72:臨戦態勢
残された時間は少ない。決心した山田マンは、行動を開始する。
72:臨戦態勢
:So, is this problem everything ok?
:Thank you very much.
:I appreciate your company so much.
キツネは機械翻訳で英文メールを返信。
確約は取れた。
このままソースコードを解析し、MODサーバー上で誰がどのような処置を行おうとも法的に問題がない、と、現在マジホリの全権利を有するバジリオン・エンターテイメント社に確認を取っていたのだ。
これは、ある種キツネが自身の推理に基づいて「カマをかけた」行為でもあったのだが、スムーズに話が進んだと言う事は、幸先良く、これが後に良い結果となり得る可能性を予感させてもいた。
この時間のない状況で、手間を掛けてまで下調べをした甲斐があるか、無いか、それはまだ分からないが……
:山田くん、GOサインよ
:やりたいように、なんでもやっちゃって!
そして、山田マンはサイバラに連絡を取る。
キツネの所持しているRSサーバー全データのコピー、それは既に受け取っている。
解析を始め、彼と密な連携を取るための、事前の打ち合わせだ。
今現在、キタガミと連絡が取れない以上、RSに関する裁量権……いや、「通すべき筋」は、カノザキの遺族とサイバラにある。
遺族とは既に話をしてきた。カノザキの両親は頭を下げた自分に、快く応じてくれた。
かつて、カノザキに絶大な迷惑を掛けた自分だ。これで許されたなどとは思うまい。
本当の罪滅ぼしは、これからの働き如何に掛かっている。
企業間の訴訟も、個人間の訴訟も、もう気にしなくていい。
あとは、やるだけ。
気を引き締め、全身全霊、全力を振るう決意を固める。
バイトもしばらく休ませてもらった。
覚悟は出来ている。後はサイバラに話をして、そこからが……決戦だ。
『お願いします! 俺もなんとか間に合わせたいんです!』
『無茶言うなよ。俺たちが出しゃばっていい状況じゃない事くらい分かるだろ?』
『二組の俺らが協力出来るとすれば、補給面くらいだって、スレにもあんだけ書いてあんだろが』
クラガは焦っていた。
インフェルノダンジョンも第一階層を突破し、第二階層に到達。
彼の暗黒騎士のレベルは既に142にも達していた。
腕の立つ面々の協力で、レベル不足ながらも一層を「突破させてもらえた」のは僥倖だった。
クラガと同じように、この先、四層で戦いが終わらなかった場合に間に合わせようと、必死にレベリングを行っている者もある程度いた。
熟練の経験者が、この先必要になりそうなサポート系や召喚系のサブキャラクターを育成し始めたりもしていた。
皆は競い合うようにしてレベルを上げ続け、ここまで必死に頑張ってきた。
中でも、クラガはランカーや中堅勢の間でも「期待の新人」と噂になるくらい、名の通った存在になった。
だがしかし、そんなクラガを持て囃し、貴重な装備を破格で融通してくれるような協力者達も、ここに来て様子が一変してしまった。
『今やるべき事は、俺達のレベル上げじゃないだろう? それくらい分かるだろ』
『あっ、ケンさん、集めといた応援物資、頼んますよ!』
『おうっ! 二組の気持ちは確かに受け取った!』
マジホリRSの全プレイヤーは、レベル帯に応じ、サーバー内に作られた四つの大部屋に割り振られる。
二組と言うのは、下から二番目、今現在クラガ達が割り振られているルームを現す。
150レベル辺りから、タイミング次第では一つ上の三組に割り振られるようになる。
そういう、両ルームを行き来出来るプレイヤーを介して、下から上へと補給物資を輸送する事が出来るのだ。
資金、ポーション、鉱石、等々…… 召喚BOTをフル稼働させている四層・第四ルームのプレイヤー達が、消耗品として日々大量に消費し続けているそれらの物資を、多くの下層プレイヤーが率先して集め、届けている。
『お前もいい加減夢見てねーで、今出来る事で貢献しとけよ……
そういう態度の悪さ、後々まで語り継がれちまうぞ?』
ゲーム史上稀に見る珍事。
既にwiki内では「祭り」を越え、「伝説」とまで言われ始めている。
その生きた伝説が現在進行系で進む中、恥ずかしくない行いをしよう、少しでも出来る事をしようと、皆が一致団結し、トップランカー達の戦いを支えている。
そんな中、自分の経験値や装備の事しか考えていないクラガは、非協力的な自己中、と見られる事になる。
(クソッ…… 結局、俺が追いつきそうになったから……
格下じゃなくなったから、もうお恵みの時間は終わりって事かよ!)
だがしかし、クラガはそれを曲解する。
優秀すぎる新人が、出る杭として打たれ始めたのだと、被害者意識をもって誤解する。
『そっすか、もういいっすわ』
素っ気なく書き込み、ダンジョンへ潜る。
そうした心の内の歪みは、口調の変化となって現れる。
今まで下手に出て、丁寧さを心がけていた分、余計に目立ち、鼻につく。
そういった変化は、本人以上に、他人からよく気付かれる。
『あいつ、ウゼェ』
『けっきょく期待の新人もクレクレ乞食くんだったって事かよ、ガッカリだな』
狭い世界、噂話の伝搬は、早い。
作者も英語力があるワケではないので、機械翻訳頼みです……




