33:心配事、悩み事
マヤは、弟がゲームに夢中になる一方、ユウイとの関係が希薄になっている事を心配していたのだが……
33:心配事、悩み事
「ちょっと、コウヤ」
「ん? 何、姉ちゃん」
「もう少ししたらユイちゃんの誕生日なの、忘れてない?」
「あっ……」
「あっ?」
「えーと…… うん、ごめん」
「私に謝られてもね」
「つっても、小遣いも無いしなぁ… かーちゃんに何か頼むかなぁ…」
「あの子が一番嬉しいのは、あんたと一緒に遊べる事なんだから、ちゃんと可愛がってやんなさい」
「うん。分かった……」
珍しく口数が多い上に、こっ恥ずかしい事を言う……
イモウトは俺にとっても妹のようなものだし、マジホリにばかり夢中で誕生日の事すら忘れていたのは、ウッカリにしても酷い。
優しくしてやんないと、あいつすぐ泣くからな…… と、何をプレゼントしてやれば喜ぶのか考えながらコウヤは登校の準備をする。
女子の好みなら姉ちゃんに聞くのがいいか、と思いつつも、ウチのねーちゃんは好みが偏ってるからなぁ……と思い直したりもする。
:キツネっち
:で、これは、意図的臭いかなって思うのよ
:ムラマサ
:やっぱりそう思いますか
一々メールでやり取りをするのは面倒なので、キツネとムラマサはチャットツール「Misscode」で鍵付きの部屋を作り、直接やり取りする事にした。
直接的な個人情報のやり取りは控えているが、どこかの掲示板上やソーシャルサービスよりは安全性が高いだろうという配慮だ。
:ムラマサ
:仮に意図的とすると、どうして消されたのかが問題ですよね
:キツネっち
:魚拓に削除申請を通せるとなると、一番有り得るのは、消す権利を持つ者
:つまりFrigate Gamesそのものって事になるけど……
フリゲートゲームス。マジカルホーリーストレングスを開発した、既に倒産済みのアメリカのゲーム会社だ。
マジホリそのものは大きく売れたが、ゲーム内容の一部が盗用であると裁判を起こされ、多額の和解金を支払ったのが大きく響き、その後ヒット作に恵まれなかった事から倒産に至っている。
:ムラマサ
:裁判絡みで、ソースコードに関係した記事を消して回っていた、とか?
:この徹底ぶりは、巡回自動処理も有り得ますが
:キツネっち
:私もそう思ってるけど、まだ判断は早いわ
:こうに違いない、と思っちゃうと、得てしてどこかで現実と乖離していくもの
:推論を立て、そこから確たる証拠を見つけてからが勝負なんだから
:ムラマサ
:そうっすね。虚無戦も同じで
ムラマサの感じる予感めいた不安も、一つの持論とするにはもっと材料が必要だ。
虚無という「倒せない敵」が、果たしてゲームのルールの範疇内で作られた物なのかどうか、というこの不安。ますます大きくなるばかりだ。
:キツネっち
:おばさん的にはカベ君が心配なんだけど、どうなの?
:ムラマサ
:相変わらず返事は無いっすね
:SmartsやMisscodeにはログインしてるみたいだから、ショックでどうにかなってる訳じゃないと思いますが
:キツネっち
:ちゃんとメール出し続けておきなさい。戻ってこなくてもいいから、引退してもしなくても返事が欲しいってね
:ムラマサ
:はい。もちろん!
:キツネっち
:個人情報掘りなんて不健全なゲームはこっちに任せて、ムラマサ君はそっちをしっかり見ててやって
:トップ三人がいなくなって山田のヤツも困ってるみたいだし
キツネは何かと山田マンに大して冷たい。面倒見のいいキツネさんにしては珍しい事だ。
個人間で何かあったのかもしれないが、そういった話には立ち入らないようにしている。
:ムラマサ
:と言っても、出来る事が無いのが辛いんですよね……
:キツネっち
:案外、実は効いてる説もアリかもしんないよ?
:ムラマサ
:生存報告がてら、今度また潜ってみます
:その前に溜まった仕事片付けなきゃですけど……
:キツネっち
:乙乙 ^^;
そうだ。そろそろこんな事にかまけてばかりもいられない。
やるべきをやってからにしなければ。
誰かが先に虚無を退治してくれるのなら、それはそれでいい。
このまま虚無が全てを飲み込んで終わり、なんてふざけた結末が来なければ、何だっていいさ……
「キャッ!」
「おいおい、大丈夫か?」
昼休み、生き物係の女子が転んでバケツの水をひっくり返してしまった。
丁度すぐ近くにいたコウヤは、声を掛けながら助け起こす。
「うっ…… グスッ…… ありがと……」
涙目で痛みを我慢しながら顔を起こすと、鼻血が出ている。
コウヤはその女子の頬に手を添えながら、ハンカチで血を拭く。
「えっ、あのっ…… そのっ……」
「委員長! ソノさん怪我してる!」
「まあ! 大丈夫ですか、ソノカさん!」
委員長は床にぶち撒けられたバケツの水を雑巾で拭き取り、その水をバケツに絞っている所だった。
人が嫌がる事でも、やるべき事なら黙って自分がやる性格で、こういう所もクラスメイトから尊敬される所以だった。
「保健室に行きましょう。付き添いましょうか?」
「ううん、大丈夫」
そう痛くもないようで、笑顔になって起き上がり、保健室へと歩き始め、心配した女子が二人ソノカに付き添っていく。
「コウヤくん、ハンカチ汚してごめんね」
「気にすんなって」
委員長は安心して雑巾がけに戻り、コウヤもそれを手伝う。
「ソノちゃん大丈夫?」
「手伝おうか?」
「雑巾!雑巾!」
ソノカやカナリの友人達も集まって手伝い始め、床拭きが終わると、コウヤは女子達に混じってバケツの水を替えに行った。
「いやー、コウヤってほんと天然だよなぁ」
「あれが素で出来るってすげぇわ。ズルいを通り越して尊敬する。俺には無理」
「無理無理。恥ずか死ぬ」
「女子慣れっての? 姉ちゃんがいるってのは強みだよなー」
普段こういった話を避けがちな男子達も、コウヤの天然紳士ぶりに舌を巻き、半ば呆れながらこれを見送る。
「ええ。困ったことに、コウヤは昔から、誰にでもああなんですよね……」
その友人達にユウリも相槌を打ち、深くため息をつく。
三人の友人と共に、カナリはコウヤを連れて水道場に向かっていた。
「貴方、ちょっと誰にでも優しくしすぎではなくて?」
「え? なんで? ダメかそれ?」
「まったく……これだから……!!」
人には距離感と言う物がある、と説明しよう振り返ると、コウヤの顔が至近距離にあったため、カナリはまた赤面して何も言えなくなり、心の中で苛烈かつ徹底的にコウヤを罵倒する。
「ところでさ、委員長。女子がプレゼントで欲しがるもんって何だろ?」
「えっ!? えっ!?」
いきなりの話題に、ますます混乱に陥るカナリ。
「なになに、コウヤくん誰かとデートぉ? んなワケないか」
「あ、カナリさんだったらファンタジー小説がいいと思うよー」
「ちげぇよ! ユウリの妹の誕生日!」
「「「なーんだ……」」」
カナリの友人達が勘違いして騒ぎ出し、慌ててコウヤが訂正すると、あからさまにガッカリする。
「だったら、カナリさん……」
「余計な事は言わない!」
口走りかけた友人を、慌ててカナリが遮る。
誕生日が近いからと言って自分からプレゼントをねだるなどという、そんな品の無い事はしてはいけない。
日時・時刻表記の再現を一々入れるのも手間なんで、Misscode上の会話はシンプルな表記で。




