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56:断れない空気

父の行動を怪しむマヤ。一方、新たにマジホリを始めようとするコウヤのクラスメイト達は……

56:断れない空気



『えぇぇぇぇぇぇぇ!? 真犯人は父ちゃん!?』


『馬鹿! 声がデカい!』


(……ってなるわよね、絶対)


マヤは、コウヤに打ち明けた場合を脳内でシミュレートし、却下と判断。

他に誰に相談出来るかを検討。


(ママはママで、面倒な事になりそうだし……)


が、他の選択肢はもう殆ど無い。


(はぁぁぁぁ…… 小学生に頼っちゃうの? 私は)





「ユウリくーん、これ、どうすればいいのー?」


日曜の昼、カナリは友人のハナミとソノカを連れ、ユウリの自宅に押しかけていた。

先日ユウリからマジホリの話を聞き、自分達も始めたいと言い出した二人の付き添いだ。


「全くもう……なぜ私がこんな事に付き合わねばならないのですか……」


実際の所は、ハナミとソノカが少々強引にカナリを連れて来た、というのが真相ではあったのだが。

マジホリの遊び方なら、カナリにだって教える事は出来るし、ディスクのコピーだって用意出来る。

コウヤでもカナリでもなく、あえてユウリ宅に来ているのには理由があった。


「まあまあ…… これもハナミのためと思って」


「ハァ…… 分かってます。

でも、妹さんと似たタイプのハナミさんでは、少々分が悪いのではないかと……」


人見知りしがちで男子と話す事さえ苦手なソノカとは対象的に、快活なハナミは男女別け隔てなく一緒に遊ぶ、言わばコウヤタイプの女子だ。

それだけに、穏やかで理知的なユウリとは相性がいいらしく、憧れも感じているらしい。

マジホリの遊び方を教えてもらうという名目で、この際関係を深めてしまおうという魂胆も見えていた。


(あら、ユウリさんはてっきり年上がお好みかと思っていましたけど……)


ハナミに対して、割と親身になって、優しく接しているではないか。

自分に対する接し方と随分違うではないかと、少々腹立たしさを感じるカナリであったが、その二人の様子に、何やら既視感を覚え、すぐに納得する。

ああ、これはコウヤに対する接し方と同じだな、と。

ユウリは決して成績が低かったり、物覚えが悪かったりする相手を馬鹿にしたりはしない。誰にでも分かりやすく丁寧に教える事が出来るタイプで、将来は家庭教師に向いているのではないかとも感じさせられる。


「まあ、あれはあれで、良いのかもしれませんわね……」


「いいなぁ……」


「ソノカさん?」


「あっ、いやっ、その……」


「まったく、お人好しなことですわね、貴方も」


「そんなんじゃないんだよ? ホントに……」


顔を赤くして視線を逸らすソノカ。

やれやれ、とカナリは手元の画面に向き直る。

とりあえずは、この子のタブレットにもインストールは出来たようだ。

古いゲームなのが幸いして、解像度も問題ない。マウスとキーボードを接続すれば普通に遊べるだろう。


「どうですか、カナリさん」


「こちらは大丈夫ですから、そちらの方をしっかりお願いしますわ」


「しっかりお願いします!」


「はいはい…… じゃあもう、後は僕が全部やりますから」


「お願いしまーす!」


(近い……)


ユウリの隣で、顔を近付けるようにして画面を覗き込むハナミ。

無遠慮な妹タイプの特性を活かし、図々しく接近していくのは、天然なのか、戦略なのか……



……と、そんな事になっていたので、ユウリがマヤからのメールに気付いたのは、随分後になってからだった。






「という訳だ! 俺はなんとしてもコイツを極めたい。 お前達の力を貸してくれ!」


「まぁ……クラガさんがそこまで言うなら……」


「こんなのタダで貰える上に合法だなんて、美味い話もあったもんっスねぇ!」


クラガは子分二人を家に呼び付け、型落ちの中古パソコンにマジホリをインストールした状態で強制プレゼント。

断れない状況を作り上げていた。


二人ともノートパソコンなんて持っていなかったので、パソコンごとタダでくれるというクラガの太っ腹には驚かされ、素直に喜んでもいた。

だが、二人の子分の痩せ型の方、ウスデはなんとなくクラガの魂胆を見透かしていて、かえって胡散臭さを感じていた。

それでも、この巨漢の乱暴者相手に断る程の度胸も理由も持ち合わせていない。

どうせ嫌でもこの二人とはこの先も長い間付き合っていかなければならないのだから、それくらい構わない、と思っていた。

もう一人の肥満体の方、モジヤはもっと単純で、くれる物なら何でも貰うという浅ましさから、大喜びでこれを引き受けていた。


「馬鹿でも分かるレベル上げのコツをテキストファイルで入れてあるからな。慣れてきたらしっかり実践するんだぞ!」


「うーす!」


クラガの自室はいつもゴミだらけだ。

それをついつい掃除してしまう辺り、自分も根っからの子分気質だな、とウスデは我が身の情けなさにウンザリさせられていた。

年季の入った手狭なマンション。生活ゴミを見ると、食事の大半はコンビニ食のようだし、家具や生活家電の類も安物に見える。

それなのに、なぜ……

子供部屋には複数台の最新式パソコンに、ゲーム機、ブルーレイレコーダーが揃っている。

クラガは「友達を金で買う」タイプだが、家自体は貧乏そのものに見える。

その違和感がまた、ウスデには怖かった。

何か、その理由を尋ねる訳にはいかないと思える「影」を、この部屋の有り様、クラガの立ち居振る舞いの裏に見てしまう。


「おい、聞いてんのか!」


「は、はい…… まずは難易度ベリーハードクリア、ですよね。わかりました」







ソノカは33話で転んでバケツの水をひっくり返した子です。

ファンタジー好きで、カナリとは小説の趣味が合う模様。

33話の「あ、カナリさんだったらファンタジー小説がいいと思うよー」は、きっとハナミのセリフなんだと思います。

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