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37:ささやかな計画

虚無調査隊は長い足止め作戦を終え、撤退したのだが……

37:ささやかな計画



金曜夜が明け、土曜午前、用意したポーションを使い切った後、虚無調査隊は解散した。

188階から先には進ませず、確実に虚無の進行を遅らせたという実感はあった。

あったのだが……


『これ、流石に無理じゃね?』


『毎日は無理ですよね』


『正直指痛い』


疲労困憊の様子で彼らはロビーチャットでダベっていた。


ただ単にスキルを連打するだけならまだいいが、散発的に出現するザコの対処もしなければならず、虚無によって前方への移動も封じられている。

この状態で何時間も延々退屈な作業を続けるのは、プレイヤーへのストレスがあまりに大きすぎた。


『ブッチーさん、BOTとか使えません?これ』


『BOTは禁止事項だから扱ってねーよ』


軍団長ゴリがブッチーに尋ねる。

禁止されていない事ならどんな手も使う、という事で有名なブッチーだが、禁止事項である「外部ツールの利用」はしていない。


『でもまあ、こりゃツールでも使わねーとやってらんねーのは確かだな』


護衛とポーション運搬だけでもウンザリしてくる作業だ。召喚連打役がどれだけキツいかは想像に難くない。

やろうと思えば、スキル連打、ポーション回収、たまに後方移動、というルーチンワークを登録し、操作を自動処理させる事は可能だろう。


『ここまで来ると、どこまでフェアプレイを続けるべきか…… そこは同感』


珍しくムラマサもブッチーに同意する。カベが今ここにいたら、生真面目に反論したのだろうが。


『とりあえず、偵察に出る時は召喚キャラ一体連れて行って、出来る範囲で時間稼ぎをしましょう』


『サブにネクロいるけど、使い捨て出来ないからなぁ……』


『ドル、テイマー、ニンジャ、あと何かいたっけ?』


『天使と悪魔』


『あー、いたなー』


メンバーは手持ちの中に使えるキャラクターは残っていないかと相談を始める。


『それもいいが、当初の作戦も忘れないでくれよ』


そこにムラマサが割って入る。


『エンチャンターか…… 今から育てるのはなぁ』


パラディン使いの一閃はレベル342の付与術士(エンチャンター)を持っているが、今から第四層に来られる程に育て上げるのは難しい。

エンチャンターの対個人強化能力があれば、火力一点特化で倒すという、「火力が足りないだけ」説の検証を行う事が出来るのだが、武器強化スキルの方はともかく、他人を強化する事しかできないマンブースト系スキルにポイントを振っているプレイヤーは少ない。

当然、それが四層に来られる程の歴戦のプレイヤーに限定されるとなると、絶無である。


『まずは16人集めるのが先ですね。なんなら、それより少なくても』


2つのパーティーで同時に潜った際、虚無はどちらにも現れるのかどうか……

山田マンはこの検証の方を優先していて、広く挑戦者を募ってもいた。

そもそものプレイ人口が少なすぎるため、それがなかなか集まらないのだが。






土曜日昼のプレイは、数日ぶりにコウヤ宅に集まってのマジホリ会となった。

月曜に誕生日を控えているユウイはいつも以上にテンションが高く、はしゃぎすぎて兄に叱られたりもしていた。


「はい、ユイちゃん。お誕生日にはちょっと早いけど、私からのプレゼント先に渡しちゃうね」


「えっ!? なになに! うれしー!」


早速マヤから手渡された箱の包み紙を遠慮なくバリバリと破って開けるユウイ。

出てきたのは、ネコミミ付きヘッドセットであった。


「わー!! かわいー!! 何これー!」


ヘッドホンにマイクを取り付けた物で、卓上のマイクを使わず、ゲームをプレイしながら会話が出来る便利アイテムだ。


「ほぉ…… ヘッドセットですか。ボイスチャットを?」


「ん」


マヤはユウリに小さく相槌を打ちながら、別途用意していた荷物を取りだす。


「はい、あんた達にはこっち」


「あら、私達にも?」


(よかった……耳はついてないですね……)


ユウイに渡した物よりはやや小ぶりな、シンプルなヘッドセットだ。

コウヤ赤、ユウリ青、カナリ白、マヤ緑、とお揃いの色違い。

子供でも使いやすいように大きく伸縮するタイプだった。


「どう?似合う?」


(うっ…… かわいい……)


早速頭に取り付けて満面の笑顔を見せるユウイ。

大人でも使えるサイズのヘッドセットなので、ネコミミがやたらと大きく見える。


「フフフ、コウヤくん。正直な感想を述べてください?」


我が意を得たりとばかりにコウヤの動揺を見抜き、返事を促すユウリ。


「うん、めっちゃ似合う。超かわいい!」


「えへへへへへへへ! えへへーーーー!!」


大喜びでピョンピョン飛び跳ねるユウイ。

物怖じせず正直に物を言えてしまうのがコウヤの良い所だ。

時にはそれが裏目に出る事もあるのだが。


「いいのですか? 四人分も、結構なお値段なのでは……」


「ユイちゃんのはそこそこいいヤツだけど、私達のは安物だから気にしないで。

ま、ネタバレすると個人情報対策だって言ってママに買ってもらったんだけど」


「えー 姉ちゃんそれズルくね?」


「ユイちゃんの分は私が出したの。ズルくない」


自分の小遣いでどうやってプレゼント選びをするか悩んでいたコウヤからすれば、余計に困る展開である。

マヤが結構な値段がしそうなヘッドホン?をプレゼントしたからには、自分がつまらない安物でどうにかする訳にいかなくなった。


「……ヘッドセットでボイスチャット、ですよね。

つまり、ゲーム内で色々会話するのはやめておこう、と」


マヤの意図を察し、ユウリが尋ねる。


「誰かさんはすぐにボロを出すワケですし、確かに必要かもしれませんわね。

では、とりあえずお借りする、という事で、有り難く受け取らせて頂きますわ」


カナリも同意し、ヘッドセットを取り付ける。


(こっちも似合うじゃん……)


コウヤはヒーロー物やロボットアニメに出てくる基地のオペレーターを連想していた。


「じゃ、使い方教えるから。パソコン起動して」


「はーい!」


コウヤまでヘッドセットを装着し始め、まだ付けなくていいんだけどな、と思いながらも、マヤはボイチャ講習を始めた。





作者個人はボイチャ経験がほぼ無いので、これから変な描写になる事もあるかもしれません。

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