34:影
虚無を目指す者達がそれぞれの準備を始める中、コウヤ達はマイペースのプレイを続けていたが……
34:影
「なんだコレ、超ヌりぃじゃん…… こんなモンで盛り上がってるとかダセぇな」
アクト7ボス、大魔王バルエン撃破。
クラガは昨日のうちに違法UPされたマジホリをインストールし、RSも導入。今日帰宅してからずっとプレイを続け、一日でノーマルをクリアしていた。
基本的に、集中してプレイすればこれくらいは当たり前なのだが、クラガはこれを自分の技量と勘違いしていた。
事前に効率のいいレベル上げの方法を調べてから開始し、余計な寄り道をしなかったのも早さにつながった。
しかし、目標の虚無に辿り着くには、これをあと三周し、まずは難易度インフェルノにたどり着かなければならない。
いくら単純なクラガでも、これから順を追って難しくなっていくであろう事は理解している。
「よっしゃ、明日はハードクリアだ。見てやがれ……」
もう既に日付けも変わろうかという深夜。クラガは食い散らかしたおにぎりや弁当の包装もそのままに、布団に転がり込んで眠った。
山田マン達は、苦闘の末、最低限の偵察のみで帰還。
虚無は189階に到達。同階の下り階段は無く、ついに最下層と呼ばれる190階台への到達が不可能となった。
観光気分の半端なプレイヤー達から犠牲者が出なかった事だけが不幸中の幸いだったが、虚無の進行具合以外の情報は何一つ持って帰れなかった。
次第に階を上がって来るためいずれ楽になっていくとは言え、現時点ではやはりトップランカーの力と、その実戦経験が必要な状況だった。
スレッドはこの不甲斐ない状況に苛立ちつつも、見守る事しか出来ないプレイヤー達は、クラガ同様、「それならいずれ俺達の出番が」と、内心ホッとしながら事態の推移に注視していた。
812 山田マン ****/**/**(金) 17:42:11.72
今日はどうしますか? 案が無ければ召喚連打による足止めをしたいのですが
813 ∨キャヴァリアー ****/**/**(金) 17:45:23.51
先日は足手まといになってしまい、申し訳ありませんでした
今回は遠慮しておきます
814 ムラマサ ****/**/**(金) 17:52:55.98
召喚では役に立てないが、護衛は任せてほしい
今日は間に合えば参加するつもり
815 人形姫 ****/**/**(金) 18:04:12.38
数が頼みとなると、ドール系はあまり役に立ちそうも無いですね
枠に空きがあれば行きます
816 観客A ****/**/**(金) 18:06:18.46
ムラマサキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
よっ 待ってました!
金曜夜、虚無との最初の遭遇から一週間以上が経過。目標は189階。
本日の調査隊は、
ムラマサ :侍 レベル789
ブッチー :戦士 レベル751
マジメイジ:魔術師 レベル738
山田マン :射手 レベル712
人形姫 :傀儡師 レベル703
一閃 :聖騎士 レベル698
つらぬき丸:忍者 レベル512
軍団長ゴリ:魔獣使い レベル497
以上の八名となった。
一方で、コウヤ達は定時のマジホリ回でアクト6攻略を開始すべく、ロビーの町で五人集まるのを待っていたのだが……
『今日はあの人も暇じゃ無かったみたいね』
地面に五人分のクラフト素材と資金が置かれている。
おそらくは、今回も倉庫さんの仕業だろう。
『まあ、これくらいなら受け取っていてもいいんじゃないでしょうか?』
『くれるって言うならもらっちゃおうよー!』
『こういうのが続くと自力でクリアって気持ちにならないんだけどなぁ…… まあ、いっか』
『ありがたいけど、不気味なのよね』
何だかんだと言いながらも、有り難く受け取る事にする四人。
善意なのは分かるが、やはりなんとも言い難い気味悪さはある。
『私が最後でしたか。お待たせしてしまいましたか?』
そこにカナリが到着。
『カナリアはこれ初めてだよな。プレゼントがあるぜ』
『????』
コウヤの発言の意味が分からず、混乱するカナリ。
まさか、プレゼント選びに迷った挙げ句、これを……!? と、そう勘違いしかけていた。
それに加えて、コウヤが「委員長」ではなく、カナリアと呼んできた事にも動揺している。
『何私達が用意したみたいに言ってるのよ。
匿名の誰かさんがちょくちょく育成応援とか言って置いてくの』
『何よそれ気持ち悪い』
『でしょ?』
『あと、いきなりカナリア呼びって、何?』
『いやー、委員長って言うのも個人情報だろ? ネットじゃマズいかなって』
『ああ、それで…… ってまた言ってるわよ』
『あっ いけね』
ならまず本名をキャラクター名に使うのをやめたらどうだと思うカナリだったが、自分も他人の事は言えない。
コウヤ KOUYA_DX
マヤ YA_MA
ユウイ -YUI-+(>o<)+-YUI-
ユウリ SHADOU_MARU
カナリ CANARIA
つまりは、マヤはヤマさんで、ユウイはユイユイ、ユウリは……ええと、影丸……カゲでいいか。
これからは自分も気をつけておこう。
操作で慌ただしく、会話する暇もあまり無いこのゲームでは互いに名前を呼ぶ事も滅多に無いが、気をつけるに越した事はない。
『分かりました。私も今後気を付ける事にしますね、ヤマさん、カゲさん、ユイさん、コ・ウ・ヤ・くん!』
『なんだよ、よくある名前だからいいじゃんか』
『ほーらまた個人情報! 気を付けなさい!』
『あー! あー!』
なんだかんだと騒ぎながら、カナリもプレゼントを回収し、五人はポータルを通ってアクト6に出発する。
そして……
「そうそう、気を付けないとドコで誰が聞いてるか分からないんだから……」
作業の傍ら、マジホリを起動したままのPC画面を確認し、会話ログを拾う。
同じMAPにいれば、そこにいる人間の会話は全て自分の画面にも表示される。
MAPの片隅、建物の中、箱やタルの重なった場所の陰…… そういった場所にいれば、決して誰かがいるなんて思われない。
この頃のゲームでは同一エリアに何人いるかなんて分からないし、この過疎ゲーでは定員一杯になって頭数が一人足りないなんて気付かれるような事もない。
こうして立っているだけで、その日エリアに現れた人間全ての発言を回収出来る。
それがPC四台なら、4つのルーム全てで同じ事が可能となる。
流石に廃人達の集まる第四ルームだとバレる危険性が高い。だから、そもそも隠れなくていいようにする。
誰も怪しまない。
ゲーム内の会話は全て回収出来る。
犯人が迂闊な人間なら、いつか手がかりが拾えるだろう。
誰かさんのように、うっかり独り言を書き込んだりする事もあるかもしれない。
ないかも、しれない。
だが、出来る事は全てやる。
手は抜かない。
状況整理回 + 一つの伏線を進める回。
上手く脚本を調整出来るのか、自分……!




