24:カナリの時間
マジホリ会に参加すべく、カナリはコウヤと二人きりで下校していたのだが……
24:カナリの時間
「では、支度をしてきますので、少しだけ待っていてくださいね」
コウヤと一緒に、ほぼ無言に近い状態で下校した後、自宅に着いたカナリは、感情を押し殺した表情のままマンションの階段を登っていった。
(ふーん…… お嬢様かと思ってたけど……)
意外に普通のマンション暮らしなのだな、と、コウヤはその様子を見上げていた。
階段の下からの角度的に、委員長のスカートの中がチラリと見えてしまって、コウヤは慌てて下を向く。
まあ、体操服を下に着ていたから、何か見えた訳ではないのだが。
しばらくして、カナリは手荷物を入れたバッグを片手に戻ってくる。
階段を降りてくる音に反応して上を見上げたコウヤは、またしてもカナリのスカートの中を直視してしまった。
ただの体操服のズボンである上、自覚なくうっかりした事だとは言え、コウヤはなんだかとてもいけない事をしてしまったような気になってしまう。
「お待たせしたかしら」
「い、いやっ……」
珍しく動揺した態度のコウヤ。
そうだろう、そうだろう、この私と二人きりになってドキドキしないはずがないのだ。
せいぜい緊張するがいい、と、カナリは上機嫌になる。
緊張して何も話せなかった自分は棚に上げて、である。
「委員長、キャラは何使ってんの?」
肝心のマジホリの話もまだロクに聞けていない。自宅への道すがら、コウヤは自分から話し掛けてみた。
「聖騎士を使っています」
「だよな~ いかにも主人公っぽい感じだし! 俺も最初はパラディン選んで、今も使ってるぜ」
「ええ。ああいった画面中央でヒーロー然としたポジションなら、作品を代表するキャラクターとして、扱いやすい無難な性能を与えられているのだろう、と」
「あ、うん」
コウヤが選んだ理由は、ただ単に「カッコイイから」でしかなかったのだが、適当に相槌を返す。
「それでさ、アクト5の行き方が分からないって、どういう事なんだ?
普通に分かると思うんだけど」
「それが分かればわざわざメールなんてしませんわよ。
攻略wikiを見ても、公式サイトを見ても、よく分かりませんでしたし」
「おかしいなぁ…… デアゴーン倒したら次へのポータルが出るはずなんだけど」
「そのポータルに入ったら、最初の町に戻されてしまいましたわ。
難易度ハードのアクト1に飛ばされて、どうしたらいいのかと……」
「うーん…… 俺もそう詳しいわけじゃないけど……
何かのバグか?」
「もしかすると、英語版と日本語OSの相性が悪いのかしら。
ソフトが古すぎて正常に動作しない、とか……」
「ああ、ダメだ。 俺そういうの全然わかんね!
父ちゃんか、ユウリなら分かるかもなぁ」
「何よ、一番最初に始めたのでしょうに、役に立ちませんわね」
「はいはい、バカで悪かった」
やるじゃないか、カナリ! 普通に会話出来ているぞ! と、彼女は自らを称える。
最初は極度の緊張から声を出すのも難しく、コウヤを先導するように前を歩き、背中しか見せていなかったのだが、ここに来て、コウヤの隣に立って会話する事にも成功している。
緊張が長引きすぎた事で、感覚が麻痺してきたのかもしれない。やはり、二人きりの時間を長く作るという判断は大成功だったではないか。
例え、すぐ隣りを歩くコウヤと、目を合わせる事もできず、ずっと不機嫌な顔でそっぽを向いていたとしても……
「あ、ちょっと待てって、こっちこっち」
そんな態度だったから、知らない道を歩いているという事も忘れ、コウヤの手で引き戻されるという事にもなる。
「っ!!」
「意外とドジなんだなぁ、委員長も」
そういって嬉しそうに笑うコウヤ。
(調子に乗るなこのクソガキィ!! 人の失敗がそんなに嬉しいか! ムキィィィィ!!)
オロオロと取り乱しながら、心の中で激しく叫ぶカナリだったが、彼女のパニックは笑われた事が理由ではない。
手を握って、引っ張られた。
力強く、がっしりと握られ、グイッと、引き寄せられたのだ。
脳内に一瞬、王子に手を取られ、抱き寄せられる姫の姿が思い浮かび、直後、全力でそのイメージを消去しに掛かる。
「先に言いなさいよ! ビックリするじゃない!」
「悪ぃ」
顔を真っ赤にして怒りだすほどの事じゃないだろうと思うのだが、コウヤは怒鳴られるがまま、なんとなく謝っていた。
そして、こういう所が無ければ普通に可愛いんだから、ユウリとももっと仲良くなれるだろうにな、と、的はずれな事も考えていた。
この怒りっぽい性格で、マジホリの厳しいゲーム性に耐えられるだろうか?と、心配もし始めていた。
せっかくの新たな仲間。次第に上がっていく難易度に心が折れて去っていく、などという事にならないといいが……
あいつみたいに、勝手に投げ出して他人のせいにするようだと困るぞ、と、コウヤは過去の嫌な出来事も思い出していた。
「ただいまー」
「お邪魔します」
コウヤがカナリを連れて帰宅すると、マヤ、ユウリ、ユウイはもう揃っていて、母がクッキーとお茶を出している所だった。
「あらあら、珍しいお客さんね」
「はじめまして、カナリと申します」
「ええ、ええ、知ってますよ。成績優秀でとても良い子だって、評判ですもの!
ウチの子みたいなお馬鹿さんは迷惑掛けてると思うけど、仲良くしてやってね」
「は、はい!」
「誰がバカだってー!」
動揺するカナリに、憤慨するコウヤ。
一方、マヤ達の方は、既にRSを新たなメンバーに布教する用意を準備万端整え、待ち受けている所だった。
「アクト5、行き方分からないって話、解決した?」
マヤが尋ねる。
「いえ、それが……」
コウヤにしたのと同じ話を繰り返し、訳が分からなくて困っている、と説明する。
「ああ、やっぱりそっか……」
どうやら、マヤには原因に察しがついているようだった。
「朝、パパに聞いてみたんだけど……
それ、拡張パック入ってないでしょ」
「えっ? 拡張……?」
そう、カナリがリサイクル店で手に入れた英語版マジホリは、最初の一年しか流通しなかった初期版。
通称、マジカルホーリーストレングス・クラシック(MHC)だったのだ。
元ネタ分かる人にしか通じないオチかもしれない。
いや、しかし、元ネタ分かってたらとっくに読めてたか……




