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28:ゲームの外で

晴れて五人目の仲間となったカナリは、コウヤと急接近する。

28:ゲームの外で



翌日、水曜日の朝。クラスの一部女子達は騒然としていた。

コウヤ&ユウリの二人を相手に、カナリが普通に会話しているではないか……

相変わらず中途半端なツンが前面に出て、恋の予感のカケラも感じられない空気ではあるが、顔を合わせるだけで固まってしまっていたつい先日の出来事が嘘のような大健闘。


(これは…… まさか…… 「何かあった」のでは)

(いやいやいや、お嬢様に限ってそんな事は……)


委員長応援団の女子達が大喜びで噂話を始める中、コウヤ達はと言えば、当然マジホリの話題で盛り上がっているのであった。


「フフッ どうかしら? 熟練者向けと言われる君主(ロード)を使って、早くもコウヤくんを追い抜いてしまったのですが?」


「すっげぇな委員長! 俺委員長を仲間に出来てホント良かったよ! 頼もしいぜ!」


レベルを追い抜いた事を勝ち誇るカナリに、コウヤは予想外の笑顔で応える。

今までのカナリなら、こんな言葉を掛けられたら半ばパニック状態となって固まってしまうのが常だったが、今日はどうにも様子が違う。

裏カナリの自尊心が満たされつつ、表カナリの恋心も満たされていたため、安定状態にあるのだ。


「これは……よろしくないかな……」


取り巻きの女子達のように、ユウリもこれを少し離れた位置で見守っていた。


「なんだ、お前も委員長狙いだったのか?」


その時、背後から声を掛けてくる男子がいた。


「クラガ……」


ゲームに負けるとすぐキレて八つ当たりする乱暴者、体育会系男子、クラガだった。

いつぞや、兄と一緒にテレビゲームで遊びたがるユウイがしつこく割り込んで来た時、突き飛ばして泣かせたのもクラガの仕業だった。

教室でカードゲームに負けて「インチキだ」と怒鳴り出した時、後ろで見ていた委員長に戦術のミスを見事に指摘され、論破され、赤っ恥をかいてから、クラスでの立場が総崩れとなり、以来日陰者の男子二人とつるんで、クラスの輪から外れたポジションにいる。

いわゆるイジメっ子タイプだったのだが、今では怒りを溜め込みながら日々耐えるしかないという状態に追いやられていた。

カナリは女子人気があるだけでなく、見た目だけなら普通に美少女なので、近寄りがたい高嶺の花として男子人気も高い。

彼女を敵に回すとなると、クラスの七割が敵に回るだろう。

何度か食って掛かってはみたものの、毎回口で言い負かされ、暴力に訴える訳にもいかず、連戦連敗でこの有様だった。


正直、ここまで嫌われ者になっているのは憐れでもあった。

妹を突き飛ばしたのも、暴力を振るおうと思っての事じゃなかったと理解している。あまりに体格差があるため、力加減が出来なかっただけの事だ。

妹のしつこさにウンザリする事は自分にもあった。今も怒りを感じはするが、クラガの気持ちも分かる。


「まだなんとかしてお嬢様に勝とうって思ってるのかい? やめといた方がいいと思いますが」


心の底から、ユウリはそう思っている。

内心では、妹のため、コウヤとの仲を裂きたい気持ちはある。

が、下手に口出しすると、立場を失うのはこっちの方だ。

第一、コウヤの気持ちはコウヤのものであって、他人がとやかく言えるものではない。


「別にそう言うんじゃねうよ……」


クラガは、あの委員長がコウヤなんぞとイチャイチャしているのが気に入らないだけだった。

成績もイマイチ、チビで、お調子者で、運動神経も平均点。

それが、ゲームの話題であれだけ急接近し始めるとは……

恋愛感情の絡んだ嫉妬心などではなく、クラガの中の陰湿な妬みが、ムクムクと湧き上がっていた。


ユウリと会話を続けるでもなく、クラガは自分の席でじっと静かに、不機嫌な顔で頬杖をついていた。

じっと、静かに、不愉快な会話を盗み聞きする事に集中していた。


マジホリ、アールエス、ランキング、隠しボス、大事件……


随分と興奮した様子で、ますますヒートアップしている。

ユウリもここに加わり、普段の冷静さを欠いた様子で熱く語り始める。


マジホリという名前に聞き覚えはあった。

何日か前、コウヤがしきりにクラスメイトを仲間に引き入れようと声を掛けまくっていた、あのゲームだ。


何をそんなに盛り上がっている?

ゲームだけは上手いコウヤを、門外漢のカナリお嬢様があっという間に追い抜いた、というのも興味深い。


クラガは、注目されていない事をいいことに、教室での使用を禁止されているスマホを取り出し、検索を始めていた。


格闘ゲームなら、俺だって結構な腕前だ。

あの委員長がそれだけ粋がる事が出来るなら、俺にだって……






末端のプレイヤーにまで虚無事件の衝撃が広がっていたその時、ムラマサの努力はゲームと関係のない方向に向けられていた。


15年も前の、RSMOD開発メンバーの個人情報探し、だ。


トップランカーの中でも、一番マジホリ歴が古いのはどうやら自分のようだし、古馴染みのカベがいない今、頼りになるのは自分の記憶くらいのものだ。

リテラシーに欠けていた当時の事、個人情報がダダ漏れになっているのはむしろ当たり前の事だったはずだ。

この辺り、魚拓サービス(サイトを記録保存するサービス。過去に記録された物は過去の状態のまま残る)や、Zちゃんねるのログ補完サイトを調べれば、手がかりは掴めるはずだ。


そう思って調査を開始したものの、これがなかなか骨が折れる。

時間と手間の掛かる作業で、仕事の手も止まり、マジホリの方にも手が回らなくなってしまう。

何の成果も出せないまま一時間以上が過ぎ、休憩がてらにスレッドを眺める。


591 キツネっち ****/**/**(水) 16:17:42.25

 ムラマサの霊圧が消えた……

 おい、生きてるか お前まで消えると困るぞ


ああ、こいつもかなりの古株だっけか。

カベが音信不通になっている今、俺の反応が無い事を心配してくれているのだろう。

一応、オフ会なんぞで顔を合わせた事もあるし、知らない仲でもない。

と言って、別段親しい訳でもないのだが。


キツネは、いつも他のプレイヤーを観察している。

そして、主にランカーを中心としたプレイヤー個々人のキャラを立て、性格付けを誇張して、自分のブログで紹介する。

ブログタイトル、「変態紳士のストーカー忍者道場」の名の通り、好き勝手にプレイヤーを監視・調査し、変態的な記事に仕立て上げている。

本来、勝手に他のプレイヤーをサイト上に晒すのはマナー違反なのだが、読み物として面白いので、怒る者は殆どいなくなった。

なにせ、自分とカベとブッチーとで三角関係のボーイズラブを繰り広げているらしいのだから、誰も本気で受け取らない。

自称変態紳士として、ブログでは日々ロリコン趣味を中心にオタトークを繰り広げているが、キツネが現実には女性である事は知っていたので、BL話の方が本性であると、ムラマサには分かっていた。

オフ会当時でも既に40才は行っているのでは、という年頃だった。今ではもう50代になっているだろうに、相変わらずの愉快にイカレた内容で、嫌いにはなれない。


(個人情報掘りなら、彼女が適任なのでは……)


当時のガチ勢が集まったオフ会には、RS開発メンバーも混じっていた可能性が高い。

RSの開発にあたっては、当時にしては珍しく、一部のメールアドレス以外殆ど個人情報を出さず、メールでのやり取りを主体として制作会議を進めていた。

正体が分からないだけで、実際には当時活躍していたトップランカー中に混じっていたと考えられる。

その辺りの個人情報を、キツネなら持っているのではないか、と思いあたったのだ。

あのキツネの事だから、何か興味を引くネタがあったなら、必ず把握していたはず。


(メール、出してみるか……?)


もっとも、そのメールアドレスが今ではもう分からないのだが。


あるとすれば、二台前、いや、三台前のPCの中か?

確か、バックアップはあったはず。どこにやったか……







これだけは先に言っておきます。クラガはコウヤの仲間にはなりません。

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