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66:負の葛藤

虚無の足止めが進む一方、ある人物に一本の電話が掛かる。

66:負の葛藤



『お疲れ様っす! 召喚次入ります』


『じゃ、ええと…… 次はつらぬきさんが抜ける番か』


『お先に失礼します』


『えーい、疲れた! 前衛の交代もそろそろ来いやって言っとけ!』


『了解です。言っときます!』


日曜夜、本日も対虚無足止め作戦は続いていた。

フォーメーションは、召喚四名+その護衛が四名。

パーティーメンバーを入れ替えながらBOTを使った召喚連打を続け、虚無の移動速度を「一日一階」にまで低減させる事に成功していた。

中堅勢からも育成を間に合わせた面々が新たにローテーションに加わり、24時間継続的にこの態勢を維持。

それでも尚、人員が足りている訳ではなく、各プレイヤーそれぞれで生活を犠牲にしながらの戦いが続いている。

ある者は有給休暇を取り、ある者はバイトを休み、ある者は仕事を後回しにし……

それは決して褒められた行為ではなかったが、彼らそれぞれの「居るべき場所」「目指すべき場所」が消えようとする今、何よりも優先して然るべき事だったのであろう。

追い詰められたが故の狂気、その熱に浮かされ、士気は決して低くなかった。


虚無の位置、現在、158階。

第四層陥落までの猶予期間、約一週間。





一方その頃、ある男に電話が掛かる。


「Hallo? ……もしもし?」


見慣れない番号なので無視していたが、この半日でもう三度目の電話だったので、受話器を取る事にした。

男は通話を始めると、すぐに顔色を変える。


「そう……ですか。ええ、はい。私の方でも、事態は把握しています。

ですが、やはり…… はい。はい。そう、です。

こちらから、そちらに向かうとなると、どうしても……」


彼は今、どうしようもない立場にいた。

思い入れはあっても、自分ではどうしようもない。


「私以外であれば…… サイバラさんなら、どうにかなるかもしれません。

連絡済み? はい。それなら良かった。

後は、うーん…… そうですね…… 当時の開発メンバーのリストを送りましょう。

メールアドレスを教えて頂けませんか?」


思い入れはある。

協力的な態度も取る。

だが……


「はい。では、今すぐにも送信しますので。ええ、では……

可能な限り、逐一早く返信しますので。

ありがとうございます。少々お待ち下さい」


電話を切り、メールを書く。


彼には分かっていた。

サイバラではダメだろうな、と。

自分が本気になったとしても、あるいはダメかもしれない。


マジホリRSと言う存在は、それほどまでにデタラメで、なおかつ危険な代物だ。


いっそ、このまま、壊れて、終わってくれればいいのに、と……


本心では、彼はそう願っていたのである。

彼個人の思い入れとは別に、悲痛な想いと共に、そう願っていたのである。






アクト2の殆どは、キューブと魔剣と言う、ストーリーを進めるためのアイテムを手に入れる行程で出来ている。

難易度が変わってもこの二つのアイテムは手元に残ったままなので、それらは二周目以降スキップしても構わない部分だ。

イベントアイテムはトレード不可なので、複数集める意味も無い。

序盤戦を終えた後、ユウイが絶対に入りたがらない「蟲の巣窟」も飛ばし、コウヤ達は一足飛びにアクト2終盤へと進む。


『俺が盾スキルで食い止めるから、その間に頼むぜ、みんな!』


『足さえ止まればこっちのものです! カナリさん、頼みますよ!』


『ええ、号令は火力重視ね』


アクト2開始から一時間弱ほどでアクトボスの部屋まで辿り着き、邪神ドゥゲムとの戦いを開始。

コウヤが先頭に立ってボスの突進を食い止めている間に味方が援護&支援。

労せず敵を完封していく。


(クソッ、これじゃダメだろうがッ!!)


難易度が上がって来ているにも関わらず、順調すぎる戦い。

本来喜ぶべき見事な連携なのだが……

内心、カナリは悪態をつき、忸怩たる思いを溜め込んでいた。


自分がこのゲームを始めたのは何のためだったか。

それは、コウヤやユウリの上を行き、自分がより優れた人間であると示すためではなかったか。


確かに、自身の優秀性は見事に示してみせている。

だがそれは、あくまでサポート要員としての優秀性だ。

彼女の目指す「高みに君臨する者」……その姿ではない。


中心に立ち、皆を繋ぎ、皆を集め、ムーブメントをも作り出す。

リーダーシップ。

今のコウヤの姿に、カナリが感じている感情は、劣等感であり、敗北感である。


手元には、一応持参して来たイベントアイテム「邪神の祭剣」。

デモムービーにも度々登場する物語上のキーアイテムで、いかにもな、主人公の持ち物、といった風情。


さも当然のように、倒したドゥゲムのコアストーンを、コウヤが魔剣で封印する。


(クソッ!! クソがァッ!!)


こんな物、持っている意味があるのか?

どうせ、あいつが全てやってしまう。


カナリは、半ば衝動的に魔剣を捨て、そのままアクト3へと旅立つ。




(……あれ?)


ボスを倒してから、ドロップした戦利品を回収するのに手間取り、ユウイはアクト3に移動するタイミングが皆より遅れてしまっていた。


そこで、気付く。

ここにあるはずのないアイテムに。


(誰かが置いていったのかな……?)


ユウイは、なんの疑問もなくこれを拾う。


それが、何を意味するのかも気付かずに……




伏線回。 以上!

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