52:懸念と疑念
虚無調査隊の苦闘ぶりは、コウヤ達の間でも話題となるが……
52:懸念と疑念
「おい見たか! またロストが出たって!」
「ええ、僕も朝一通り目を通して来ました。一体何がどうなってるのか……」
コウヤとユウリは朝顔を合わせるなり興奮した様子で話し合う。
「俺達、このままマジホリやってていいのかな…… なんか、ヤバいウイルスとか入れられてねーよな?」
いくら小学生の頭でも、虚無事件が尋常ではない展開になっている事くらいは想像が付く。
コウヤの心配ももっともなのだが……
「全く、相変わらずお馬鹿さんですわね」
上から目線で割り込んでくるカナリ。
「寂れているとは言え、200人以上のプレイヤーがいるのでしょう?
本当にウイルスが仕込まれているなら、ウイルス対策ソフト等で気付かれているはずでしょう。
勝手にパソコンを弄られているならば、誰かがその変化を見つけているはずですわ」
「確かに。自分のパソコンの変化なら分かりそうなものですよね。
熟練プレイヤーの皆さんも、サーバーの方に手が加えられたか、元々存在したか、どちらかだろうと見ているようですし」
「なんだかよく分かんねーけど、心配しなくていいって事か?」
「ゲームが破壊され兼ねない状況なのですから、心配しなくていいという事はないですが……」
「そもそも、貴方のパソコンに見られて困るデータとか入ってますの?」
「あーっ」
言われて気付く。父からもらった型遅れの振るいノートパソコンには、マジホリ以外殆ど何も入っていないような状態だ。
ユウリもユウイもカナリも似たようなもので、メールのやり取り等々はノートパソコンでは行っていない。
だから侵入されてもいいという話ではないが、とりあえず、実害が出る心配は殆ど無いだろう。
「問題は、ハッキングより、時間の問題ですわよ」
「ええ。急いだ方がいいでしょう。
コウヤ君、君の目標を達成するまで、そうモタモタしていられなくなっているのですからね」
「そっか…… もしも虚無がインフェルノダンジョンの中から出てきたら……」
もしも二百階ダンジョンを越え、通常MAPまで侵食し始めたとしたら、インフェルノのクリア自体が不可能となる。
そして、虚無の進行ペースがこのまま変わらなければ、その時は三ヶ月か、四ヶ月か、そう遠くない時期に来ると見られているのだ。
「虚無とだって戦いてーもんな。難易度ハードなんかでモタモタしてらんないなこりゃ」
「なんだ、コウヤ、またあの古いゲームか?」
「おう! またすげー事になってんだぜ!」
あれこれと盛り上がるコウヤ達に、クラスメイト達も何事かと首を突っ込み始める。
そんな様子を、クラガは自分の席から横目で眺めている。
「まだハードって…… マジかよ」
あまりにもの落差に、張り合おうとしていた事すら馬鹿馬鹿しくなる。
クラガの暗黒騎士は既に98レベル。インフェルノのアクト6に到達済み。
もしも今コウヤと対戦(PvP)でもすれば一秒で片が付く程に戦力が違う。
(てめぇはソコでモタモタしてるがいいさ……)
今ここで会話に割り込んで勝ち誇る事も可能だが、それで顰蹙を買うのは自分の方だとクラガは理解している。
くだらない学校のクラスレベルでの張り合いより、自分が目指すべきは、本当の勝利。本物の栄光。
お前はそこで遊んでろ。
クラガの妄執は、静かに強度を増していた。
(ん……?)
ようやく難易度ハードのアクト4をクリアしたその夜、マヤは入浴を終えてパジャマに着替え、ベッドに入ろうかと廊下を歩いていた。
その時、彼女は物置部屋に明かりが灯っている事に気付く。
(パパ、こんな時間に何やってるんだろ?)
こっそりとドアの隙間から様子を伺うと、物置部屋のもう使ってないはずのパソコンが起動している。
コウヤがマジホリをMOD無しのオフラインで遊んでいた、あのパソコンだ。
なんだかんだ言って避けていたクセに、結局自分でもマジホリを再開したのだろうか?
まさか、夜一人でこっそりエッチなサイトを楽しむため、なんて言う事もあるまい。
あのパソコンはそもそもネットに繋がっていないのだから、出来る事は少ないはずだ。
(あれ……? お仕事?)
メールソフトを起動し、何やら慌ただしく操作を繰り返している。
オフラインのパソコンで、今さら何を……
古いメールの過去ログを調べている……?
(!?)
父の手が止まったその時、画面に映っている文字列に、マヤは驚かされる。
この位置からだと文面までは確認できないが、はっきりと見えた。
「マジホリRS開発チーム」という、メールタイトルの一部分が。
なぜか、マヤはそこで見てはいけない物を見てしまったような感覚に陥り、そっとドアから離れ、自室に向かう。
RSMODの開発に加わっていた事は知っている。
驚くような事じゃない。
だが……
何かの違和感が、マヤの胸の奥に生まれつつある。
今この時になってRS開発のメールを漁る。しかも一人でこっそりと。
当時の事を聞くと嫌そうな顔をする割に、自慢げな態度。
最近なんだかストレスが溜まっているようでいて、それでいて楽しそうな表情。
昔から、親のパソコンを勝手に触るなと厳しく言われている。
(まさか……)
マヤの中に、大きな疑念がうずまき始めていた。
愛着ある古いパソコンを捨てる気になれず、使わないのに部屋の隅で置物になってるとか、よくある話だと思うんですが……
回収費用取られるご時世ですし~




