61:遅くなって
所在地を突き止め、キツネはマジホリRSのサーバーを直接確認に向かうのだが……
61:遅くなって
28 クラガ ****/**/**(木) 07:01:48.34
インフェルノアクト7クリアしました!
今日からダンジョン挑戦開始します!
トレード&支援物資ありがとうございました!
またよろしくお願いします!
新人スレに目を通し、ブッチーは満足の表情になる。
最後は少々手間取ったようだが、二週間程でインフェルノをクリア出来るとは、大したものだ。
29 ブッチー ****/**/**(木) 12:15:05.88
おめでとう 中々のスピードだ
だが、ここから先はさらなる地獄
じっくりトレハンに励んで装備を揃えてから挑戦する事を勧める
が、経験値効率はインフェルノダンジョンが最高だ
宝部屋を使った高速レベリングはもう控えたほうがいい
自分の教えに忠実な弟子が、また一つ難関を突破し、成長した。
この調子で行けば、一ヶ月後には第三層まで到達しているかもしれない。
このクラガと言う男、本当に有言実行で、対虚無に間に合わせてくる可能性がある。
(キツネが好きそうなタイプだな……)
個性の際立つプレイヤーを執拗に追い回し、観察日記を載せるのがキツネのブログ「変態紳士のストーカー忍者道場」のウリだ。
教えてやればまた喜んで支援物資を投下したりする事だろう。
ブッチー自身は他人のプレイに干渉したり時間を割いたりする事は無いのだが、見どころのある弟子にもう一人師匠を付けてやるくらいはしてやろうという気になっていた。
ブッチーはスマホの画面を切り、昼食に箸を付ける。
(……チッ)
掲示板のチェックに時間を取りすぎ、せっかくの唐揚げ定食が冷めてしまっていた。
やはり、他人に気を遣うのは性に合わない。
キツネとコウヤの父は、30分弱を掛けて地下鉄の終点に着き、そこからJRに乗り継ぎ。
さらに一時間弱電車に揺られた後、駅を出てタクシーを拾い、目的地に向かう。
着いたのは、かつては賑わっていたのであろう商店街近くの、寂れた町並み。
目指す場所はもう目と鼻の先だ。
長く掛かるかもしれないのでタクシーはここで帰し、いよいよ真相へと迫っていく。
「うーん、これはなんとも」
「あれだけスキルのある人間でも、暮らし向きは良くない、と……」
「IT土方とかって、業界の黒い話もよく聞くわねぇ」
かなり古い、賃料の安そうな三階建てマンション。
はっきり言って、ボロアパートと言った方が適切な表現になる。
その三階の一室に、マジホリRSのサーバーは存在しているはず。
錆びた階段を登り、カビの目立つコンクリートの床を歩き、303号室の前へ。
ピンポーン……
躊躇うこと無くインターホンを鳴らすキツネ。
インターホンの上に、カノザキと名がある。ここで間違い無い。
カメラも付いていない古いタイプの物だが、ちゃんと機能はしているようで、室内からも呼び出し音が聞こえてくる。
「カノザキさーん!」
反応が無く、大きな声で呼びかけるキツネ。
それでも、やはり返事は無い。
「留守か、居留守か、そもそも誰もいないのか……」
「ま、流石に錠前破りなんて訳にもいかないし、聞いてみるしか無いわね」
「出来るんですか? 錠前破り」
「出来る訳ないでしょ」
「はぁ……」
この人の言う事は冗談なのか本気なのか、判断が難しい……
コウヤ父は呆れながら眉間にしわを寄せる。
一階に管理人室がある事は確認済みなので、階段を降りて管理人を尋ねる。
再びインターホンを押し、返事を待つ。
「はぁい」
70代くらいだろうか? 女性の管理人が姿を現す。
「押しかけてしまい申し訳ありません。私達、303のカノザキさんの古い知人で、どうしても問い合わせたい事があって……」
「あらあら、まあまあ、カノザキさんの!」
キツネが言い終わらないうちに、管理人が大きな声で返す。
ギリギリ、コウヤ父の方が古い知人に当てはまるかどうか、と言った所だ。「私達」と言うのは嘘にならないか?と多少気がとがめるが、このくらいは仕方ないと割り切り、話を合わせる事にする。
幸い、管理人の反応も悪いものでは無い。
「私達の関わったオンライン業務で、彼の助けが必要になったのですが、連絡が取れなくてですね……」
と、管理人は手をひらひらと目の前に突き出し、また言葉を遮る。
「少し遅かったわねぇ……」
「と、言いますと?」
視線を下に落とし、申し訳なさそうに言葉を継ぐ。
「カノザキさん、三ヶ月ほど前にお亡くなりになってるのよ」
特に細かく設定は考えていませんが、コウヤの家はやや裕福めな中流家庭。キツネの方は夫の稼ぎがかなり良く、羽振りが良いと想定しています。