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31:アクト5、オーバーチュア

魔王デアゴーンを倒したコウヤ達は、引き続きアクト5に取り掛かる。

31:アクト5、オーバーチュア



コウヤ達含むマジホリプレイヤー全員がもどかしい思いで見守る中、進展の無い状況が続き、虚無関連スレッドの書き込み頻度も減り始めていた。

そして、翌日、木曜日。



 名前:MMM2003

 件名:ムラマサです。虚無の件で相談があります。


(あら、ムラマサくんがメールしてくるなんて)


キツネは見覚えの無い相手だなとメールを削除しかけた所で、手を止める。


(なるほどね……)


個人的な話ではなくて安心するような、残念なような気もするが、自分を頼って来てくれたのは嬉しい。

変態ストーカー忍者の実力を見せつけねばなるまい。


しかし……


(このメンツ、微妙なのよね)


マジホリRSプレイヤーによるオフ回は、10年ほど前に一度行われたきり。

その時のメンツにRS開発メンバーは確かにいたが、開発の中心人物はいなかったはずだ。


「ま、やってみますか」


今日は別件で仕込みの予定があったのだが、虚無の方には特に新発見も無く、良い作戦も無い。

盤外の作戦を進めるのもいいだろう。





今日もコウヤとユウリは例のゲームの話題で盛り上がっているようだが、委員長の方は何か元気が無い様子。

女子達も心配しているが、喧嘩でもしたのなら面白い。


そんな根暗な考えでクラスの様子を眺めていたクラガは、机の下で手元を隠しながらスマホの画面を確認する。


(フン、粘りやがって)


三人と競り合って6000円以上も掛かってしまったが、無事マジホリ無印+拡張版のセットを落札できていた。


(見てろよ)


クラガは強い決心で、覚悟を決めていた。

「虚無」を倒すのは、俺だ! と……





そして、その日の夜。

コウヤ達はオンラインプレイでアクト5を開始する。


『突撃ー!』


奪われたバラート王国の秘宝を取り戻すべく、プレイヤーはNPCウォリアー軍団と共に出撃。

ムキムキマッチョのNPCウォリアーが大剣や両手斧を構えながらズンズン前進していくのが特徴のエリアで、魔王軍の激しい攻撃を引きつけてくれるのがありがたい。

MAP奥の高所には、敵軍の魔導砲兵が並び、次々と砲弾を遠方から撃ち、こちらの前進に合わせて範囲攻撃を落としてくる。

そう大した演出でもないのだが、「戦場にいる感」がよく出ていて、男心をくすぐってくれる。

コウヤはテンションを上げてどんどん突き進み、他の四名もこれに続く。


TPタウンポータル確保 一度戻る?』


『このままいこ』


所々で中ボスを倒しながら調子よく進行し、マヤが最初のポータルを確保。

戦利品の整理に一度町へ戻ろうかと尋ねるが、ユウイはコウヤの機嫌が良さそうなのを見て、進撃を続ける事を提案。

そして、コウヤもここで別行動に移らないかと提案。

このエリアでは、先は敵に捕らえられたウォリアー兵を解放してからでなければ一番奥の門が開かないため、手分けしてMAPを探索した方が効率的だった。

経験済みのコウヤとマヤだけでなく、他の三人も予習を欠かさなかったため、素早く各救出ポイントに辿り着き、檻を破壊していく。

捕虜を救出次第、他の仲間の所へテレポートし、次を探す。

瞬く間に全五ヶ所の檻を破壊し終え、一番奥にある門を開いて次へと進む。


そういった調子で、かなり速いペースでアクト5を攻略し、魔王軍本陣のボス戦へと辿り着いてしまう。


アクト5ボス シャドウ・オーバーチュア


ボス本体は獄吏タイプのザコモンスターを大型化して色変えしただけだが、引き連れている大型魔獣の軍団が厄介だ。

獄吏シャドウは、王国の秘宝である宝玉を魔獣に飲み込ませ、巨大魔獣ビヒモスをけしかけてくる。

ビヒモスは全身から炎を吹き出しながら襲いかかり、ノーマル難易度にしてはかなり高いダメージを与えてくるのだが、ここはコツがある。


『階段降りて!』


コウヤが指示を出し、各々安全地帯に身を隠す。

と、ビヒモスは大爆発を起こし、自滅する。

飲み込んだ宝玉の力に耐えきれなかったのだ。

爆炎は悪魔のような姿を取った後に消滅し、後には飛び散った魔獣の肉片のみが残る。


『反撃!』


素早く戻りつつ、マヤとユウイは消し飛ばされた召喚NPCの補充を行う。

ここではボスが画面奥の櫓の上に陣取り、安全地帯から鞭を慣らして大量の魔獣を突撃させて来る。

砦の門を破壊しなければ奥の櫓に辿り着く事ができないので、ここでは魔獣を殲滅しながら、同時に門を攻撃していくのが基本戦法となる。

だが、魔獣は倒される端から次々出現するため、なかなか扉を攻撃できず、その上、赤く点滅をするモンスターは接近戦で仕留めると自爆ダメージを喰らう事になる。

逃げ切る事のできない集団突撃と、壁を破壊してボスの場所までたどり着かなければならない仕掛けは厄介で、ソロプレイではどうしても時間が掛かってしまいがちなボス戦だ。

が、やはり予習をしてきた秀才児童三人の対応は素早く、敵が動かないのはかえって好都合とばかりに、ユウリ・ユウイの二人は的確に長距離狙撃を行い、溶岩を足元に噴出させる。

カナリは被害も顧みずポーションをガブ飲みしながら扉にダメージを与え続け、殆どの敵はコウヤが「聖騎士の挟持」を使って自分に引きつけている。

敵の自爆ダメージを一人で受け続けると流石にノーマルとは言え危ないのだが、とにかく敵が次々現れては死んでいく戦いなので、マヤのネクロにとっては理想的な環境。敵の死体から骸骨兵士を次々と召喚し、敵に対する壁として機能させていく。


『よし、終わり』


ユウリが一言を発し、ボスの体力が尽きる。と、ボス自身が赤く点滅し始める。

だがしかし、カナリの扉破壊よりも早くボスを仕留めたため、ボスは自身を守っていた扉に突進を阻まれ、一人で大爆発して果てる。

破壊が間に合わず、自身がボス戦に貢献できなかった事に憤るカナリだったが、それでも号令スキルの効果は大きく、コウヤは『いてくれるだけで大助かりだ』などと言って、余計に彼女の敵愾心を煽っていた。

ユウイの溶岩攻撃も大きかったが、やはり、ストイックに対ボス火力を上げ続けてきたユウリの遠距離火力に拠る所が最も大きい。

カナリは、改めてユウリの才能がこのゲームの中でも発揮されている事を感じ、これまた対抗心を燃やさざるを得ない状態となっていた。


『もう終わり?』


あっさりと終わってアクト6に進むポータルが出てきてしまった事に驚くユウイ。

拡張パックによって追加されたアクト5・6・7は今までと比べて各アクトが短く、拠点も王国の城下町一つだけで、各アクト共通となる。

一年も経たずに追加された超大型アップデートだけあって、この辺りは仕方のない所なのだろう。


ムービーデモも短めで、魔王軍の兵士がビヒモスの自爆の際に弾け飛んだ宝玉を回収する場面と、魔界の戦いに破れた天使軍が魔王軍の牢獄に捕らえられていく所が描かれるのみで、あっという間に終わってしまう。


集中プレイで夜の九時も回っていたため、五人はここで切り上げ、町に戻って戦利品の整理を行った後に解散する。




(これは、良くないわね)


プレイを終え、マヤは一人自室で考え込んでいた。

カナリの覚えが早く、適応能力が高すぎるがため、プレイがかなり単調になってきている。

ゲームの都合上仕方ないとは言え、チャット会話も必要最小限のみであり、せっかく女の子二人と遊んでいるというのに、まったく親密さが増していく様子がない。


ユウリに相談され、コウヤの気持ちがカナリに近付いていく事を警戒し、手も打ってきた。

オンライン経由で六人目を募集する事で自宅プレイを減らし、リアルでカナリとコウヤが接触する機会を減らそうという目論見で、新規勧誘スレッドも立てた。

適当な理由を作って、頻々とユウリと一緒に自宅に遊びに来る機会を増やそうという約束もした。


だが、新規の仲間は見つからなかったし、コウヤがマジホリにしか目を向けなくなったため、他の理由で遊びに来る機会も作れていない。

これではどうにもよろしくない。

カナリと仲良くなる事もないが、ユウイとの距離感もまた遠のいている気がする。


マヤは別にカナリが嫌いだという訳ではなかったが、彼女には何か不安な物を感じる。

上手く表現できないが、心のどこかに引っかかる、弟を遠ざけたくなるような何かが感じられた。

だから、出来ればユウリの願いに応えてあげたいと思っている。あんな可愛い子にお願いされたら、お姉さんとしては断れない所だ。


(まったく、面倒臭い…… 恋愛ってヤツは)


うんざりしながらも、なんとかしてやりたくなっている辺り、自分もこういう下世話な話が好きなんだろうな、と、マヤは自嘲する。





MMM2003はムラマサのメールアドレス名。

Mura Masa Mune が2003年に作ったメルアカ、という事です。

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