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35:それぞれの奮戦

虚無調査隊がフルメンバーで出発する一方、コウヤ達はアクト6に挑む。

35:それぞれの奮戦




アクト6は、バラート王国の国名ともなっているバラート山の頂上へと上り、雪積もる山頂に在る遺跡の入り口から山の内部へと入って、延々地下へと続くダンジョンを降り、地の底に辿り着いてボス戦、という流れになっている。

この延々下へと降っていくMAP構成が、例の「インフェルノダンジョン」の原点だ。

このパートをコピー改変して四層・全200階の長丁場へと作り変えて実装したはいいが、この部分にリソースを割きすぎてしまったがため、MOD開発がそこで燃え尽きてしまったとも言われている。

その本来の形である、アクト6後半「真央への道」も、全20階と決して短くはないし、山頂へと登っていく前半MAPもかなり長い。


かつては多くのプレイヤーがここでソーサラーの瞬間転移(ブリンク)の助けを借り、「仲間にポータルを確保してきてもらう」という道中短縮を行った。

が、今はプレイヤーの数も激減し、なかなかネットを介して他人に引率を頼める状況では無くなっている。

テレポート系スキルを持たないキャラクターにとっての必須アイテム「ジグラットの聖印」が手に入るのは、一番早くても難易度ハード後半辺りになるので、誰かから貰うかトレードでもしない限り、ここで一度は苦労しなければならない。

とは言え、長い道中を苦労して辿り付くという登山らしさと、最後の決戦に向かって地の底に降りていくクライマックス感とで、プレイヤー受けが悪い訳ではない。

登山も、地底行きも、特定のルートをテレポートで駆け抜ければ素早く無傷で終える事も出来るが、好んで自力攻略を行う者も多い。

RSMOD開発者も、一度は長旅を味わって欲しいと思って、ここを改変しなかった。


が、しかし、いかんせんコウヤ達の「全員一緒に」というプレイスタイルとの相性は最悪だ。


山岳地帯の地形を無視して襲いかかるハーピーや、足元の雪から突然生えてくるアイスゴーレム、素早く距離を詰めてくるスノーウルフなど、高速進行を阻む要素だらけ。

激しい戦闘が続くため、いつにも増して会話する余裕が無い。


それでも、コウヤ達は退屈していた訳ではなかった。

敵が次々湧いて出るという事は経験値稼ぎに最適という事でもあるし、戦利品もどっさり溜まる。

手荷物整理の必要が出てきた仲間は適宜ポータルを開いて町に戻り、最前線の仲間の元へとまた戻る。

ローテーションを組むようにして前線を切り開き、休み、また戻る……この行程はいかにも一致団結の冒険感があり、ただ長いだけの単調な道行きとはならなかった。

問題は、時間が掛かりすぎるという一点に絞られる。


もうとっくに九時を回り、親と約束したゲーム時間を過ぎている。山頂の遺跡に辿り着いた所で本日のプレイを切り上げる事になった。

直後に中ボス戦もあるのだが、続きはまた明日にする。

明日は土曜で学校も早く終る。オンラインプレイを昼~夕方と夜の二回に分け、アクト6を終わらせてしまう予定だ。




そして、プレイを終えた後、マヤは一人深刻な表情で眉をしかめる。


会話が消え、和気あいあいとしたゲーム会とは程遠くなってしまった事は残念だが、ゲーム自体は楽しい。やり甲斐もある。

そこはいい。解決策も用意してある。


問題は、あのSOUKO1とか言う、気持ち悪いプレゼント魔の存在だ。

マヤの不信感は、今回で決定的になった。


(あいつ、どうして私達が5人になった事を知っていた……?)


実害があるのか無いのかは分からないが、監視されているのは間違いない事で、極めて不快だ。

どこでどうやって見張ってるのかは分からないが、しばらく無言プレイが続きそうなのはかえって良かったのかもしれない。

見られている場で警戒を呼び掛けるのも怖さがあったため、プレイ中には黙っておいたが……


「コウヤ、入るよ」


オンラインゲームの怖さは人間にあって、オンラインゲームの楽しさもまた人間にある。

コウヤにもそろそろ人間は怖いものだと分かって欲しい。

弟の部屋をノックし、声を掛ける。

こうして現実世界で話をする分にはアイツが何をどう見張ろうと関係無い。

ロビーで迂闊な発言をしないように改めて注意しておこう。

人間は怖いものだが、信頼の出来る仲間と一緒ならオンラインゲームも最高だ。

自分がその仲間の一員なのかどうかは微妙な所だが、弟にはその最高の楽しさの中にいてほしいものだ。







『じゃ、報告忘れずに、手順通りたのんます』


『分かってますって! 行きますよー』


175階のボスを倒し、そろそろ警戒が必要な階。虚無調査隊の八名は、慎重に事前の打ち合わせ通りの手順で階段を降りていく。


今回は明らかにレベルの足りないメンバーを二名引率しているので、彼ら二人が交代で先陣を切って偵察に降りる事になっている。

これを申し出て来たのは、その二名自身。

これ以上、ムラマサ、ブッチー、一閃のような前衛陣がロストするような事になれば、調査隊を組む事自体が難しくなる。ランカー勢も已む無くこれを認めた。


『OK!』


偵察に降りたのはニンジャ♂、つらぬき丸。

合図を受け、前衛ランカー三名が階段を降りると、つらぬき丸は早速敵に囲まれ、式神召喚を連打して凌いでいる所だった。

ムラマサが「雷鳴剣」を発動し、周囲のモンスターを即時スタン状態にし、ブッチーと一閃が体当たりスキルで吹き飛ばし、安全地帯を確保。

そこに残る四名も降りてきて、階段周辺を制圧していく。


サムライとパラディンが前衛として進路を確保。傀儡師のゴーレムがこれに続く。前衛が敵群を押し留めている間にソーサラーとアーチャーが火力を叩き込み、範囲殲滅。後衛に留まるビーストテイマーとニンジャはマナポーション温存のため召喚を使わずに最小限の援護に留め、ウォリアーは吹き飛ばしスキルを使って後衛の護衛に務める。

特に、召喚連打専用キャラとも言える魔獣使い(テイマー)♂、軍団長ゴリは一切の召喚を封印し、虚無戦に備える。

以前は各プレイヤーが普通に出来ていた連携も、すっかり過疎ってシングルプレイがメインとなった今のマジホリRSではなかなか上手くいかない。

昔からの経験者も、どうすればいいのか分かってはいても、難易度の高さから自分中心のプレイになりがちだった。


ムラマサは適宜絶妙なタイミングで「武士の名乗り」を発動して自分に攻撃を集め、集まってきた敵を「雷鳴剣」で次々麻痺させる。

集団が麻痺した所で、ザコは後衛の範囲攻撃が片付け、硬い敵は刀スキルで切り捨てる。

現役最強は伊達ではなく、その威力はまさに一撃必殺。ボス以外の敵は「居合い」一発で仕留められていく。


(やはり、あいつがいると場が締まる……)


今回は後衛の護衛に回っているブッチーも、彼の実力は認めざるを得ない。

単身で最下層を目指す事のみを目指した自分達のようなキャラクタービルドでは、スキルの1ポイントたりとも支援専用スキルには回していない。

一人プレイでは元々全ての敵が自分に向かってくるのだから、一閃も「騎士の挟持」を所得していないし、自分も「狂戦士の挑戦」を取得していない。

八人プレイが当たり前だった頃から続けている連中はやはり連携力が高く、判断も素早い。


『ムラマサさん流石っすわ』


『すげぇぇぇぇぇ はえぇぇぇぇぇ』


そんなランカー勢の獅子奮迅の戦いぶりに、引率されているつらぬき丸と軍団長ゴリはただただ圧倒されるばかりだった。

終わりの無いレベル上げに感覚が麻痺していたが、やはり500レベルと700レベルの実力差は凄まじい。

インフェルノをクリアし、第三層を突破してきた猛者であるはずの自分達が、完全にお荷物になっている。


(今回もやっぱりダメか……)


そんなオーバーキル気味の高速殲滅を繰り返しながらも、ムラマサは自身の叩き出す居合ダメージの数値に落胆していた。

支援が万全なら、この倍以上は出る。

一か八かの賭けに出るなら、ベストメンバーでなければ駄目だ。

カベがいないのが悔やまれる。 あいつの「勇猛の加護」があれば……



スキルの振り直しは出来ないようにした方が作劇上都合がいいかな……

どうしよう。リスクが高すぎて誰も振り直しをしたがらない、とかにすべきか。

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