43:ムーンナイト・グレイファントム
コウヤがプレゼント選びに頭を悩ませていたその頃、コウヤの父は絶体絶命の危機に陥っていた。
43:ムーンナイト・グレイファントム
「うーん…… 女子つったら、やっぱ……こういうの?」
コウヤが玩具売場で手にしたのは、プリティムーン・フレッシュⅤスターズ、DXフレッシュスターミラキュアパクト。
光って回って喋ってメロディが流れる上、液晶画面を備えて様々なミニゲームで遊べる5800円の番組マストアイテムだ。
これなら鉄板だろう。ユウイだって……
(いや……)
ユウイだぞ。ユウイへのプレゼントなんだ。
プリムンで喜ぶ年かどうか微妙にも思うし、何より……
(これはこれで小さい子にはいいんだろうけど……)
ユウイは、マジホリを喜んで遊べてしまう女の子だ。
ガッチガチに渋い、おどろおどろしくグロくてマッチョなRPGを遊んでいる女の子だ。
それがいくら兄達の付き合いで遊んでいるにせよ、既に本格派にハマりだしている以上、「こういうミニゲーム」はもう喜ばないのではないか、と…… そう思えた。
「うーん…… 難しいな」
「よく考えて決めなさいよ」
母に付き添われてのプレゼント選びとは言え、女児向け玩具のコーナーであれこれ悩んでいるのはいかにも気恥ずかしい。
さっさと決めて立ち去りたいところだが……
「なあ、やっぱり母ちゃんが決めてくれた方がいいんじゃないか? どういうの喜ぶかも分かるだろ?」
「こういうのは、あんたが選ぶ事に意味があるの。母さんが選んだら、母さんからのプレゼントになっちゃうでしょ? お金だって私が出すんだから」
「うーん、確かに……」
そもそも、いいかげんマジホリ会に引きずり込んでしまっている上に、更に別のゲームや玩具を渡してしまっていいものか、という気もする。
ゲームソフトが増えるとウチのかーちゃんも「また増えた」「遊ぶことばっか考えて」と嫌そうにするではないか。
何か、もっと無難で確実な、喜んで貰える物が何か他に無いものか……
(ユウイが喜ぶ物……)
ユウイの笑顔を思い出す。
ネコミミを付けて、本当に嬉しそうにしている、あの姿……
やっぱり、ユウイには可愛いのがいい。あんなに可愛いんだから。
「リボン……とか、どうかな?」
「あら、いいんじゃない?」
コウヤは母と共にアクセサリー売り場に行き、派手すぎず、普段使いがしやすい物の中から、少し豪華に感じられる物を3つほど選んで購入。
プレゼント用の包装を頼み、目的を達成した。
一方その頃、コウヤ宅では、父が絶対絶命の危機を迎えていた。
:ツバサ
:それで……何の用でしょうか?
:キツネっち
:ちょっと、情報が欲しくてね
:そちらさんでしか手に入らない、マジホリ情報
:ツバサ
:察するに、虚無絡みですね
:キツネっち
:当然
:ツバサ
:と、言いましても、私はグラフィックを提供しただけで、内部事情は何も知りませんよ
:キツネっち
:黒き影の夜想曲と書いてミッドナイトレクイエムと読んでも?
しばしの沈黙。
コウヤの父の忍耐が試される試練の時だ。
:ツバサ
:ええ、本当に、私は関わっていません 何も情報は持って無いんですよ
:キツネっち
:そう……
:じゃあ、貴方が私に提供出来るのは、開発者メーリングリストのログだけね
:ツバサ
:それは流石に、個人情報保護の観点からどうかと思いますが……
:開発参加条件にも反しますし……
:キツネっち
:本当に? それでいいの?
再び沈黙の時。
絶望的なまでに無力な、冷酷な死刑宣告を前にした哀れな生贄。
:キツネっち
:アルバム第二弾、月光に耽ける灰色の侵略者
:息子さんにプレゼントしてみてはいかがですかね?
震える指。食いしばられた歯。コウヤの父はソファを殴りながら、苦悶の声を上げる。
だめだ。叫んではダメだ。
家にはまだマヤがいる。
悟られてはいけない。
万が一、こんな画面を見られでもしたら、勘のいいあの子は……!!
:ツバサ
:ダメだ
:キツネっち
:あら? ほんと?
:ツバサ
:これは君が考えている以上によろしくない事なんだ
:ここでは不十分だ
:キツネっち
:あらまぁ…… そんなに?
:ツバサ
:そんなに、だ
:後は君が考えてくれ
:キツネっち
:分かったわ
:ではまた後日、という事で
:ツバサ
:ああ
チャットを閉じると、キツネは深く溜め息をついた。
(思ったより大事っぽいわね…… これは)
あれだけの黒歴史を家族に知られる危険と天秤に掛けながら、それでも途中までは耐える姿勢を見せた。
しかも、外部の人間が決して見ることの出来ないMisscode内ですら話すのを躊躇うという程の事。
それ程に「よろしくない」事であり、Misscodeという会社に記録が残る事ですら安全性が「不十分」で、手段の立案をこちらに「考えてくれ」と言う程の、それほどまでの事……
キツネは直感した。
これには、訴訟が絡んでいる、と。
「なーんか、少しだけ、見えてきたかも……」
キツネの頭の中にあるピースの幾つかが、カチカチと綺麗にハマッていった。
まだ自信は無いし、早とちりの可能性も大きい。
それでも、一歩前進した実感はあった。
「さーて、こうなるとますますムラマサちゃんじゃ手に負えないよねぇ……」
キツネは心底楽しそうな、品のない笑顔で計画を練り始める。
キツネはハッカーではありません。ただ情報を集めるのが上手いだけです。




