26:始まる火曜日、終わる火曜日
コウヤ達は新たに仲間入りしたカナリの新キャラ育成を始める。
26:始まる火曜日、終わる火曜日
CANARIA 君主♀ レベル18
自己を中心とした一定範囲内の味方に強化状態を付与する「号令」スキルを使い、中距離から強力な対単体攻撃を繰り出すロードは、被弾の可能性が高い割に防御力が低く、初心者向けでは無い。
だが、カナリはゲームに不慣れとは思えない立ち回りで、遅れず味方に付いて回り、近接攻撃としては射程が長めの突剣スキルを上手く使いこなしていた。
難易度ノーマルだからこそ倒される心配もなく大胆な立ち回りが可能なのだが、それでもコウヤ達は覚えの速さに驚かされていた。
「まあ、いかにも委員長っぽいキャラだよな」
「何ですの? その言い方は」
コウヤはその王女様キャラがイメージピッタリだと褒めたつもりだったのだが、カナリには通じない。
その日はそのままカナリの新キャラ育成会となり、魔王討伐はまた後日と言う事で終わった。
先輩面をして調子に乗るコウヤに、既に知識で上を行くカナリと言う逆転現象が再び現れ、カナリも満足してゲームを楽しんでいるようだった。
素早く必要なクエストだけを終わらせていく形で、あっという間にアクト3のボス前まで到達。要所のポータルを確保し終えた引率役がいれば、これくらいの速さは出るのだ。
夕方になり、夜の定時プレイはユウリの習い事の都合もあって見送られ、火曜日のマジホリプレイはここまでとなる。
明日からはオンライン経由の定時マジホリ回にも彼女が参加する。「それまでに追いついておく」との事で、どうやら明日にも魔王討伐は果たせそうだった。
「じゃあ、暗くなる前に、そろそろ僕らはこれで」
「またね、コウヤさん!」
「それでは、お世話になりました、お母様」
ユウリ、ユウイ、カナリはPCを片付けて帰り支度を始める。
生真面目な委員長の事だから、きっちり追いついてくるんだろうな、とコウヤは考えていたのだが、そこで「女の子を一人で返すもんじゃありません」と母から叱られる。
仕方ないなぁ、と、面倒臭そうにしながらも、ちゃんと送って行こうとする辺りはコウヤも充分に真面目な性格なのだが、そこで照れたり嬉しそうにしたりはしない辺り、まだまだ子供な証拠だった。
そうして、憤慨するユウイに気付く事もなく、コウヤはカナリと夕暮れの町を歩く。
確かに、暗くなってきてから女子を一人で帰らせるのは良くないな、と、ぼんやりと考えながら、口数の少ない二人の時間を過ごす。
もう迷う道行きでもないので、委員長はコウヤの少し前を歩く。背中越しの散発的な会話に多少退屈しながら、コウヤはその後ろ姿を眺めていた。
「何か喋れよー 委員長~」
「……何を話せと言いますの?」
「明日どうすんのか、とか、色々あんだろ?」
会話は続かず、小さな足音だけが続く。
委員長は普段の怒りっぽい様子も見せず、物静かだった。
自分より背が高く、上品で、クラスの女子の中でも一段大人びた委員長。
こうして静かにしてれば美人に見えるのにな、と、いつもユウリや自分達にガミガミ言ってくる姿との落差を感じていた。
そして、チラリと脳裏に、あの一瞬目にしたスカートの中を思い出してしまう。
色白で、ほっそりとした素足。
体育の授業でいくらでも見ているはずなのに、妙に意識して、記憶に焼き付いてしまっている。
スケベはいけない!と、コウヤは自重し、振り払うようにプルプル頭を振る。
「何です? 人の話、聞いてますの?」
そんな所に急に振り返って話し掛けられ、思わずドキリとさせられる。
彼女の話が耳に入っていなかった自分に驚かされる。
そんなカナリの姿は、夕暮れの色を受け、普段と違って見えた。
僅かに、コウヤの胸は高鳴っていく。
深夜の自動定期メンテナンスが終わり、月曜の夜が明ける。
火曜日、早朝。
在宅でPC作業をしているムラマサには出社・遅刻の心配もなく、結局徹夜して事態の把握に努める事になっていた。
精神的動揺の激しいカベを出来るだけ落ち着けようとメールを繰り返し、とにかく一度寝て出勤出来るようにしろと最後にもう一度念を押した。
キツネもブッチーも掲示板上から姿を消し、色々と可能性を検討していた山田マンも就寝したようだ。
そろそろ自分も限界か、と思いながら、白み始めた窓の外に気付く。
画面上には、情報の断片を箇条書きに並べたメモが開かれたままだ。
ムラマサは保存ボタンを押しながら、これをぼんやりと眺める。
・「無敵の行軍」中に即死 → 鑑定失敗
・半キャラ分程度虚無の後方に出た所に死体 → サーバー処理のラグ分?
・死亡→10秒後に町に戻る→パーティー離脱扱い→CTD→タイトル画面→キャラデリ
・階段消滅 → 下にはもう行けない?
・虚無を回避して階段探し? → 取り残される?
・バグ? 仕様? → 誰も知らない最終イベント? → 管理側の反応無し
・召喚連打で足止めし続ける → マナ足りない → 人間の限界も
・メンテ明け確認事項
>>・階段復活の有無
>>・虚無偵察(出来るだけ早め)
>>・カベのセーブデータロールバック確認 → 本人も心配!
>>・警告の拡散 → 初討伐の欲は出さないこと!
>>・管理人の生存確認 → 復旧できる?
既に幾つかのスレッドに簡単な現状報告と警告を投稿し終えている。閑古鳥の鳴いている自分のブログにも記事をUPした。
あまり情報を拡散させず、謎の新ボスとの戦いは自分達の楽しみにしようと思ってもいたが、もうそんな事も言っていられない。
そもそも、190階まで辿り着けるプレイヤーは自分達の他にはもう殆どいない。意味のない拘りだったのかもしれない。
これはもう、廃人だけの問題に留まらない。
「Zちゃんねる」にも書き込んでこようかと思ったが、もうとっくの昔にマジホリスレは消滅しており、ギアブロⅢスレに書き込むのも場違いであろうし、結局wiki内に警告を出すに留めた。
一応Quitterにも書き込んでおいたが、フォロワーの少ない自分に、どれほど拡散能力があるのやら。
結局のところ、キツネのブログ「変態紳士のストーカー忍者道場」が一番大きなマジホリ廃人コミュニティなのだろう。
俺も彼女のようにプレイ動画を残すようにすべきかもしれない。
カベの……いや、俺達の最大の失敗は、キツネが録画しているからと安心して、個別に動画記録を取っていなかった事だ。
情報となるものが狼狽したカベの証言しかなく、検証としてはいかにも弱い。
確か、ウチのビデオカードでは録画も簡単ではなく、いつか買い換えようと思っていたのだったっけ……
まとまらない思考が眠気の中に陥りつつあり、ムラマサは着替えもせずにベッドに転がった。
消し忘れたムラマサのPCの画面が、夜明け前の薄暗い部屋にぼんやりと光を投げかける。
そこに、ポップアップ音と共に更新通知が現れる。
MHXRSwiki BBS 新規スレッド通知
『はじめまして マジホリRS始めました』
コウヤパートと廃人パートの時系列がズレていたので、サブタイ任せで、多少強引な時間合わせをしました。




