47:成長する者達
コウヤはユウイの誕生会に招かれる。一方その頃、虚無調査チームは……
47:成長する者達
ユウイの誕生会は、ユウイの友達6人と、ユウイ、ユウリ、コウヤ、カナリ、の計10人が集まる盛大な物となった。
皆がささやかなプレゼントを贈る中、姉と張り合って結構いい値段のする贈り物を選んでしまったコウヤは、三年生女子達の喝采を浴びる事になった。
曰く、「本当にユウイちゃんのカレシなんだ!」である。
そんなユウイを羨ましがる一方で、ユウリは妹の友人達にモテモテ。カナリに救いを求める有様だった。
そんなカナリとユウリの様子に、三年生女子達は関係を察し、遠慮をし始める。
これでまたあらぬ誤解が広がるのだろう。
夕方、プレゼントのお返しにとユウリがささやかな菓子包みを配り、ユウイの友人達は帰宅していく。
まだ暗くなるような時間でもなく、カナリも今日は一人で帰っていく。
(デート……じゃないよな、やっぱり)
これから、ユウイと、ユウリと、その母親、そしてコウヤ。四人で映画館に向かう。
今までもちょくちょくあった家族ぐるみの付き合い、といった程度の話であり、そう珍しいことでもない。
だが、デートと言われるとつい意識してしまう。コウヤもこれでいて微妙な年頃であるという事だ。
「お待たせ! 行こ、コウヤさん!」
ユウイは、ちょっとだけいつもよりおめかしした洋服に着替え、プレゼントしたリボンを早速身に着けていた。
「お、おう!」
似合う、可愛い、そういった言葉を口にする所までは、まだ。
コウヤはユウイに手を引かれ、車の中に押し込まれる。
暖かなユウイの手が自分の手を握ってくる。
今まで何度もこんな事はあったのに、今日はなんだか、少し……
そんなユウイとコウヤの様子を、母と兄が微笑ましく見守っていた。
「中堅勢」と呼ばれ始めたプレイヤー達がいる。
ムラマサ達に守られるようにして随行していた、∨キャヴァリアー、つらぬき丸、軍団長ゴリのような、ようやく第4階層に辿り着けるか、着けないか…… レベル450前後の者達の事だ。
彼らを中堅と呼ぶのは明確な間違いだ。
450までレベルを上げてくるのは、全プレイヤーの中でもほんの一握り。
既に500を越えているつらぬき丸やゴリなどは、特に「上位」と言っても問題ない戦歴の持ち主だ。
だが、しかし、それより上のトップランカーの実力があまりに大きすぎるがため、掲示板上では「中堅」と呼ばれてしまっている。
今、そんな中堅勢が賑わっている。
いずれ151階の階段の前で、虚無との総力戦が行われる。
16名による調査隊結成ももうじき行なわれる。
マジホリを愛する者の一人として、彼らも「歴史に名を残したい!」とばかりに奮い立っていた。
今週中にはキツネっちも戻ってくるという話だし、今ここで頑張らねば、と、必死にレベル上げに励んでいるのだ。
そんな彼らが頼るのは、やはりガチ勢の持つ知識。
中でも、あらゆる手を使い尽くして来たブッチーは質問攻めとなっている。
彼の「自称チート」なプレイスタイルを許容している山田マンと共に、ささやかな育成講座が掲示板上で繰り広げられていた。
段々とブッチーは逐一似たような説明をするのが面倒くさくなり、ふと思い出す。
最近、一連の手順をまとめて書き込んだばかりではないか、と。
ブッチーは「新人スレ」のURLを書き込む。
クラガのような新規勢に向けて書いた文章は分かりやすく、中堅勢にとっても役立つものだった。
たちまち評判となり、同時に、もう一つの話題も生み出してしまう。
「マジホリRSに、新人が来ている」
ある意味奇跡にも似たこの出来事に、彼らは色めき立っていた。
過疎る一方だったこのゲームに訪れたのは、虚無による崩壊の危機だけではない。
この危機が、新たなプレイヤーを呼び込むきっかけともなっている。
その事実が、熟練プレイヤー達を奮起させていく。
その奮起が、明確な結果を伴い、数字となって表れる。
高速レベリングによる戦力強化。
トレハンの加熱によるプレイヤー間トレードの活性化。
wikiに集まって書き込みを交わしているのは、30人程の極めて小さなコミュニティでしかないのだが、今、確実に、彼らは「あの頃」を取り戻していた。
ムラマサと同じく、「守りたい」という想いが、プレイヤー各々の胸の中に拡がっていく。
未だ五里霧中、暗中模索の中であがくしかない彼らだったが、落ち込みつつあった戦意は、回復した。
決戦の時に備え、プレイヤー一人一人が己の分身を研ぎ澄まして行く。
物語を先に進めていく前の状況整理、みたいな感じで……
ぼちぼち展開を加速させていきたい所です。