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22/104

22:あり得ない

ムラマサが目にした想定外の事態とは、一体……!?

22:あり得ない



「貴方は! どういうつもりですの!!」


「ハハハ、ごめん…… ほんとごめん」


翌朝、コウヤはこっぴどく委員長に叱られていた。

本来なら、カナリの方がコウヤに教えを請い、仲間に入れてもらう立場。こんな態度を取られるのは理不尽な事ではあるのだが、メールの返信に気付かず寝るという間抜けぶりを見せてしまったのだから仕方ない。コウヤは素直に頭を下げて謝る。


(そうだ! そうしているのがお前にはお似合いなのだ! グハハハハ!!)


カナリはご満悦であった。表の顔も、裏の顔も、どちらも上機嫌である。

一見怒っているようではあるのだが、それが本気では無い事はカナリ応援団の女子達にも分かっていた。

口元の笑みが隠せていない。


「貴方のご自宅を調べるのに一手間掛かってしまったではないですか……

 本日四時でよろしくて? まあ、承りましてよ」


「よっしゃぁ! ありがとう委員長! これで五人目の仲間ゲットだぜ!」


コウヤから目を逸らしながら、少し震える声で言うカナリに、コウヤも満面の笑みで応える。

距離を取って暖かく見守っている女子達も、心の中で祝福のガッツポーズを取る。


そして、これまた少し遠くから、ユウリも溜め息をつきながら顛末を見守る。

住所くらい連絡簿を見れば分かるのだから、後は地図検索すれば大体なんとかなるはず。

つまりは、一人で勝手に来いと言わんばかりの配慮の足り無さに腹を立てているのだ。

ここでコウヤ庇い立てするのは悪手。だから、そっとしておく。


だが、カナリが腹を立てている理由はもっとシンプルで、「コウヤに家まで案内させたかった」という物でしかなかった。

ついにメールのやり取りをする仲にまでこぎ着け、更には一緒に帰宅するという夢を実現できると思っていたのに、肩透かしを食らったが故の怒りであった。

当然、彼女の人格がそんなストレートな理屈を認めるはずもなく、コウヤの不手際をなじる形となって表に現れているのである。


「で、貴方、女子一人に知らない道を歩けとは言いませんわよね?

 道案内、してくれるのでしょう?」


「それくらいお安いご用だぜ! 今日から仲間だかんな!」


顔を反らしたまま、カナリは喜びを堪えた赤い顔を歪め、プルプルと震えていた。

調子に乗った勢いで、ここぞとばかりになけなしの勇気を振り絞り、自宅へ招いた後、コウヤ宅までの二人きりになる事に成功。

ツン人格を上手く制御し、デレ面に勝利させるという稀なる偉業を成し遂げた。

もっとも、この様子ではパニックに陥る寸前のようだったが。


(やれやれ、カナリさんは随分と本気なようだ……)


ユウリは事の先行きを懸念しながらも、これに関わるまいと強く決心する。

お嬢様の大切な一時に邪魔者として加わるのはゴメンだ。


そして、不機嫌に彼らを見つめるのは、ユウリだけではない。

先日よりも更に露骨に、舌打ちしつつ憎悪のこもった目で睨む少年がいた。


コウヤのクラスメイトの中でも一際体格の大きい乱暴者だが、まだ10才。

名を、クラガと言う。







「虚無」を飛び越え、下り階段の前まで戻ったムラマサが目にしたのは、あり得ない光景だった。


階段が、無い。


何がどうなってそうなっているのか全く分からない。


ついさっきまでその場所にあった階段が、消滅している。

そこには、周囲と同じ石の床のドット絵があるだけだ。

階段のあった場所に乗ってみても、何も反応はない。


挑む度に一定パターンの組み合わせによってランダム生成されるダンジョンだが、そのパターンが決まるのはダンジョンに入った時点であり、プレイを終えて一定時間が過ぎるまではそのままだ。パーティー解散前に構成が変化するなどあり得ない事だった。

虚無は触れた物をどこかに転送するという説もある。あるいは、階段もまた転送されたか?

だが、接触対象の転送だとすると、なぜカベはパーティーから抜けた状態になった?

もしかすると、自分自身、自分が知らない間に別のよく似た部屋に転送されたのか? だから階段が無い?

いやそれも違う。たった今飛び越えたばかりの背後に、まだ虚無がいる。


分からない。


分からない。


半ば恐慌状態となったムラマサは、混乱の中で思考をまとめられずにいた。

だがここでリーダーらしく振る舞えなければ、現役ナンバーワンの名が廃る。

最強プレイヤーとしてのプライドが辛うじてムラマサの心を支え、パニックに陥る一歩手前で踏みとどまらせていた。


『山田さん、こっちに来てくれ

 二人は残って虚無の監視』


自分と同じように、階段は消えて見えるのか。まずはそれを確かめたかった。

一方、この怪現象に感じる本能的な不安から、全員をここに呼び集めるのはあまりにもリスクが高すぎると感じていた。

この場所で何かが起きれば全滅だ。

メンテ時間までの死体回収は絶望的となり、全員が装備をロストする事になる。

別行動を取るなら前衛と後衛のペアが望ましい。こっちに呼ぶなら後衛。虚無の監視なら式神を量産できるキツネの方が適任。

呼ぶのはウォリアーではなく、アーチャーの方だ。


と、山田マンのアーチャーがジグラットを使って虚無を飛び越え、ムラマサに合流。ムラマサ同様、言葉を失って立ち尽くす。


『階段、探すか?』


虚無の監視を続けるキツネとブッチーには意味が分からない言葉だったが、今のムラマサには、それだけの言葉を絞り出すのでやっとだった。

階段がどこか別の場所に転送された可能性に賭け、この階を隅々まで探索する他無いと思ったからだ。

カベの救助を諦めるにはまだ早い。

メンテまでまだ三時間以上はある。


『この部屋にあった階段が消えた

 何を言ってるか分からんだろうが、階段は無い

 繰り返す 階段は無い』


山田マンが仲間に事態を説明する。

油断なくキャラを操作し続けているであろうキツネとブッチーからは返事が無い。

動揺して立ち回りをミスったりしないかが心配だ。


『ここにいても何も出来ない

 俺達は階段を探そう

 そっちはどうしたい?』


ブッチーはウォリアーとして出来る限りの手を尽くし、様々な武器やスキルを虚無に当て続け、キツネはせめてもの足止めとばかりに、延々式神を虚無にぶつけ続けていた。

が、この報告を受け、ブッチーは攻撃を停止し、後方に距離を取り始める。キツネもこれに続く。

下がったのは、チャット入力の時間を稼ぐためだ。


『俺も見たい

 そっちに行く』


『早く戻って

 見とくけど、ヤバくなったら逃げるから』


ブッチーも階段の消えた部屋へ飛び、一人残されたキツネは、虚無を牽制しながらジリジリと後退を続ける。

この状態でランダム生成のザコに襲われると、キツネもかなり危険だ。

いっそ虚無は放置して四人で階段を探したい所だが、誰かが虚無を視認していないと事故の確率は一気に跳ね上がる。

視野外の闇の中に虚無を置いておくのは、あまりにも恐ろしすぎる。


『時間はまだある

 三人固まって階段を探そう』


ムラマサの提案はやや消極的だった。

普段なら手分けして探索する状況だが、単独行動のリスクは取りたくないという気持ちが強くなっていた。

それは他のメンバーにしても同じだ。

この異常事態に、皆生存本能を働かせていたのだ。


一番の安全策は勿論、即時撤退だ。

だがしかし、ここでカベを見捨てて帰還するのは、あまりにも恥知らずな行いだ。

そこは嫌われ者のブッチーとて同じ思い。ガチ勢同士のプライドと絆が、撤退をよしとしなかった。



その時だった。



ピーッピーッピーッ! ピーッピーッピーッ!


PCの傍らに置いたスマホが鳴る。

そのメールの差出人と見出しを見て、ムラマサは背筋を凍らせ、マジホリをプレイする手も完全に止まる。


  :Cmail tachikabe@cmail.com

  :カベ

  :キャラ消された


うーん、小学生パートとの温度差がちょっとよろしくないかも?

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