOTを組み、サーバーに負荷攻撃を仕掛けた。
それが訴訟沙汰にまで発展したのは、単にサーバーに負荷が掛かるからだけではなかった。
『RSMODは、マジホリが本来処理出来るデータ量の限界を越え、追加要素を大量に盛り込んでいます』
『ああ、そんな話も初期の頃に聞いたな。仕組みは俺にはサッパリなんだが』
『本来扱いきれないはずの追加データをどこに格納したか、と言えば……
それは、プレイヤーのセーブデータなんです』
『!?』
マジホリの開発に使われたゲームエンジン上では、扱える「変数」……データ保存数に限界があった。
99999個。それが限界だった。
それ以上のデータを保存する領域として、MODサーバーではそう多くの数を必要としない、プレイヤーキャラクターのセーブデータを利用したのだ。
例えば、インフェルノダンジョン最終ボス、大邪神ガラエルの場合、セーブデータ番号「000100038」にキャラクター「BOSS_DATA_001」を作成し、その中にボスの情報を書き込み、管理するように作られている。
『10万体を越えた辺りから、データ破壊が始まる……
つまり、僕が作り上げたキャラ無限作成BOTは、直接的にRSを破壊可能な物だったんです』
『そうか…… メンテの処理が自動化する前でもあったか……』
定期メンテには、削除すべきキャラや、長期間放置されたキャラを「処理」する目的もある。
増えすぎたキャラクターを適宜削除していかなければ、いずれはシステムの限界に達し、RSの追加データ領域を侵食してしまうのだ。
キャラクター作成に上限を設定し、限界前で止まるようには作られていない。十数年前の時点では、そこまでマジホリRSが長く遊ばれるなどと誰も考えていなかったし、対策システムを作成するだけの知識を持った人間もいなかった。
実際、ただ一人の荒らし、悪魔人間=山田マンを黙らせれば、それで解決する問題だった。
ただ、大量のスパムキャラデータを処理するのに、手作業ではキリが無いと判断したカノザキは、メンテの自動処理システムを組み上げ、以降週に一度、機械的にキャラデータの処理を行えるように改修した。
『で、虚無のようなデタラメな現象が、誰かの悪意あるハッキングでもなく、偶発的に発生したのだとすると……』
その可能性を指摘しつつも、自分自身で確認は出来なかった。
彼は、マジホリRSの一プレイヤーで有り続ける事を、訴訟の示談内容として約していたからだ。
だから、キツネに頼んで、様々な下調べを行ってもらってきたのだ。
『セーブデータ数の超過が発生したのではないか、と……
それをまず、確認します』
仕様上は、9桁……億単位のセーブファイルを管理出来るようになってはいるが、当然、サーバーの限界を考え、遥かに低く上限が設定されている。
山田マンは、手元のパソコンを操作し、プレイヤーセーブファイルのフォルダを開き、総ファイル数を確認する。
『やっぱり…… かなり越えてますね』
総ファイル数、100058。
限界である99999を59キャラ分越えている。
『ここも十万が限度なのか……
いや、待ってくれ、メンテで余剰キャラの処理はしてるんだろう? この数を使い潰すのはあり得なくないか?
いくらRSの息が長いとは言え、そこまで総人口が多いとは思え無いが』
十万体分を使い潰すのは、いくら十数年続いたサーバーとは言えあり得ない。
いかに名作と讃えられようと、ただの知る人ぞ知るMODサーバーでしかないのだ。
カノザキはその疑問を山田マンにぶつける。
『それが…… ですね…… ここだけの話……』
山田マンは、一拍を置き、言葉を切る。
覚悟の要る、次の一言のために。
『削除なんて、されてないんですよ、本当は。
だから、僕の攻撃が警察沙汰、訴訟騒ぎにまでなったんですよ……』
『ハァ!?』
サイバラが素っ頓狂な声を上げる。
……気持ちは分かる。
これは、山田マンと、カノザキと、キタガミ、三人しか知らない話だ。
メンテで処置しているのは、あくまで「凍結」のみ。
RSが作られた当時、削除機能の解析と再現は行なわれていなかったのだ。
『じゃあ、君が昔作った、大量のスパムデータは……』
『凍結されただけで、今もサーバーに溜まったままです』
『だから10万件も……』
つまり、虚無の発生がこの超過のせいだとすると……
『今こうなっているのも、全部僕のせい、って事になるんです』
『いや、君が荒らさなくても、いつかは超過は発生しただろう。
そこまで思いつめなくても……』
『でも、それは遥か先の未来。
僕が荒らしたりしなければ、RSを誰も遊ばなくなる頃まで先延ばしに出来たかもしれないんですよ』
『それは…… まあ……そうか……』
自動処理を実装出来なかったため、カノザキは手作業でスパムデータを削除する羽目になった。
とても人力では処理しきれない勢いでの、妨害行為
今は反省していようとも、過去、山田マンが荒らし行為を行ったと言うのは事実。
責められるべき人間であるという点は変わらない。
(だからこそ、こうして必死になって解析作業に乗り込んできたという事か)
山田マンの内心の葛藤はいかほどのものか、サイバラにも察する事は出来る。
過去の経緯はともかくとして、今は彼の罪滅ぼしに可能な限り協力するべきだ。
『とにかく、そうやって限界を越え、本来MODの追加要素を格納するための場所にまで、プレイヤーのデータが書き込まれた結果、追加要素に異常が出た、と考えられるワケです』
『なるほど……
つまり、虚無の正体は200階のボスがバグ状態で生成されたモノ……って事か』
サイバラにも分かってきた。
これはきっと、ハッカーが破壊不能の怪物を送り込んだ、などという事件ではない。
偶発的な事故だったという事だ。
『このままプレイヤーが増えていけば、異常が加速するばかりです。
サイバラさん、プレイヤーデータを間引きする必要がありますが、可能ですか?』
『ああ…… それくらいなら、なんとかなるだろう』
凍結状態のプレイヤーデータを削除するくらいなら、なんとかなるはずだ。
専門知識のある人間の手助けは必要かもしれないが……
『良かった。あとは、どうして触れる物全てが消えていくのか、どうして攻撃が全て無効化されるのか、を調べなきゃいけませんが……』
どうしてバグボスが生まれたのかの理屈の一端は分かった。
だが、だからと言って、それで事態が好転した訳ではない。
『とりあえず、000100038番のデータを見てみよう』
サイバラは、無数に存在するフォルダから該当箇所を探し当て、100038番……虚無に該当するファイルを展開し、確認する。
『ふむ…… 一ヶ月弱くらい前に作られたキャラだな』
『虚無が初めて目撃された時期と一致してますね』
画面に映し出されたキャラクター名は、-YUI-+(>o<)+-YUI-
つまり、最後の一押しをしてしまったのは……
風呂敷畳み編。どこかに整合性に欠ける部分が無いか、ハラハラしながら書いております……




