45:ゲームが終わったその後で
コウヤ達が難易度ノーマルをクリアしていたその頃、キツネは集めた情報を整理していた。
45:ゲームが終わったその後で
やり残しが無いか入念に確認した後、コウヤ達は難易度ハードの世界へと進み、アクト1の拠点、グラストラムの町から再スタートしたところでパーティーを解散。
ボイスチャットでクリア後の余韻を楽しんでいた。
「ノーマルは流石にヌルすぎるよな。でもこっからが本番だぜ」
「やっとスキルが全部使えるようになった所だしね」
既にクリア経験のあるコウヤとマヤはこれがまだまだ始まりにすぎない事が分かっているので、幾分落ち着いていた。
「クマちゃん可愛い! ワンちゃん達のお父さん! スキル振り直したーい!」
「アクト1のサブクエスト報酬で振り直しは出来るけど、レベルが下がってしまうから気を付けた方がいいよ」
「丁度振り直ししたくなる所でそういうクエストがあると言うのは、流石ですわね」
ユウイは中途半端にポイントを注いでしまった「炎の武器」を捨てて召喚をもっと強くしたいと思っていたし、カナリも普段使いのしやすい「高貴なる一撃」に割り振ったポイントを、一撃重視の上位スキル「救国の一刺」に振り直したいと考えていた。
wikiで勧められていたビルド構築はシングルプレイを想定して書かれた物ばかりで、近接戦闘を余儀なくされる場合の護身用スキルの習得が推奨されていたのだが、多人数プレイでは当然、その重要度は下がってくる。
「じゃ、明日は自由行動にして、振り直してレベルが下がった分は明日の間に取り戻しとくってのはどうかな」
明日は放課後にユウイのお誕生日会をして、その後家族で出かける予定になっている。
その後でマジホリ会というのも大変なので、明日は取りやめ。次回のプレイは火曜の予定だ。
コウヤの提案通り、それまでは好きにプレイして、後から歩調を合わせる事にし、日曜のマジホリ会を終えた。
キツネは画面上に過去のニュース記事を集め、並べ、眺めていた。
虚無事件に直接関係するかどうかは分からないが、ここに何かが隠されていると彼女は読んでいた。
自説を確かめるべく、こうして表に見えている事象を再確認し、頭の中を整理していく。
ハクスラの代名詞とも言える、大人気RPG「ギアブロ」。
マジホリは、その大ヒットを受けて急遽制作された後追い企画だ。
模倣作とは言え、早い段階で完成度の高い内容で発売にこぎ着けた事から、ハクスラプレイヤー層を大きく取り込み、かなりの収益を上げる事に成功。
だが、その素早いゲーム開発には裏があった。
全てでは無いのだが、ゲームのソースコードの一部は、そっくりそのままギアブロからのコピーである事が発覚。
長い訴訟の末、マジホリを開発したフリゲート・ゲームス側が和解金を払って法廷闘争は終結した。
この訴訟中、マジホリは一度根本からゲームスクリプトを作り直し、コピーの事実を無かった事にしようと試みているのだが、この苦しい言い逃れの結果として、ある副産物が産まれる。
突貫工事で作られた手抜きスクリプトは穴だらけな上、素人丸出し。そのため、公式のミスをプレイヤー側で補うという、奇妙な逆転現象が発生した。
MOD開発ブームの発生である。
フリゲート社はこの流れを歓迎し、好事家が自力で解析していたソースコードを、MOD開発向けに絞った一部分のみではあるが、一般公開。
MODブームはますます加熱し、世界各地でマジホリを根本から作り直すような本格的大型MODが作られ始める事となった。
ライジング・サン、RSMODもここから始まっている。
(スクリプトが絡んだMOD開発者の書き込みの多くが消されているのは、この辺りの訴訟絡みって事よね……)
ユーザー側でマジホリのソースを解析し、その情報をやり取りする行為は合法ではない。
だが、そんなMOD開発者達の協力のお陰で、致命的な不具合も全て修正し終え、マジホリは無事「法的に問題のない」状態に生まれ変わる事が出来た。
出来たのだが……
そのために費やした時間と費用は大きく、訴訟の和解金もその上に大きくのしかかり、フリゲート社の命運はそこで潰えてしまった。
元々がパッケージ代金のみで月額課金の必要無い形態であり、一定数を売り終えた今、大きな収入は見込めない。
おまけにソースコード自体を公開し、好きにバージョンアップできる状態にしてしまった今、拡張パックの必要も無く、プレイヤーは好き勝手に追加キャラ、追加ボス、追加MAPを自作して楽しんでいる。
無理に無理を重ねてどうにか完成させた「修復版」マジホリ自体も、これ以上手を入れるのが難しい状態だ。
これ以上何かを追加しようとすればどこかが破綻してしまいそうだったし、どこをどう弄ればいいのかは、その部分を修正したプレイヤー自身に聞かなければならないという窮状。
当初のメイン開発スタッフは他社に引き抜かれていて、破綻寸前のフリゲート・ゲームス社には、既に五名の社員しか残っていなかった。
マジホリはついにその全てを他社に売り払う事となる。
その後7年間ほど、権利を買い取った後継企業が細々とパッケージ販売を行ったが、それもひっそりと終了。
公式サーバーそのものが消滅し、オンラインプレイはユーザーの設置したサーバーに頼る他無くなってしまった。
もう、新品のマジホリを購入する手段は無い。
それでも尚、熱心なプレイヤーやMOD開発者はマジホリをプレイし続けており、さらなるMOD開発の自由度のため、権利を持つ後継企業に「ソースの全面公開」を求めた。
この公開依頼には熱心なマニアによる寄付金も付随していたため、企業側はこれを快諾。
マジホリのフルソースがネット上に公開される事となる。
ディープホール・トゥ・ヘルの開発が始まったのは、そこからだ。
難易度選択、エリア解放フラグ管理、セーブデータ管理等のシステム処理が明らかになり、その仕組を利用した大型追加ダンジョンの構想が持ち上がり、RS開発チームはその完成に熱中していった。
(虚無が産まれたのは、ここから先)
キツネは、その点に関しては確信している。
プレイヤーキャラのデータ抹消や、階段の消滅なんかは、そういったシステムの根幹を触れるようになった後でしか生まれ得ない。
追加ボスデータとして出現しているという事は、「本当のマジホリ開発者」が関与した訳ではなく、RS独自の物であると言い切れる。
あるいは、別のMODを作っていた人間が関与した可能性も無くはないが、その場合も、RSのサーバーに直接関与出来る立場の人間に限られる。
その内部、あるいは外部の誰が、虚無という無茶苦茶な存在をRSに仕込んだのか。
それを突き止めるのがキツネの最終目的だ。
そのために、「今、どこの誰がMODサーバーを管理しているのか」を調べる必要がある。
そのために、片翼の天使の持つメーリングリストが必要なのだ。
(彼でダメなら、残るはただ一人……)
キツネとしてもそれだけは避けたいのだが、今の状況と、これから先の状況を考えれば、最後の手段に頼る必要もあるだろう。
どうすれば危険を回避しつつ情報を得られるか、そこに頭を使わなければならない。
まずは、片翼との連絡手段を考えなければ……
状況整理&謎の提示回です。




