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30:アクト4、魔王デアゴーン

虚無事件を気にしながらも、コウヤ達はアクト4で魔王との戦いを開始する。

30:アクト4、魔王デアゴーン




ムラマサは遅れに遅れていた仕事に取り掛かり、その日の虚無調査隊には加わらなかった。


今夜の調査には、ブッチー、山田マン、人形姫、一閃、アルパン、キャバ、の六人が出向くようだ。

性能度外視の趣味キャラであるアルパンおじさんと、レベル不足のキャバさんが混じっているのは不安要素だったが、ガチ勢の四人がいるなら、道中の敵には苦労しないだろう。

と、言うか、道中でやられる分にはどうという事はない。死んだっていくらでも取り返しが付くのだから。


「調べ物中」と生存報告をスレッドに書き込み、くれぐれも虚無に接触しないように気をつけてくれと言い残すと、ムラマサは一旦掲示板を閉じた。





「使えるじゃん、ロード!」


水曜の夜、コウヤはノートPCの前で快哉を上げていた。

明らかに、今までと比べて敵の殲滅速度が早い。カナリの使っている号令スキルのお陰で火力が上がっているのだ。


魔王の玉座に辿り着くためには、城の四箇所で中ボスを倒して魔力発生源を破壊する必要がある。

ストーリー的には、魔界の荒野で天使軍が死守している巨大ゲートに送られる魔力をそうやって破壊し、怒った魔王自らが登場、という流れだ。

拡張前の無印版ではラストバトル直前となるため、多少難易度も上がっている。敵が包囲を仕掛けるように大量に出現し、敵軍後衛は様々な属性が入り混じった魔法の弾幕を放ち、前衛には反射ダメージが怖い暗黒騎士が混じる。

ソロプレイだとノーマルとは言え多少苦労する場面だが、五人プレイの優位で、中ボス連戦も次々余裕で倒して回る事が出来た。


次はいよいよ、旧ラスボス、魔王デアゴーンの玉座に殴り込みだ。


『来るぞー! ビームだけは避けろ!』


コウヤが警告を発する。

メインの波動攻撃は回避のしようがないが、耐えられない威力ではない。一番怖い攻撃は、溜めモーションの後で撃ってくる極太のビームだ。

見てから余裕で回避できるが、初見の低レベルプレイヤーを殺し切る程の威力は充分にある。


『周囲を回るように動きながら火力スキルを打ち込めばOK』


コウヤに対抗するように、カナリもより具体的な助言をする。


と、地響きと共に無人の玉座の上にデアゴーンが出現。

二言三言、英語音声でプレイヤーを挑発しながら戦闘を開始する。


デアゴーンは開幕にまず一発、自身の全周囲に超範囲の闇の波動を放ち、魔法体制の低いマヤのスケルトン軍団はあっという間に壊滅。

マヤもこうなる事は分かっていたので、付け焼き刃ではあるが、習得したてのゴースト召喚に切り替える。

スケルトンの残骸を素材にし、数体のゴーストが召喚され、魔法弾を撃ち始める。

カナリの号令があれば火力は充分と判断し、ユウイのドルイドは精霊召喚を体力回復系である「太陽の精霊」に変更。メイン攻撃スキルも、素早く動き回るデアゴーンに命中させるのが難しい溶岩スキルから、範囲攻撃の風スキルに切り替える。

カナリは敵の近接攻撃が届かない適切な距離を保ち、中距離から確実に突き攻撃を命中させていく。素早い動きを活かした立ち回りで、被害を最小限に留めている。

その一方、コウヤとユウリは動き回る敵に対して効率的にダメージを与えるのが難しい状態だった。マヤの呪いスキルがクールタイムを挟んで一定間隔で放たれ、その効果でデアゴーンが鈍足化する所を狙って畳み掛け、ダメージを出していく。

と、魔王が溜めビームを発動。

魔王に群がっていたユウイの狼達が殲滅され、再召喚のため動きが止まる。

その隙に、魔王は突進攻撃でユウイに肉薄。ごっそり体力を減らされてしまう。このまま連続して爪による近接攻撃を受けてしまうと、危ない。

コウヤはダッシュ移動技、「勇壮なる行軍」を使って素早くユウイの援護に入り、「聖騎士の挟持」を発動して敵の攻撃を自分に向けさせる。

爪による連続攻撃を凌ぎ、この隙にユウイは回復ポーションを使用。魔王は直後に全周波動攻撃を放つが、これにもなんとかギリギリ持ちこたえる。

マヤは毒霧でジワジワと敵の体力を削り、呪いで仲間を支援。

コウヤはオーラスキルを「聖なる加護」に切り替えて敵の属性攻撃を軽減させつつ、近接攻撃を狙う。

ユウイは次々ポーションを飲んで狼や精霊をやられる都度補充。攻撃までは中々手が回らないが、補充される狼召喚のお陰で、デアゴーンの攻撃が後衛に向かうのを防げている。

普段は頼れるマヤの骸骨軍団はここでは役に立たず、ゴースト召喚も素材となる死体が無いのでタネ切れ。囮となる召喚NPCが不足する中、この狼の突撃は大きくパーティーの被害軽減に役立っていた。

そして、コウヤが殴り掛かり、カナリが距離を置いて刺し、ユウリが射抜く。

召喚、支援、近距離、中距離、遠距離が上手く噛み合い、魔王の動きを封じつつ、的確にダメージを与えていく。


程なく……


『グオアァァァァァァァァァァァ!!』


『よっしゃー!』

『楽勝ね』

『ごめんあぶかった』

『GJ』

『表クリアおめ』


魔王デアゴーンは断末魔を上げ、焼け崩れるようにして消滅。コアとなる結晶体が残る。

聖者ラーテ改め、天使ラーテがこれを回収に現れ、プレイヤーの奮闘を讃える。

ラーテの手で箱の中に収められた魔王のコアは光を失い、魔王城の放っていたMAP全域の発光が止まる。

魔王のコアはこのまま天界に持ち帰り、未来永劫まで封印し続けると言う。

ラーテは魔界から人間界へのポータルを開き、始まりの町グラストラムへと帰りエンディングを迎える…… のだが、それは無印版の話。

ここでは、ムービーデモを見た後、アクト5に突入する事になる。

これから先は拡張版、カナリの知らない世界だ。


(あのローブの男は現れなかったから、あれがこの先の敵か?)


あえてネタバレを避けて設定を調べなかったユウリも、物語の展開は知らない。

他に敵となりそうな者も存在しないため、アイツがラスボスになるに違いないと考えていた。


そして、ムービーが始まる。



プレイヤーが破壊して回った4つの魔力発生源に、それぞれ一つずつ、ローブの男が石を設置していく。

男は、ラーテが魔界に来て留守になっている間に異次元へと渡り、封印されたコアを奪還していたのだ。

ザンダルナ、ドゥゲム、ナートホープ…… そして、自らのコアを設置し、魔王城の魔力が復活。

魔界の戦場上空に出現すると、自らの持つ次元を切り裂く剣によって天使達の帰り道となるポータルを破壊してしまう。

そして、帰り道を断たれた天使達に魔王軍が襲いかかる一方、人間界へと続く巨大ゲートはついに開き始める。

天使ラーテは「君たちだけでも」とポータルを発動し、プレイヤーは町へと戻される。


グラストラムの町に戻った冒険者達は、遠く彼方の山岳地帯に上がる戦火の煙を目にしていた。


魔王軍本隊がついに地上に出現。ウォリアーの故郷となる北国、バラート王国を襲撃していた。

軍団を率いるのは、やはりあのローブの男。魔王デアゴーンの兄、バルエンであった。


(やっぱりな)


ムービーが終わると、プレイヤーはアクト5の拠点となるバラート王国の城下町に出現する。

城塞都市の防壁はボロボロ、戦士達が慌ただしく戦支度をしていて、いかにも戦争真っ只中という雰囲気。

アクト5では、ウォリアーの国を救うため戦場で大暴れする事になるのだが、キリのいいところで本日のプレイはここまでとする。


『それじゃ、解散して虚無スレ見ようぜ!』


仲間の健闘を称え、感謝を述べてから、コウヤはそそくさとログアウトしていった。

マヤ達は「普段ならもっと遊びたそうにするくせに」と思いつつも、皆事件の顛末が気になっていたので、続いてログアウトしていく。





やはり、山田マン達は何の手立ても打てないまま無駄な時間を過ごしていた。

普段パーティーを指揮する事になれている面々、ムラマサ、カベ、キツネ、マジメイジが不在で、口数の少ない面々が戦力不足のメンバーを連れたまま慣れない連携に苦労し、通常の階ボス撃破にも手こずる有様だった。

そして、消耗しながらも190階で虚無と遭遇。効かない攻撃を延々打ち続け、手持ちの攻撃手段の全てが効果を発揮しない事を再確認するだけに留まった。

下への階段も、やはり存在しない。

虚無はダンジョンを一階一階殺しながら、上へ、上へと移動を続けているのだ。



そんな彼らの苦闘を知りながらも、ムラマサは今それどころでは無かった。


(はぁ…… やっとかよ)


結局、どうしても気になって作業が捗らず、仕事もそこそこに切り上げ、情報収集を再開してしまっていた。


やはり、キツネのメールアドレスは紛失したまま見つからず、ムラマサはすっかり家探しに時間を奪われていた。

ようやくの思いで、部屋の片隅でホコリを被った箱を発見。中からむき出しの内蔵ハードディスクを取り出し、PCと接続。

メールソフトからログファイルを取り出し、現行メールにインポート。そこから「マジホリ」で全検索を掛け、オフ会当時の関連メールを抽出。

キツネのメールアドレスと、同席した数名のメールアドレスを回収する事に成功する。


(疲れた……)


後のことは明日だ。

ムラマサは倒れ込むようにベッドに転がり込み、こうして水曜の夜が終わった。






劇中ゲーム設定回。 

うーん、戦闘パートではあるものの、退屈な回になってしまった感……

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