40:労力と成果
コウヤ達はアクト7に突入。一方、ムラマサ達は何の打開策も見いだせずにいた。
40:労力と成果
アクト7、そこは地獄の底を越えた更に先、暗闇の中で結晶化したマグマが明滅する、畏怖と美の混在する宮殿。
暗い紫の鉱石で建てられた石壁がそびえ立つその先に、魔王バルエンが待っている。
『綺麗~』
『こっからは敵の数は少ないけど、一体一体が強いから気を付けた方がいいぜ』
『恐竜はコウヤ以外避けた方が無難』
登場するモンスターは原始生物をモチーフにした物が多く、ティラノサウルス似のドラゴンや、巨大ワニ、原始トンボ、溶岩の中から現れる単細胞生物、と、ヤケクソのようなデタラメな取り合わせのモンスターが次々襲いかかる。
今までが徹底してファンタジー系モンスターばかりだった分、この異質さは際立つ。
アクト7の道中はそう長くない。今日はこのまま「星の真央」のポータルを確保して終わり、明日には魔王討伐が出来るだろう。
ノーマルクリアまで、あと僅かだ。
ムラマサ達は無理をせず、虚無足止め作戦を早めに切り上げて来た。
眠気や精神的疲労、退屈感からくる凡ミス等、踏ん張りすぎるとロクな事にはならない。
幸い、今の所まだ犠牲者は出ていないが、油断から危うく死にかけた場面は二度あった。
やはり、これは毎日繰り返すべきではないのか。
虚無は187階に到達。
確実に遅滞攻撃は効果を出しているはずだが、やはりその労力に見合っているかどうかは疑問を感じる。
今は、三層攻略組が参戦してくれると信じて、ひたすら時間を稼ぐしかない。
掲示板を見る限り、何人かは頑張って育成に励んでくれているようだが……
(キツネさん、手間取ってるのか、ただ忙しいだけか……)
ムラマサは、リアルから手を回しているはずのキツネの事が心配になってきた。
返信も少なく、調査が進展したような話も無い。
ストーカーを自認する彼女の事だ。どんな手を使うか分かったもんじゃない。
過去のスパム荒らしのように警察の世話になるような結末は勘弁して欲しいものだ。
なにせ、かつて訴訟合戦で揉めに揉めた件が絡んでいる。踏み込みすぎて厄介な事にならなければいいが。
キツネがいるだけで、強力な召喚デコイと、強ザコの一撃必殺とで、戦闘の安定感が全く違ってくる。
早く戻ってきて欲しい所だが……
(戻ってきても、打つ手がなきゃな……)
未だに虚無の攻略方法は見つかっていない。
総力戦が出来る時が来るまで、今は我慢の時なのだろう。
それにしても、打開策が本当に存在するのかどうかすら分からないというこの焦燥感……
自分だけでなく、皆相当まいって来ているのではないか。
「このままじゃ、マズいよな……」
疲れもあるが、飽きの方がもっと怖い。
仲間の引退はロストに勝るとも劣らない恐怖だ。
(あんたが戻ってきてくれたら……)
ランキング一位、レベル892の天使使い、「超Z」。
彼の最終ログインは約三年ほど前。長期間未ログインでキャラデータが消されているかどうか、微妙な線だ。
元々掲示板に姿を現す事も無い、ストイックなシングルプレイヤーだっただけに、誰も彼の消息は知らない。
いや……
考えてみれば、カベとキツネ以外、殆どのプレイヤーに関しても同じではないか。
オンラインゲーム上の関係など、ログが無くなってしまえば痕跡すらも残さず消滅してしまう。
ブッチーの事も、山田マンの事も、俺は何一つ知らない。
今までは、それでいいと思っていた。
それがいいと思っていた。
普通にゲームを遊ぶだけなら、確かにそれだけでいいはずだ。
たかがゲームで相手のリアルまで心配する事など無い。
相手だってそんな「濃い」関係は望んじゃいない。
だが、カベからもキツネからも音沙汰が無いこの現状は何だ。
ただ単に、「メールが来ない」というだけの事に、ムラマサの精神は確実に疲弊していた。
(馬鹿馬鹿しい…… いい年をした大人が!)
自嘲して、ムラマサは不安を振り払う。
まずはマジホリから頭を切り替えて仕事を片付けるのが先だ。一番の不安はそっちなのだから。
「おっ、ユニークじゃん、ラッキー」
クラガは引き当てた幸運にほくそ笑む。
ベリーハードの次はインフェルノ。ここでトレハンするのは損にはならないと見て、しつこくナートホープ狩りを繰り返していたのだが、アイテム等級で上から二番目、茶色片手剣「魔物殺しの聖剣」をドロップ。
アイテムレベルとしてはそう高くもないが、現時点で最上級の武器と言って間違いない。
「やっぱ俺才能あんじゃね?」
ジャンクフードを食い散らかしながら、黙々と一人自室でハクスラを続けるクラガ。その自信は、既に慢心の域を越えつつあった。
運を引き寄せるのは、試行回数である。
その回数を試す「狩場」をどこにするのか、どう狩るか、そういったセンスは確かにある。
無駄な拘りを捨て、先人達の書き残した攻略情報にしっかり従い、効率を優先。
判断に迷うスキル取得は後回しにしてポイントを温存。自己分析が進んで確信を得てから決断。
学校の勉強ではついぞ見られない勤勉さと判断力で、クラガは暗黒騎士を鍛え上げていく。
(コイツはいい。ハマるぜ)
ちょっとしたストレスですぐに飽きて投げ出す性分のクラガが、マジホリには本気で取り組むようになっていた。
それは、長い長い時間を掛けてバランス調整が続けられたRSMODのお陰でもある。
このゲームに、理不尽な死や、努力を裏切る要素は無い。
プレイヤーが考え、実行した努力に対し、必ず結果が付いてくる。
どのキャラ、どのスキルにも何かしらの存在意義がある。
後は、自分のしたい事に合わせて、キャラを選び、スキルを選び、装備を更新していくだけ……
クラガは、効率という一点に置いて、そのプレイセンスを磨き抜きつつあった。
その判断と試行回数の結果としての幸運。
これはただのラッキーではなく、努力の成果である。
フレーバーテキストを読むと、天使軍の標準装備の剣と分かる……とか、そういった背景設定が感じられるユニーク武器が好きです。




