23:死、その一瞬
ムラマサの元に届いた悲報。その時、カベの身に何が起きていたのか?!
23:死、その一瞬
ハンドルネーム、カベ。
本名の一部から取った名前だが、彼はそこに拘りを見出し、仲間の壁となるキャラクター……つまり、「タンク」役を目指していた。
キャラクターのクラスはどんなゲームでも防御・耐久性を第一とし、効率を度外視して壁役を務める事を最優先した。
このマジホリRSでは、そんなキャラクターでも最下層をソロで戦えるのが魅力的で、彼は長い時間を掛け、「最硬」の誇りと共に、経験値ランキング18位まで登りつめていた。
重装兵♂ Null_KABE レベル698
ドールマスターである人形姫の召喚したアイアンゴーレムと比べ、体力は倍以上。防御値(マジホリにおける回避補正のようなもの)に至っては三倍超。属性防御も遥かに上回る。
例え虚無との不意の接触が起こったとしても、即死しないだけの自信があった。
なのに、山田マンのような、問答無用で即死を免れないキャラクターが率先して賭けに出た。
自分が名乗り出るべき先行偵察役を、脆いアーチャーが買って出た事に、カベはプライドを失いかけていたと自認した。
だから、一度は階段を降りる役目を交代制にしようという提案に反対し、自分が全てやろうと思っていた。
だが、プライドが揺らいでいたのは他の皆も同じだ。
召喚デコイによる保身の確率や、武器防御による追加回避判定など、それぞれのキャラクターに、それぞれの利点・理由がある。
だから、交代制にも納得した。
193階から194階へ降りる時は、自分の番だった。
ここまで虚無に出会っていないのだから、ここで出会う確率が一番高い。ここで自分に番が回ってきたのは丁度いい。
一番安全性の高い自分が、一番危険な役を買って出る。
カベは自分の流儀を貫ける喜びと共に、勇んで階下に向かったのだ。
二秒ほどの読み込みを挟んで、194階が画面に表示された瞬間、回避不能の距離に虚無が迫っていた。
ファランクスには「無敵の行軍」があるため、「瞬間転移」の装備は持参していない。
この1.5秒無敵になる突進技と、類まれなる耐久性能とで、例え仲間が全滅しようとも自分だけは生き残れる自信がある。
前方、虚無の左右には僅かな隙間があるが、回り込んで避けて通れるかどうかは極めて微妙だ。
接触まであと1秒か、2秒か…… チャットしている時間は無い。決断しなければ!
そして、カベは虚無に向かって「無敵の行軍」を放つ。
突進の移動距離も充分。正面からど真ん中をブチ抜き、虚無の背後に出られるはず。
近接攻撃を命中させ、判定を「鑑定前」から「未確認」に進め、無傷で情報を持って帰れるはずだ。
カベはそう確信し、興奮の面持ちでその一瞬を見つめていた。
そして、虚無と接触。
カベの自信は、絶望に置き換えられる。
瞬間死である。
貫通したと思ったのは一瞬の事で、虚無と重なった状態で、1キャラ分も無い極めて僅かな距離のみ後方に出られただけで、そこに死体が生成される。
「クソがぁぁっ!!」
温厚なカベも、これには罵らざるを得ない。
過去どんなプレイヤーも到達していないであろう最硬の極みに達した自分が、無敵技の最中に即死するだと!?
しかも、輪をかけて最悪な事に、鑑定判定すら成功していない。虚無の外見は、相変わらず白い四角のままだ。
あまりにもの理不尽。カベは画面に向かって激昂していた。
なぜこんな事が起こり得るのか、その原因を推理する間もなく、次の異変に気付く。
「!?」
カベのキャラクターは、その場で蘇生可能な判定を持つ10秒の制限時間を越えたため、自動的に町へと戻されていた。
だが、仲間に救助要請と警告を送ろうにも、仲間のアイコンが画面上に存在しない。
パーティーから抜けた状態になっていたのだ。
どうする?
残り時間は三時間以上ある。再びパーティー加入要請を送れば間に合うはずだ。
自分がこうなっている以上、あの四人はきっと異変を察し、虚無を回避しているはずだ。
マジホリの時代にはまだフレンド登録機能などという気の利いたシステムは無い。
だが、仲間の名前を手入力で直接打ち込み、ウィスパー(個人間チャット)を送れば、ロビーにいない相手ともパーティーが組める。
こういう時、覚えやすい名前の仲間がいるのは有り難い。
カベは、チャットモードをウィスパーに切り替え、PTJOIN MURAMASAMUNE、と入力しようとする。
だが、その入力の途中。
画面が暗転。
カベはタイトル画面に戻されていた。
よりにもよって、こんな時に強制終了バグ!?
いや、だがしかし、CTDからのロールバックが効いているなら、虚無との接触自体無かった事になるはずだ。
再びログインして……
そこで、気付く。
いつもの見慣れたタイトル画面=キャラクター選択画面に、重装兵の姿が見当たらない事に。
重装兵 Null_KABE レベル698 キャラクターロスト。
彼のセーブデータはRSのサーバー上から失われたのだ。
こうして、第一の犠牲者は僅かな接触情報と引き換えに全てを失った。
今回は平行パート無しに、虚無パートのみにしてみました。




