29:俺達の目標
コウヤ達は「虚無」の存在を知り、大いに盛り上がるのだが……
29:俺達の目標
「これ! これ目指すしかねーだろ!」
「そんなに凄い事ですの?」
「こんなイベント、聞いた事無いですよ。
流石、半分自作ゲームみたいなものだけあって、発想が凄い……」
ユウリから話を聞き、コウヤ達はついに「虚無」の存在を知った。
興奮気味の二人に対し、カナリはイマイチ事の重大さが分かっていなかったが、二人の様子からしてただならない事であるというのだけは理解していた。
あまりの興奮ぶりに周囲のクラスメイト達も何事かと集まって来て、コウヤはスマホ片手に友人達に説明を始める。
そして、ユウリとカナリが再三注意したにも関わらず、担任が授業にやってくるまで騒ぎ続けていたため、下校時間までスマホを没収される羽目になってしまった。
「あー! 今頃どうなってんのか気になるーーーーー!!!」
昼休みになり、コウヤは頭を抱えて嘆いていた。
「まったく…… 自業自得ですわ。
もう少し大人になってもらわないと、私まで同レベルに思われたらどうしてくれるのです!」
「訂正。私達、だよ」
「ユウリ、お前まで……」
優等生コンビの冷ややかな目に、コウヤは返す言葉もない。
同じゲーム仲間とは言え、二人とも真面目過ぎる所があり、こういう時には特に手厳しい。
「しかし、キャラクターそのものを消してしまうボスなんて言うのは、幾ら何でもやりすぎな気がしますね……」
「一回死ねば終わり。それはむしろ自然な気もしますけど、こういったゲームでは珍しい事なのかしら?」
「無いワケじゃないよな? 不可思議ダンジョンシリーズとか」
「そうですね。一度死ねば終わり、というシステムのRPGは確かにそれなりにあって、熱心なファン層も存在します。
マジホリやギアブロにも、ハードコアモードと言って、死=セーブデータ消滅という緊迫感を楽しむモードがあります。
ですが、これらはあくまで、そういうルールだと分かった上で、過酷な条件にプレイヤーが挑むという、事前承諾の上で成り立っている「死」です。
今回のように、今まで当たり前だったルールが何の告知もなく突然変えられてしまうという理不尽な物は過去存在していないはずです。少なくとも、僕は知らない」
「ふぅん…… 数人で作った改造バージョンだからこそ作ることが出来た、不意打ちイベントと言う事かしら。
それは確かに、最初の犠牲者になった人が可哀想になりますわね」
「掲示板の意見では、強制的にハードコアモードに変更してしまう能力を与えたのでは、と推察されてますね」
「どうやったらそんな事できんだ? すげぇな、大人のオタクって」
「権利関係が揉めに揉めた挙げ句、近年になってゲームのソースコードが丸ごと公開されてますからね。
今なら、以前よりもっと高度な改造が可能になっているはずです」
「開発チームが解散して更新が止まっている今、誰かが新たにスクリプトを書き換えた事に誰も気付いていなかった、という事かしら?」
「でも、パッチが来ていませんよ」
「ローカルファイルを弄っていないのなら、サーバーの方に直接?
大胆な犯行ね……」
「そう考えるのが妥当でしょうね。
むしろ今のオンラインゲームでも小規模修正ならそうなる事がありますし」
「二人とも…… 俺に分かるように話して……」
「あら、ごめんなさい? 貴方には難しすぎたかしら?」
そうだ、カナリはゲームにハマるタイプではないというだけで、知識量自体は元々とんでもないのだった。
今更ながらにこの二人の凄さに圧倒され、自分のお馬鹿ぶりに劣等感も感じさせられる。
だから、少なくとも友達として恥ずかしくないくらいには勉強もするし、真面目に先生の言う事も聞く。
自分が、遊びにばかり夢中になるダメなヤツだと言う事は自覚しているから、そんな自分なりに出来るだけの努力をして、最低限の成績は維持してみせる。
あんなヤツと遊んでいるせいでユウリの成績が落ちた、なんて絶対に言わせない。
だから、マジホリに熱中するにしても、宿題はキッチリ終わらせてから遊ぶ。これがコウヤの決めたマイルールだった。
カナリも仲間に加わったのだし、もう少し気を引き締めていかないとな、と、叱られた事にも素直に反省している。
「……という事で、ゲームの設計図が誰でも見られる状態になっているんですよ」
「設計図は外国語で書かれていて、その外国語がスクリプト……って感じなの。分かったかしら?」
「お、おう!」
(ダメだ分かんねえ!)
「分かってませんわね」
「分かってないですね」
「おう! 悪い! 分かってないからな! 後は任せた!」
「まったく、素直に自分の負けを認めるのは良い所なのか悪い所なのか……」
カナリは溜め息をつきながら、内心ほくそ笑み、大いに自尊心を満たされていた。
この優越感を味わうためにこそ必死に学び、知識を蓄えているのだ。この快感のためにも、これからもコウヤに張り付いて勝ち誇り続けてやらねばな、と、改めて決意を強くするカナリであった。
「でも、インフェルノクリアだけでもとんでもなく難しいのに、トップランカーでも何も出来ずに帰るしかないって相手ですよ?
僕らが実際に挑めるようになるのはいつになる事やら」
「そうそう毎日何時間も遊んでいられませんものね」
「こういうのは、何かあんだよ、弱点が。
最強チームが何やっても勝てないって言う事は、まだ何か、誰も思いついてない攻略法があるって事に違いないぜ」
「うーん…… それは、確かに……」
「こんな面白いゲーム作ってるヤツが、ただ単に倒せないだけのキャラデリ鬼畜ボスを出して嫌がらせするか?
攻略法さえ分かれば、意外となんとかなっちゃうパターンじゃねって、俺思うんだよなー」
「物語や映画の中では、そういう展開も確かに多いですわね」
「開発者心理を考えれば、確かにそういう事も有り得るかもしれないですけど……」
「だろー?」
だが、ユウリは多くの熟練プレイヤー同様、別の心配をしていた。
「愉快犯の仕業」である可能性、だ。
オープンソースになっている以上、解析して妙なデータを自作してしまう人間が出てくる事は有り得る。
個人レベルで管理・運用しているサーバーだと、セキュリティも甘いだろう。
ハッキングした何者かが、ただ単に「勝てない敵」を置いていった可能性もある。
そう楽観視は出来ない。
むしろ、プレイ時間を減らしてでもオフライン協力プレイに切り替えるべきなのではないか。
カナリも加わって、新たにやり直すにはいいタイミングだ。
マジホリRSは、もう安心して遊べる環境ではない。
「なんつーか…… この、何が起きてるかわかんないトコが、最高に燃えるんだよ!
な? お前もそう思うだろ?」
「・・・・・・・
確かに、それはあります」
コウヤの言葉に、しばし考え、応える。
ユウリの中にも、確かに滾るものがある。
こんな機会はもう二度と無いかもしれない。
サービス終了後のゲームだからこそ有り得る、オープンソースだからこそ有り得る、MODサーバーだからこそ有り得る、他では味わえない、おそらくはたった一度きりの「祭」だ。
「当面は、今までと変わらずインフェルノが目標。
虚無をどうこうするのはその後、という事でどうでしょうか。
急ぐがあまり、今までのプレイをないがしろにしたくはないですし、これ以上プレイ時間を長く取る事もできませんから」
「ああ、それでいいって!」
ユウリとしては、コウヤの興奮した勢いを受け流した形だ。
インフェルノ到達を目標にするだけでも、ストーリークリアを三周しなければならないのだ。
その間に、事件は誰かが片付けてしまっているだろう。
今はそれより、親友と、妹と、大切な時間を楽しく過ごす方が大切だ。
どうやっても手が届かない世界に慌てて手を伸ばしたって、ロクな事にはならない。
祭は祭として楽しませてもらうが、残念ながら、当事者にはなり得ない。
「カナリさんも、それでいいですよね?
プレイ時間は今までの予定通りという事で」
「ええ、もちろん」
ユウイはともかく、自分も、カナリも、マヤさんも、来年には受験勉強が控えている。いつまでもマジホリにハマり続けてはいられない。
ユウリにとって、今このメンバーでゲームを遊べる時間は、貴重な物なのだ。行ける所まで、無理をせず楽しい気持ちで遊びたい。
虚無との戦いなんて高すぎる目標を目指すと、絶対に無理が出て楽しさが損なわれるはずだ。
少なくとも、RSを開発した者はそういうバランスでゲームを作っている。
「じゃあ、目指せインフェルノ全クリ! 目指せ虚無討伐! って事で!
やったるぜー!」
コウヤは、その「遠さ」を理解していないから、ああやって興奮できる。
その子供らしさを、ユウリは羨ましく思っていた。
自分は、秀才である事を望まれ、こうなる他無かったから。
きっと、それはカナリの方も似たようなものだろう。
無理な言葉遣いに、無理な立ち居振る舞い。本当はもっと子供らしくしたいに違いない。
コウヤに惹かれるのは、あるいは、一緒にいるとその「らしさ」を取り戻せる気がするからか?
そして、それは自分も……
「ユウリさん、子守をする母親の顔になってますわよ」
「っ!?
酷いな! せめて父親と言ってくれ!」
「ほほほ、そこまで貫禄はありませんので」
もうちょっと軽く流すパートにするつもりが、結構長くなってしまいました。
ぼちぼちキャラが勝手に動いてる感じがあります。
プロットが崩れないといいけど…(汗)




