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25:五人目の仲間

カナリはコウヤの家でRSを始める事になるのだが……

25:五人目の仲間



「コピーソフトを受け取る訳には……」


「だから、これはちゃんと合法で……」


カナリに拡張版を含んだ完全番マジホリ(正式名称:マジカルホーリーストレングス+エクスパション・コンプリートパック日本語版)のコピーを手渡す傍ら、あれやこれやの説明をするコウヤ達。

生真面目すぎて頭の固いカナリも、公式サイト上のコピー利用のガイドラインを見て、ようやく納得。引き続き、今度はRSの説明に入る。


「まったくもう…… 運良く安い買い物が出来たと思ったのに、全くの無駄になるとは、残念ですわ……」


たかが980円の出費ではあったが、まさかアクト4で終わる不完全版だとは思ってもみなかった。

持参した英語版パッケージを手にしながら、カナリは目に見えて落胆していた。


カナリにはそう思われてしまっていても、実際の所は不完全版と言う訳ではない。

当時、一万円で売り出された無印マジホリは、PCゲームとしては異例の大ヒット。その人気を受け、一年後に六千円の拡張(エクスパション)パックが発売されたというだけである。

コウヤの父が持っているのは、拡張版発売後しばらくしてから無印(MHC)と拡張版(MHX)をセット販売した時の物だ。

定価12800円。近頃の感覚で見ればかなり高いように思えるが、当時にすればそう珍しい価格でもない。

月額課金の無い買い切りのオンラインゲームである事を考えれば、むしろお手頃感もあった。

少なくとも、コウヤの父はそう思って買ったのだ。


そして、そうこうして準備を進めていると、珍しく早い時間にコウヤの父が帰宅する。


「おっ、新しい女友達か? モテるなぁ、コウヤ~」


父の無神経な言葉に、母が尻をツネッて叱る。

コウヤは慌てたように「ユウリの友達」と説明し、その事でまたカナリの心は傷つけられる。

こういう事はそっと見守るのが一番だと、母には分かっていたから、尻をつねる指に力も入る。


「いてててっ…… 分かったって、軽口は自重するから……

 って、それ…… もしかして!?」


五台のノートPCが並ぶ卓上に、父が駆け寄る。


「無印! 英語版の無印じゃないか!?」


「え? ええ…… アクト4までしか遊べなくて困っていた所なのですが」


「ちょっと、いいかな……」


興奮した面持ちの父に、カナリはそのパッケージを手渡す。


「うっそだろ…… 初回版…… 地図も年表も入ってるじゃないか!」


日本語版にも地図は同梱されていたが、年表の方はローカライズの際に削られている。

つまりは、マニア垂涎、欠品なし美品のコレクターアイテムという事だ。

先行して大ヒットしたオンラインRPG「ギアブロ」の模倣作として、当初大きな注目もされていなかった本作は、ハクスラブームをアテ込んだ野心作ではあったものの、初回生産数がそこまで多かった訳ではない。

しかも、日本国内での流通数となると更に絞られる。

当時はLamazonも無く、輸入ソフトを買うなら専門店に頼る他無かった。父の目も輝こうというものだ。

そのはしゃぎぶりを見つめる母の目は冷ややかだったが……


「このソフト、一万円で買い取らせ……と言うのは、ダメデスヨネ、ハハハ」


そんな母の視線に気付き、父は言いかけた言葉を取り下げざるを得ない。


「あら、私、980円で買いましたのよ?

 完全版を無料で頂いた上、友人宅でご両親に物を売りつける訳にはいきせん。

 どうぞ、差し上げますのでお気になさらずに」


こういう事をキッパリ言える委員長ってカッコイイよな、と、コウヤは感心させられてしまう。

自分だったら、一万円と聞いて喜んで売り飛ばす所なのに、タダでくれてやるとは……


「いけませんよ、お父さん、息子の友達からゲームをせしめるなんて」


「ああ。受け取る訳にはいかない。

 大事に持ってて欲しい。いつか、このゲームの良さと、その価値も分かってくるかもしれないしね。

 何なら、オークションに出してもいいんじゃないか? 少なくとも5000円以上にはなるはずだよ」


既に忘れられかけたゲームなので落札者が出るかどうかは分からないが、おおよその目星をつけて父はそう話した。


「分かりました。

 ご親切にありがとうございます」


丁寧に頭を下げるカナリ。目上の者への礼儀はしっかりしている。

こういう仕草が自然に出来るのが、お嬢様と呼ばれる所以だった。


「ほらほら、父さんはさっさと退場。子供達の会なんですから!」


「分からない事があったら何でも聞くんだぞー!」


「はいはい、退場退場」


母に引っ張られるようにして、父がつまみ出される。

そうしている間にも、テキパキとマヤ達は準備を進めており、無事カナリの赤色のノートパソコンにRSをインストールし終える。


「じゃ、今日は委員長の引率会だな」


「その言い方は気に入りませんが、お世話にならないといけないのでしょうね」


コウヤが偉そうにしているのは気に入らないが、新たにキャラクターを作らなければならないのでは仕方がない。

早く彼らに追いつかなければ、共に戦う仲間にはなれないし、生意気なコウヤの上を行ってギャフンと言わせる事もできない。

アクト4までは一度クリアしているのだし、ここは大人しく楽な引率プレイに乗せてもらうとしよう。






カベの悲報を受け取ったムラマサ達は、それでも諦めずに下への階段を探して奮闘を続けたが、MAPを隅々まで探索し終えても階段は見つからなかった。

虚無の監視を続けていたキツネの負担も大きく、メンテ直前で時間切れも迫る中、四人は諦めざるを得なくなっていた。


『撤退だ』


時間も、精神力も、もう限界だった。

ムラマサがそう告げ、キツネ、ブッチー、山田マンも同意する。

一度情報を整理しなければ、どうしようもない。混乱したまま無謀な賭けに出る訳にもいかない。

おぞましさすら覚える恐怖を抱えながらも、四人はプレイを切り上げ、パーティーを解散した。

もういない仲間ではあるが、この解散は、救助の可能性を捨てるという象徴的な行為となる。

苦悩の末の、悲しみの決断だった。


四人はそれぞれ、共通の恐怖を抱えていた。


(階段は、メンテ後に復活するのか?)


カベのセーブデータが復旧するかどうかの可能性よりも、その恐怖の方が大きくなってしまっていた。

階段が消えたままだとしたら、この先、このダンジョンはどうなってしまうのか。

熟練プレイヤーの自分達ですらこうなのだ。万が一、四層全てが失われてしまったとしたら……?


様々な疑問が尽きないまま、四人はゲームからログアウトし、眠れぬ夜を過ごす事となった。





「ハクスラ」という単語は説明無しに使ってもよかったのだろうか……?

一話に少し説明を加えておくべきだろうか。

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