58:反省と相談と
打開策を見いだせないままのトップランカー達は、反省会を行っていた。
58:反省と相談と
:<ユウリ>
: 返信が遅れて申し訳ありません
: マヤさん、先日の相談と言うのは、何だったのでしょうか?
:<マヤ>
: マジホリの件で聞きたい事があったんだけど、自己解決しました
: ごめんね
ユウリは携帯の画面を閉じる。
マヤから連絡を取ってくるのは初めてだったので、何事かと慌てて返事をしたが、どうやら遅すぎたようだ。
女子に囲まれて少々浮かれすぎていたか、と肩を落として反省する。
マヤもまた、携帯の画面を閉じて溜め息をつく。
いくらあの「虚無」に関係しているかも知れないとは言え、家の父の事をユウリに相談してどうなると言うのか。
まだそうと決まった訳でもない。後で恥をかくだけかもしれない。
誰かに話してしまいたい気持ちはグッとこらえて、今は自分一人の胸に秘めておこう。
これからは、自分が父を見張り続け、不審な行動の理由を見つけ出すしかない。
きっと、母に相談するよりはその方が上手く収まるはずだ……
ランカー組はまた今日も中堅勢を連れ、長時間の虚無遅滞作戦を行い、徒労感と共に帰還。
無力感に苛まれながら、チャット内で今後の方針を話し合っていた。
:人形姫
:で、キツネさんはまた仕事か 残念だな
:ブッチー
:あれだけ無駄骨折りまくった後だからな しゃーなし
:山田マン
:でも、そろそろ本気で何か対策を考えないとマズいですよ
:もう162階 あと10日もすれば四層は限界です
:ムラマサ
:せめて足止めくらいはやっておこう
:累積ダメージが突破口になる可能性だってまだ有り得るしな……
:一閃
:後は、複数パーティーの同時攻撃がフラグになる説と……
:他に何かありましたっけ
:マジメイジ
:八属性同時攻撃説と、ストーリー再現説
:ムラマサ
:あったねー それも
:ブッチー
:八属性ならもうやってんじゃね? ストーリーは…… 無いだろ
:山田マン
:四層に来れるアサシンがまずいないですしね
八属性同時攻撃説……
物理、毒、氷、炎、風、雷、魔、無、の8つの属性の攻撃を同時に与える事が虚無にダメージを与えるキーになるのでは、という当て推量の説だ。
ソーサラー、ニンジャ、アーチャーでこの条件は満たしているため、八人で完全同時攻撃を行なわなければならない、などと言う条件でも無い限り、実験は終わっていると見ていい。
もう一方、ストーリー再現説……
虚無の正体は、ラスボス「大邪神ガラエル」の完全体であると仮定したもので、ストーリーデモムービーと同じ手順を踏んで初めて攻撃が通じるようになるのでは、という物だ。
つまり、ウォリアー、アーチャー、パラディン、ソーサラー、ネクロマンサー、ドルイド、アサシン、エンジェル、の八人によるパーティー編成が鍵となる、という推論になる。
こちらはまだ試していないが、そもそも第四層に来られるレベルのネクロ使いとアサシン使いがいないため、今の所検証が不可能だ。
:ムラマサ
:じゃ、とりあえず八人同時の八属性攻撃でも試してみるか?
:人形姫
:着弾タイミングを揃えるとか、可能?
:ブッチー
:みんな忘れてるよなぁ 投げポ
:人形姫
:あー!
最序盤がキツい人のためのクラフトアイテムとして、「火炎瓶」「凍結剤」などの投擲用ポーションが存在する。
投げた後、着弾点周辺に一定時間範囲ダメージを発生し続けるという設置効果で、一見すると有用そうなアイテムだが、鉱石を消費して製作する割にダメージがあまりに小さすぎるため、使用する者はほぼいないと言っていい死にアイテムだ。
魔獣使い等、一部キャラクターが素材として利用する事はあるが、武器として使われる事は皆無になっている。
:ムラマサ
:投擲スキル無しで投げれば、速度も距離も全クラス一定で、実験にはおあつらえ向きだ
:どうせ無駄だろうが、一応試しておかないか?
:ブッチー
:ついでに、まだ投げた事の無い物リストでも作ってみるかね
:マジメイジ
:キツネさんがいないと召喚連打役が足りませんし、また中堅メンバーからボランティア募集を掛けないとなぁ
操作の煩雑さから、彼らの一番負担が大きく、また、階段を降りる役目もあるため、リスクも一番高い。
ランカー勢としては、彼らの善意に頼った挑戦が続いているのが心苦しくてならないのだが……
:山田マン
:やっぱり、BOTの導入を急いだ方がいいのかもしれない
:もういいですよね? ムラマサさん
:ムラマサ
:こうなったらもう、流石に反対も出来ないな
:そもそもデータ抹消なんていう虚無の存在自体が規約違反だし……
:ブッチー
:しゃーねえなぁ…… つっても、そんにすぐ出来ねーぞ
:操作セットのマクロじゃなく、BOT作りとなると守備範囲外だからな
:山田マン
:スレッドに募集を出してみますか これまた規約違反でしょうけれど
:ブッチー
:頼むわ
ムラマサはズルズルとなし崩し的にコミュニティの秩序が乱れていく事に不安を感じてはいたが、今この状況で反対を言えるはずもなく、沈黙せざるを得なかった。
まさか、もうあの頃のような警察沙汰、訴訟沙汰にはなるまいが、どうしても嫌な記憶が蘇ってしまう。
好きこのんで裁判の傍聴にまで行ってしまったキツネのような物好きなら、不穏な状況もかえっていい刺激とばかりに楽しめるのだろうが……
(あの人ばかりに頼っていられない。せめて、ゲームの中の事は俺が頑張らねば)
進展はあったと言うキツネ。
あったからこそ、またゲームに顔を出せなくなっている。
朗報を信じ、彼女が間に合う事に期待し、帰るべき場所……この第四層を、その時まで守らなければならない。
そのためなら、BOTだろうが何だろうが、認める他は無い。
サムライだけでなく、ウォリアーにも投擲スキルがあるという設定になっています。




